日米貿易協定─残された大きな疑問
日米貿易協定が19日の衆議院本会議で可決されました。十分な審議時間もなく、かつ野党が求めた基本的な資料すら提出がないまま採決されたことに強く懸念しています。
様々な問題が指摘されていますが、私が特に疑問に思っているのは、(1)自動車・自動車部品関税は本当に撤廃されるのか、(2)米国通商拡大法に基づく追加関税や数量規制が行われることはないのか、という2点で、いずれも本協定の根幹に関わることです。
第1点は、まず、TPPにおいては、米国の自動車部品関税は即時撤廃、乗用車については25年目、トラックについては30年目でそれぞれゼロとすると決まっていました。
これを政府は、「自動車は電動化・自動走行による変革期にある」として、撤廃することは日米間で合意しているが、その具体的時期は今後交渉するとしています。そして、茂木外務大臣は、「部品構成やその重要度が今後何年かで決まってくるから、それを見極めて交渉する」としています。すなわち、すぐには交渉しないということを明らかにしているのです。
確かに、トランプ大統領が自動車・自動車部品の関税を下げることに同意することは考えにくいことです。下手に交渉して追加関税をかけられるリスクを取るより、時間をかけ、大統領選挙の後にまで先送りすることが得策と考えているのでしょう。しかし、国民に対して、自動車・自動車部品の関税撤廃は合意されたという、事実に反する説明をすることは許されません。
そもそも、事実上すべて(90%以上とされている)の関税を撤廃しない限り、地域的貿易協定を認めないというのがWTO協定であり、期限のない交渉先送りはこれに明白に違反することになります。関税撤廃の合意を偽装し、WTO協定の悪質な抜け道をつくることの、世界の自由貿易体制に及ぼすマイナスは大きいと言わざるを得ません。
第2点は、自動車・自動車部品に関する通商拡大法に基づく追加関税を行わないことは、安倍総理とトランプ大統領の間で確認され、数量規制をしないことについては茂木大臣とライトハイザー通商代表で合意されている、というのが政府の説明です。しかし、具体的にどのように合意したのか、明確な説明がなされていないのです。
私との衆院外務委員会でのやり取りで、茂木大臣は「WTOに整合的でない、そういう数量規制、輸出自主制限等の措置を課すことはない。こういったことを確認している」と答弁しました。しかし、これでは何の約束にもなっていません。
米国は、通商拡大法に基づく追加関税や数量規制について、WTOに反するものとはそもそも考えていません。「WTOに整合的でない」という限定を付けてしまった以上、今後、米国がWTOに整合的であると考える追加関税、数量規制を一方的に行うことについて何の歯止めにもならないのです。
このように、WinWinの日米貿易協定という政府の説明は、実質とかけ離れており、米国の攻勢の前に何とか体面を取り繕ったというのが現実ではないかと考えています。すでに農産品に対する関税引き下げというカードを切ってしまった日本が、今後の交渉において、果たして国益を守ることができるのか、大きな疑問が残る日米貿易協定と言わざるを得ません。
ほんとに今回の採決には納得できません
外務委員会での審議拒否も最もなことだと思います