イラン訪問〜モッタキ外務大臣との会談要旨
モッタキ外相 日本人は個人の利益よりも集団の利益を優先する国民と思う。5年間駐日大使として、こうしたことを近くから観察させて頂いた。
岡田元代表 日本では、イランの問題が種々議論されている。米国や欧州の声は聞こえてくるが、直接イランの人々の声を聞くことが大事だと考え今回訪問した。おそらく意見の違いはあろうが、イランの意見を聞く謙虚さは持っていたい。
モッタキ外相 聖なるコーランの一節にも「皆の話を聞く者に、私(アラー)からの恵みを伝えよ」とある。
モッタキ外相 核問題は、現在国際社会の重要な問題となっている。この問題についての懸念は、核開発が核兵器開発につながらないかとの懸念である。
この場を借りて、昨年の国連総会でのイラン提案に触れたい。濃縮活動の透明性を確保するこの提案に反対したのは核保有国である。イランは、自らの思想、合理的思考からも核兵器、大量破壊兵器に反対せねばならない。イラクとの押しつけられた戦争で、フセインはイランに対し化学兵器を使用した。その際、イラン国内の中にも、フセインへの対抗から化学兵器を使用するべきと主張する人々がいたが、ホメイニ師は承諾しなかった。イランの軍事戦略の中には核のオプションは存在しない。イランはIAEAからの種々の質問に答えており、これからもIAEAとの協力を続ける用意がある。
核問題において他の重要な側面は各国の権利である。平和的核利用はイランの権利であり、その権利をある国が否定している。4年前にイランの核活動に疑念が提示されたときから、イランはIAEA及び欧州との協力を大規模に継続してきた。その際、信頼醸成が必要であると言われたので、3年近く自発的に全ての核活動を停止してきた。しかし、イランにとって問題なのは信頼醸成の定義が不明ということである。信頼醸成がどれくらいの期間なのかも不明である。米国はもちろんであるが、欧州も信頼できない。なぜなら、欧州もイランの平和的核開発の権利を認めていないからである。簡単に申し上げると、米国は自分は核兵器を持つ権利があるが、イランには平和的核開発の権利はないと述べているのである。イランは自らの権利を放棄することは絶対にない。同時にイランは対話を好む国民でもある。イランには一万年の歴史、豊かな文明・文化があり、その豊かさの中で合理的対話を通じ自らを築いてきた。イランの主張は合理的で明確であると思う。
イランは5%までの濃縮を実現すると述べ、現在は4.8%を達成している。パイロット・プラントでの活動もIAEAに報告している。原子力分野での研究を行っているからといって、ある国を安保理に付託するのは国際社会にとりよいことではない。イランはご承知の通り、164基の遠心分離器を稼働させたが、更に2つのカスケードで活動する用意があり、これはIAEAの監視下で行うこととなっている。今述べた程度の遠心分離器の数では核燃料は生産できない。燃料生産のためには産業規模の濃縮を行う必要がある。
繰り返しになるが、イランの核活動は完全に平和目的である。革命後の27年間、イランはWMD、核兵器なしで体制を維持してきた。イランは核兵器は正しくもなく、有効でもないと考えている。イランには、交渉の用意がある。この問題解決のために日本の一層の役割を期待している。現在、独、仏、中国、ロシア等と協議している。核問題に関し、日本は米国などとも緊密に協議しているので、イラン・米国の間に立って問題解決ができると思う。
岡田元代表 まず最後の点を確認したい。164という遠心分離器の規模はこれ以上拡大することはないということか。
モッタキ外相 IAEAの監視下において、後2つの164器の遠心分離器のユニットを作ろうとしている。研究活動を継続すれば、完全なパイロット・プラントの規模が必要となろう。それは500器の遠心分離器、3,000器の遠心分離器とも言われている。
岡田元代表 164器のカスケード3つで止まるのか、それとも更に研究開発のために拡大しようというのか。
モッタキ外相 3つのユニットを作ると述べたが、それで約500器となる。しかし完全なパイロット・プラントのためには3,000器が必要とも言われている。
岡田元代表 産業規模濃縮は、原発完工まで行わないとしても、研究開発と産業規模濃縮の境目ははっきりしないので、そういう意味でも国際社会は懸念している。
モッタキ外相 3,000器以上となると、産業規模濃縮と言う人もいる。
岡田元代表 核不拡散体制が危機にあるというのは事実と思う。特に現在の核保有国が削減努力を十分果たしていないこともその通りと思う。例えば、米国はCTBTを批准していないし、先制攻撃を否定していないことも大きな問題である。そういう中、インド、パキスタンが核を保有して核不拡散体制が危機に瀕している。国際社会が心配しているのは、中東の大国であるイランまでも核を保有するなら不拡散体制は完全に崩壊しかねないことである。国際社会の懸念に対し、イランはしっかりと応える必要があると思う。先ほどの貴外相の話では、核兵器を持たないとのイランの説明があったが、例えば核の保有を絶対にしないと宣言した日本ですら疑いの目で見られ続けてきた。IAEAの査察の大きな部分が日本向けであったことは歴史的事実である。それだけにイランの核問題を世界が懸念している。是非この懸念を解く努力をして頂きたい。5%まで濃縮と述べられたが、見えないところで別の活動をしていると疑っている国があるかもしれない。あるいは研究開発プラントとしたが、産業規模濃縮との境目は必ずしもはっきりしていない。米国だけが疑っているのならともかく、欧州も、日本も含めて懸念を持っていることを是非考えて頂きたい。核の軍事的利用を行わないというのが本当なら、一旦濃縮を止めるのも考えて頂いて良い選択肢ではないか。
モッタキ外相 どのくらいか。
岡田元代表 期間については、止めるとはっきり述べれば国際的な議論のテーマになると思う。
モッタキ外相 1週間、1ヶ月、1年、10年、それがある程度明確でなければならない。イランは3年間全ての活動を停止し、1,200人・日の査察を受けてきた。しかし、米国はイランの権利を無視している。今発言を伺って、なぜ日本も懸念しているのか驚いている。イランから数百キロしか離れていないイスラエルが200発以上の核弾頭を保有している状況で、なぜ懸念がそちらに向かないのか。明確に述べたいが、IAEAのいう未解決の問題が問題なのではなく、政治的意図が問題なのである。イランは日本や他の国とコンソーシアムを作り、全ての核活動に関し共同運営する用意がある。米国は新たな危機を地域にもたらし、中国からパレスチナまで戦線を拡大しようとしている。イランは核兵器を絶対に作らない。それ以外のことは各国と協力できる。
岡田元代表 米国もイラクやアフガニスタンで色々失敗したので、少し考え直しているところがあるかもしれない。私及び民主党はイラク戦争に反対した。国際的合意がない中での一方的武力行使は認めるべきではない。ただイランが核武装するのではとの懸念は米国のみならず欧州も含め共通の懸念であることも事実である。安保理での議論が非公式に始まるが、そうした流れの一歩先を行く先取りの提案でないと、後追いの提案では解決には結びつかない。
モッタキ外相 イランは既に提案を提示している。イランは問題を安保理からIAEAに戻すべきと提案している。そうすれば、イランは停止した協力を再開する。
岡田元代表 安保理は規定の路線である。その中で「IAEAに戻せ」とは後追いの提案でしかないと思う。一旦失われた信頼を取り戻すことは非常に難しい。そのためにも一歩進んだ提案が望まれる。核武装する気持ちが本当にないのであれば、妥協は可能と思う。妥協を行わないまま世界が混乱することは、世界にとってもイラン国民、日本にとっても不幸なことである。
モッタキ外相 停止するとどうなると思うか。
岡田元代表 先に会談したボルジェルディ委員長は10年の停止は長すぎると述べたが、私はもっと短い期間で、国際社会がイランが核武装しないという確認作業をすれば良いと思う。
モッタキ外相 信頼は双方向であるべきだ。イランは信頼醸成のために全てのことを行った。今は欧州の番である。我々は欧州に対し、もはや手遅れであるなどと言ってはいない。欧州が懸念しているのであれば、交渉に戻るべきである。
岡田元代表 EU3も何とか妥協したいと大変な努力をしてきたと思う。イラク戦争であれだけ反対した独仏も含め、この問題で米国に近い立場に立っていることは、十分な説明がイランにできていないということと思う。
モッタキ外相 欧州との交渉で、欧州は「濃縮を停止せよ」の1点のみを要求してきた。そして「その後はどうなるのか」とのイランの問いに何も答えていない。岡田元代表からも答えを頂けなかった。即ち、彼等にとり停止は目的に達するための手段ではなく、そのものなのである。国際社会の目的は、イランの活動の完全な停止であり、安保理付託は政治的行動である。イシューがIAEAに戻ればイランも協力する。
岡田元代表 安保理での議論は決まったことであり、これが変わることはない。今の貴大臣の主張は、具体的に欧州、米国、日本も含めイランに対しこういう行動をとるようにとの要求が具体化するのであれば、濃縮を停止する用意があるとの理解でよいか。
モッタキ外相 濃縮は研究開発レベルであり、研究レベルの濃縮は停止しても意味がない。産業規模濃縮についての交渉はできる。イランの忍耐にも限度がある。
岡田元代表 しかし、その間にIAEA保障措置協定違反という事実もあったと思う。何があっても現在の濃縮を止めないと言い切ってしまうと、なかなか話し合いの余地は生まれてこない。
モッタキ外相 現在研究レベルの濃縮を行っている段階であり、その停止はできない。相手側からも明確な動きが必要である。
岡田元代表 明確な動きがあれば停止できるのか。
モッタキ外相 イランは交渉する用意があるが、その内容は、イランの権利の確保のための交渉、平和的活動から逸脱しないための保証の交渉、NPT枠組みの内容確保の交渉である。日本はテーブルの上に提案を示すべきである。次回はイランに対し是非提案を出してもらいたい。
岡田元代表 今日は言い争いをするために来たのではなく、日本にとり重要なイランが国際的に孤立化することがないよう心からそう思ってきた。
モッタキ外相 善意に感謝する。イランは日本との友好関係を重視しており、このような意見交換の機会の増加を望む。日本人は友人になるまでは時間がかかるが、一旦友人になれば信頼できる人たちである。日本は歴史上イランに対し何ら否定的なことをしていない。また、現在のイランの指導部には知日家が多い。イランは、日本のエネルギー確保において信頼しうるパートナーである。また日本はイランにとって信頼しうる経済パートナーである。本日の会談が言い争いだったなどとは思っていない。
岡田元代表 今年の夏の大ペルシャ展は大きな評判となると思う。当地においても日本の観光客から随分と声をかけられた。日本の人たちはイランの文化を尊敬し好意を抱いている。
モッタキ外相 イランは地域の平和実現に努力している。イラクの政権形成においてもイランの協力が良い結果をもたらしたと思う。イランの周りは、ナゴルノカラバフ、アフガニスタン、クウェート、イラクと危機に満ちていたが、イランはそれらを悪用しはしなかった。イランは地域の安定・平和を実現させたいと決意しており、このイランの平和を目指しているとの意志を信じて欲しい。麻生大臣のイラン訪問も招待しているが、これは重要な機会となろう。