民主党政調会長に聞く
――平成十二年九月九日、民主党の代表選で再選した鳩山由紀夫代表が新執行部を発足させました。その目玉の一つとして四十七歳と若い岡田さんが政調会長に起用されたわけですが、まず、そのときのお気持ちから聞かせてください。
岡田 実感としては、二、三年早くなりすぎたな、という気持ちでした。
ただし、民主党の平均年齢は四十九歳です。わたしよりも、もっと若い人たちがたくさんいる。そういう人たちの励みになるような働きをしないといけないという責任を痛感しています。
――政調会長としての抱負は。
岡田 民主党は、いろいろな政策をそろそろ仕上げる時期にあります。
野党の政策というのは、非常に難しい。自民党と似たような政策を打ち出せば、体よくかすめ取られてしまう。
そうかといって、かつての五五年体制のようにイデオロギーはそんなにちがわないので、まったくできもしない政策をいってすむという存在でもない。
自民党とはちがうが、しかし、夢物語ではない政策を打ち出さなければならない。これまで党内でずっと議論を重ねてきたので、その集大成をつくるのがわたしの仕事だとおもいます。
――やりがいがありますね。
岡田 ただし、わたしは政調会長代理をずっとやってましたので、また政策か、という気がしないでもないですけどね。
――党内には、”政策の岡田”というイメージが強くあるんでしょうね。
岡田 いいか悪いか別ですけどね。
――敵となる自民党の相手は、海千山千の亀井静香政調会長ですよね。菅さんは、テレビ番組の討論会などでも、亀井さんに「遅れてきた田中角栄」などとけっこうズケズケいってましたが、亀井さんをどう見ていますか。
岡田 テレビ討論会などで、おおいに議論したいと思っているんですが、亀井さんとテレビ番組でやりあったのはまだ一回だけなんですよ。亀井さんの作戦なのか、討論番組には代理を出してくる。
まぁ、亀井さんは政策通という感じでもない。基本的には官僚に丸投げしている印象を受けます。
――いっぽう、横路孝弘副代表は、鳩山代表の発言を問題視し、十二月十六日に「鳩山代表が憲法改正に前向きな発言をつづける場合は、代表辞任を求める」と辞任要求の可能性に言及しました
鳩山代表は、「集団的自衛権」に対しては次のように発言している。
「集団的自衛権を一切認めない発想だと、国際的な貢献を十分おこなえない。集団的自衛権を、憲法のなかでしっかりうたう方が本当はいい」
「台湾有事」に対しては、「台湾海峡有事は、将来的に起こりうるケースで、論議しなくてはいけない」
「PKO五原則」については、「戦争が終わった後の停戦監視ではなく、紛争を終結させるために、当事者のどちらかに肩入れしながら、強制的手段で紛争を解決するPKOが、いままで以上に求められる。日本として、参加の道を開くべきではないか」
さらに、「自衛隊の位置づけ」についても、「自衛隊を国軍とすることで、国民の自衛に対する意識も、自衛隊の士気も変わってくる」
これまで横路さんは、執行部の一員ということで公式の場での鳩山批判をひかえてきたようですが、ここにきてなぜ批判を表面化させたのでしょうか。民主党内は、バラバラだという印象を受けますが。
岡田 そうは思わない。昨年(平成十一年)の春ごろ、党の安全保障の基本政策を十枚ほどのペーパーにまとめました。わたしは政調会長代理として事務局長を つとめましたが、党の幹部が参加して二十回近くも会合を開き、四十時間くらいかけて議論をしたんです。その会合には、菅さんも、鳩山さんも、横路さんも、 参加されていた。
――鳩山さんは、横路発言を受け、ただちに側近の仙谷由人企画委員長と対応を協議し、記者団に語っています。
「代表だから(憲法について)いうべきでないというのは、とんでもない話だ。議員一人ひとりが思いを自由にのべるのが、民主党の姿だ」と述べ、発言を自粛する考えがないことを明らかにしていますね。
岡田 わたしは、両者にいい加減にしてほしいとおもっている。
この問題は、年明けに憲法調査会を開き、そこで議論することに決まっていた。それゆえ、鳩山さんはここ二週間くらい、その種の発言をひかえてきたんです。
それなのに、なぜいま横路さんがあのような発言をされたのか、首をかしげざるをえない。いったんおさまった問題を、自らがまた起こしてしまった。
同時に、鳩山さんのおっしゃることも正論ではあるが、いまあえてこのタイミングでいわなければいけないことだとも思えない。鳩山さんは、ご自身の発言が 誤解をよび、かならずしも真意とちがうので憲法調査会という場で党内論議をすることにした。それなのに、また個人的な考えをいうのですか、という気がしま す。
鳩山さんは、代表です。代表がいろいろお話になることで、かえって党内に活発な議論が制約されることもある。普通の議員が発言するのとは、わけがちが う。もう少し党内で議論させてほしい。ある程度、議論が熟したところで、鳩山さんに議論にくわわってもらう。それまでは、しばらく黙っていてもらいたい。
――鳩山さんは、民主党が政権をとったときのことを考えて、そういった問題をもっとはっきりしないといけないという自覚が強すぎるのですか。
岡田 それは、わかりません。いずれにしても、来年夏の参院選を眼の前にして、何にプライオリティー(優先順位)を置くのかということをよく考えてもらわないと困りますよ。
国民の関心が高い財政問題や景気対策などの重点政策を打ち出すべきときに、憲法論を持ち出すのはいかかがなものか。
――公明党の神崎武法代表が、さっそくこの鳩山・横路の対立について、批判してきた。「民主党は重大な問題になると、いつもこのように大きな対立を見せる。国民は、これでは民主党に政権を預けられないと見ています」
民主党は、政権獲得に、いいところまでは攻めるが、かつての新進党のように、またばらけはしまいか、という不安があると思いますが。
岡田 党内的には、まったくそういう感覚はありません。まぁ、双方に対して残念だという気持ちです。いいかげんにしてくれというのが正直なところです。
――憲法や安全保障問題に関して、岡田さんの個人的見解はどのようなものなのですか。
岡田 憲法の解釈を変えて集団的自衛権を認めることは絶対に避けるべきだ、という考えです。
また、憲法を改正してまで集団的自衛権を認めるべきなのかどうかということは、必要ないとおもいます。
――いっぽう、自民党の加藤紘一元幹事長が野党の出す内閣不信任決議案に賛成するかもしれない、という、いわゆる加藤政局についてお聞きします。
今年六月の総選挙後、民主党の若手議員と加藤派の若手議員が勉強会を旗揚げされましたが、岡田さんも参加されていたのですか。
岡田 わたしは、入っていません。わたし自身、自民党の議員との付き合いはありますよ。それは、かつてわたしが自民党にいたとき、政治改革にいっしょに取り組んだひとたちです。
――加藤さんの行動について、民主党内にもいろいろな考え方があったとおもいます。加藤さんが離党するなら、加藤さんを担いでやるのも手ではないか、という声もあったようです。
この問題で菅さんに取材したとき、菅さんはいっていた。
「首班指名選挙がおこなわれたときのことをシミュレーションしてみた。自民党から、仮に加藤さん以外の候補が出たとする。加藤さんら反主流派の人数が、仮に六十人とすれば、主流派は、公明、保守両党をまじえて二百票となる。
民主党は、一回目投票では、当然ながら原則的には党首である鳩山由紀夫を指名する。その数、百二十九票。
他の野党がどう動いても、一位は自民党主流派の推す候補、二位は鳩山さん、三位は加藤さんとなる。
いずれも、過半数に届かない。決戦投票がおこなわれる。しかし、これでは三位の加藤さんは、決戦投票にのぞめない。総理の芽はなくなる。
そこで、加藤さんが自民党を割ることを前提に民主党と政権合意ができれば、加藤さんに一回目から投票することもあると考えた」
岡田さんは、どのように見ていたのですか。
岡田 まず、野党第一党として鳩山代表以外のひとの名前を首班指名で書くなどということはありえません。「加藤紘一と書け」といわれたら、絶対に拒否し た。野党第一党の党首には、それだけの重みがあると思う。政治は、ゲームではない。有権者が見て、わかりにくいことはなるべくやらない。
加藤さんが自民党を飛び出し、政策協定をきちんとしたうえで……というなら、まだ可能性があったかもしれません。
しかし、それは仮定の話です。それに、わたしは、加藤さんが自民党を出る可能性はないとおもっていました。
――どのような点から。
岡田 加藤さん自身も、「自民党を離党する気はない」といっていた。
それに、”保守本流”などという陳腐な言葉に固執しているようでは、われわれの目指すところとはちがうのではないかと思いました。
――最後の土壇場で、加藤さんが踏み切れまいとおもっていましたか。
岡田 今回の政局は、一種のチキンゲームですね。加藤さんは、あそこまで踏み込んで発言したのだから、もう少しがんばるとおもっていましたけど。
それなりの覚悟をし、いざ採決までいけば、野中(広務)さんが、森首相をおろした可能性もあったとおもいます。
――最後までひるまずに、賛成するぞ、という姿勢を貫いていれば、本会議の採決の前に森首相が退陣を表明したと。
岡田 そう思いますね。内閣不信任決議案は、加藤派、山崎派のある程度数が賛成すれば可決した。また可決までいかなくても自民党内の亀裂は修復不可能な決 定的なものとなります。野中さんも、宮沢政権における梶山(静六)幹事長の失敗を見ているだけに、幹事長として、それは避けたとおもいます。
――平成五年六月、政治改革をめぐる動きのなかで、羽田孜・小沢一郎グループは、政治改革法案が成立しなければ離党をする、とちらつかせた。
しかし、梶山幹事長は、「離党するのは小沢をふくめて三、四人だ」と高をくくり、内閣不信任決議案の採決に突っ込んだ。その結果、羽田・小沢グループは まとまって賛成票を投じ、内閣不信任決議案は可決した。羽田・小沢グループは、新生党を結成し、自民党は分裂。自民党は、総選挙で過半数を割り、下野しま した。二度とおなじ経験は踏むまいということですね。
岡田 ええ。
――岡田さんは、羽田・小沢グループの一員として行動をともにされました。
岡田 あのときは、まだ中選挙区でしたので、現在の小選挙区とは、事情がちがうと思います。小選挙区で自民党を離党するのは苦しいと判断したのでしょう。
そもそも、わたしには、自民党を割るとか、自民党の一部と組むとか、そういう発想はまったくありません。
それよりも、民主党が過半数を取ればいいわけです。自民党の古びた人たちと手を組むよりも、新人をどんどん当選させて新しい血を入れたほうがずっといい。
――それは、党内における中心的な考え方だったのですか。それとも、加藤さんが出てくるなら手を組んだほうがいい、と考えるひとのほうが多かったのですか。
岡田 それは、わかりません。が、加藤さんに対して、近い、遠いという距離感はあったと思います。
――岡田さんは、どのような距離感ですか。
岡田 わたしは、加藤さんとは、財政再建論などをはじめ政策的にはかなり近いと思います。
しかし、もともと加藤さんの政策を自民党でやろうというのが無理だ。あれだけ既得権益で固まった自民党内で、加藤さんの政策は実現できません。加藤さん が自民党にいる事自体、矛盾しているんです。本当にやるのなら、自民党を出るべきです。しかし、加藤さんにはその決意はない。
――仮に加藤さんが総理・総裁になっても不可能ですか。
岡田 不可能でしょう。逆に不可能だということがはっきりしないと、総理になれないということでしょうね。現在の主流派の方針を認めるしかないでしょう。
若い議員が本気で自民党を改革したいとおもうのであれば、自分たちで自民党が野党になるための努力をすべきでしょう。野党に落ちない限り、大胆な世代交代を行うことや既得権を捨てることは無理だと思いますが。
――万が一、加藤さんが、自民党にいても駄目だ、数は少なくとも離党して、今度こそ民主党と手を組もうといってきたときに、鳩山さんがいながら加藤さんを担ぐという可能性はあるのですか。
岡田 それは、ありません。
――いっぽう、来年夏の迫った参院選に向けてどのような政策を打ち出したいと考えているのですか。
岡田 基本的な政策と、選挙向けに有権者にわかりやすい政策と両方を打ち出さなければいけない。生活に密着した、わかりやすい政策については、これから順次出していきます。
しかし、われわれが政権を目指す政党としてきちんと答えを出しておかなければいけない基本的な政策は、いま党内で集中的に議論しており、一月二十日の党大会にたたき台を提出することになっています。
――どのようなものなのですか。
岡田 「財政構造改革」「社会保障」「公共事業」「地方分権」「教育」「IT」のいわゆる六本柱です。
――平成十二年六月の総選挙では、「課税最低限の引き下げ」というところだけが目立ちすぎて、国民は、民主党は、野党ながら痛みをともなった政策を打ち出 したということは評価したが、もっとわれわれ国民の将来がどうなるのか、具体的な未来像をしめしてくれよ、と不満だったように思われますが。
岡田 非常にマイナーな部分が、マスコミに大きく取り上げられ、残念でした。もう少し基本的なところを取り上げてもらいたいなと思いましたね。六本柱は、お題目ではなく、具体的なものにします。
たとえば、財政構造改革は、政権獲得後五年間でプライマリーバランスの均衡を確保していくと主張している。
プライマリーバランスの均衡を確保するためには、歳出を一二兆円から一五兆円くらい削減しないといけない。なかなか大変な作業ではありますが、具体的に、どこをどのように変えるのか、というところまで踏み込んで提案できるようにしたい。
――参院選前までには、具体的な数字も出てくるのですか。
岡田 そうしたいとおもいます。この制度をやめるとか、ここはこう変えるという作業をし、削減すべき十数兆円の内訳をつくろうと考えています。
――国民も、具体的なら、苦しいながらもまだ納得しますよね。
岡田 納得するかどうか、わかりませんね。こんなに削られてしまうのか、と思うかもしれません。
しかし、増税を避けるためにはこの道しかないですよ、という提案にはなります。そのことをきちんとメッセージとして伝えたい。
――地方分権については。
岡田 われわれは、財源の分権を中心に据えるべきだと主張しているが、どこをどのように分権するのかというところまで踏み込んで提案したい。
――ITについては。
岡田 デジタルディバイト(格差)の問題など陰の部分に焦点を当てて、そこをいかに克服していくのか、という提案ですね。
そして、競争政策までもっていく。いろいろ議論があると思いますが、インターネットを世界最高水準のスピードと容量にするには、相当な競争政策をやっていかないと駄目です。そこをどこまで踏み込めるか、ということですね。
――党内に反対意見がありますか。
岡田 これは、雇用の問題とつながってきますからね。
――社民党系の議員の反発が強いのですか。
岡田 それは、あまり関係ない。ただし、われわれは働く人たちに応援してもらっています。そこもおさえて考えていかないといけない。自由競争で、どんどん失業者を増やしていいということではないと思います。
――公共投資については、自民党の亀井政調会長が大幅な見直しをされていますが。
岡田 あれは、マスコミがおかしい。あれは、にっちもさっちもいかなくなり、すでに中止や凍結が決まっているものを並べているだけですよ。
それでいて、予算額は削らないということもおっしゃっている。それではまったく意味がない。
公共事業は、ほんらいやるべきでないことについて、また、いまやっているものまでもふくめて見直していくべきです。
もうひとつは、談合をいかに排除していくか。談合を排除すれば、コストが一割くらい下がりますからね。そのことは与党はいえませんよ。
――公共事業は、自民党の最大の利権ですからね。
岡田 ええ。談合を排除し、きちんと競争入札にする。
三つ目は、たとえば小学校の改築まで国が箇所づけするのではなく、分権して地方に任せる。国道についても、二桁の号線までは主要国道なので国が管理してもいい。しかし、三桁の号線はすべて都道府県に任せる。
じつは、これは、政府の地方分権推進委員会が原案としてつくったものです。それがいつのまにかなくなってしまった。そういうことを、われわれは具体的に主張していく。
――耳障りのいいことがいえないというのも辛いところですね。厳しいことを打ち出していくわけでしょう。
岡田 辛いところですが、それが野党第一党の使命だと思います。それが、国民の信頼感につながると思う。
――自民党は、長期的にみれば低落傾向にあります。民主党が勢いを増し、やがて政権を取る日も、そう遠くないと考えているのですか。
岡田 とにかく、次の総選挙で勝つことです。簡単なことではありませんが、それをやり遂げないと政権はまわってこない。
――衆議院の渡部恒三副議長は、「新進党が解党さえしなければ、いまごろ政権を取っていた」といわれますが、新進党に属していた岡田さんは、新進党と、いまの民主党は、どこがちがうと思われますか。
岡田 民主党には、新進党のような本質的な党内の対立の構造ない。
それに、党の運営方法もちがう。新進党は、上意下達のトップダウンだった。
しかし、民主党は、いろいろな人が議論しながら物事を決めていくというボトムアップで風通しがいい。政権をとろうという意欲もある。そこが、新進党とはかなりちがうとおもう。
――民主党には、若手議員が多い。自民党の渡辺喜美さんは、「若い人材が次々にそろっていくという意味においては、おれたちは、民主党が怖いよ」といっていました。
岡田 五十五歳以下なら、自民党に絶対に負けていない。民主党のほうが、はるかに人材がそろっているとおもう。
――自民党には、若手の有望株が入っていきにくいようですね。
岡田 自民党には二世が多く、小選挙区のもとでは、二世以外のひとはなかなか公認されませんからね。
――いっぽう、自民党が失点を重ねているにもかかわらず、なぜ民主党の支持率が上がらないのでしょうか。渡部副議長が、国民は「自民党よ、さようなら」と いう気にまではなっているが、かといって「民主党よ、こんにちわ」という気持ちにまではなっていない、といっていますが。
岡田 ヨーロッパの国々を見ても、政権交代は、野党の得点よりも、与党の失点で起こる。
与党は、いま失点をつづけている。国民から、民主党に任せても大丈夫と思われるような政策を打ち出し、人材を育てないといけない。
鳩山さんと菅さんの二人のリーダーは、だれが見ても森首相より優れている。が、もっと日本のトップリーダーとしてふさわしい器であるということを国民にわかってもらえるだけの努力をしてほしいとおもう。
――わたしは、鳩山さんには、リーダーとしての決断力があると評価している。民主党結成のとき、かつての仲間である武村(正義)さんをも切り捨てた。よほどの決断力がないかぎり、できることではない。
が、力強さというものが、いまひとつない国民に見えないように映るのですが。
岡田 人間に、すべてを求めるのは無理なんです。鳩山さんには、自信をもって前に進んでもらいたいと思います。