訪韓で感じた朴大統領の対日関係改善への強い思い 安倍首相は熟慮を(夕刊フジコラム「ズバリ直球」15年8月6日)
韓国を訪問して、朴槿恵(パク・クネ)大統領と会談してきた。朴氏とは過去に4、5回会っており、旧知の間柄だ。夏休み明けの3日午前、快く会談に応じてくれた。
私は現在の日韓関係を大変心配している。安倍晋三首相と朴氏の首脳会談がいまだ開催できていないうえ、世論調査では、両国民の7割前後が相手国に「親しみを感じない」「悪い印象」と答えている。民主党政権の後半までは「親しみを感じる」と答える人が6割いたが、国民感情はすっかり悪化してしまった。
韓国は基本的価値を共有する隣国だ。民主主義国家であり、世界有数の経済力を持っている。日韓が協力することは、両国にとって大きなメリットがある。日韓関係の改善、連携強化は、朝鮮半島有事の対応を円滑にし、中国にも強い交渉力を持てる。米国も望んでいることだ。
こうしたことを踏まえて、約40分間、さまざまな議論をした。
朴氏は特に、安倍首相が近く出す戦後70年談話について触れ、首相談話が、河野談話や村山談話、菅談話の認識を踏まえたものになれば、両国関係が未来に向かう基盤になる、と語った。
私は、1998年に小渕恵三首相と金大中大統領が「未来志向的な関係を発展させるための互いの努力」の必要性を確認した日韓共同宣言を挙げて、「これも重要だ。この原点に立ち返るべきだ」と伝えた。
慰安婦問題では、朴氏は、(元慰安婦は高齢であり)急いで解決しなければならない、事実上、今が解決のためのラストチャンスであるとした。私は「日本の政治家として申し訳なく、恥ずかしいことだ。ただし、和解には双方の努力が必要であり、お互いが歩み寄ることで、より良い解決が図られることを望んでいる」と伝えた。
注目すべきは、朴氏が今回、「植民地支配」や「謝罪」といった言葉にあえて言及しなかったことだ。そして、今年を(日韓関係の)「前進元年」にしたい、と語った。これらが何を意味するかは、日本政府もよく考えてほしい。ともかく、日韓関係改善への強い意気込みを感じた。
こうしたなか、安倍首相が発表する戦後70年談話は、日韓両国だけでなく、国際社会にも影響を及ぼすものだ。対応を誤ると、歴代内閣が築き上げてきたものを壊しかねない。日本国民、日韓関係、そして国際社会にとって良い談話となるよう、安倍首相には十分熟慮してほしい。
約100年前、日本では民主主義的な言論や運動が活発に行われ、「大正デモクラシー」と呼ばれた。それから、わずか30年足らずで軍部の台頭を許し、戦争、そして敗戦へと突き進んだ。一体誰に予想できただろうか。「今と昔は違う」といった安易な発想は極めて危険だ。そのことを、70回目の8月15日に改めて胸に刻みたい。
安全保障関連法案の国会審議では、野党の質問に、言い逃れや時間稼ぎの答弁ばかりが目立つ。戦後の安保政策を大転換させる法案なのに、国民に向かって真剣に説明し、理解を得ようという姿勢がまるで見えない。安倍内閣が国民の理解を得られないなら、安保法案は廃案にするしかない。 (民主党代表)