121回 衆議院・国際平和協力等に関する特別委員会
岡田(克)委員 本法案の質疑に先立ちまして、きょうで四日目にこの委員会はなると思いますが、この特別委員会に連日参加をさせていただいて、そして与野党の先輩の先生方の質疑を聞いておりましたその率直な感想をまず一言述べさせていただきたいと思うわけでございます。
本委員会で本法案と憲法の問題ということが一つの焦点になっております。もちろん立法機関である国会が法律を審議する際に、その元締めである憲法との関係について、その憲法の範囲内かどうかを慎重に議論をするということはこれは当然必要なことでありますから、十分たる審議をしていただきたい、こういう気持ちでございます。しかし、他方で、審議を聞いておりますと、どうも憲法との議論にやや偏りがあり過ぎるのではないかな、率直に申し上げてそういう気持ちがすることも事実であります。
本来最も重要なことは何かと言えば、憲法との関係、これももちろん重要でありますけれども、その前に議論としてあるべきは、この法案がどうして必要なのか、言葉をかえれば国連のPKO活動に対して我が国が参加をすることが国家国民の見地から見て必要かどうかというその議論がまず第一義的にあるべきだと私は思うわけでございます。今、私の考えを細かく述べるつもりはございませんけれども、現下の国際情勢とそして我が国の置かれた立場というものを考えれば、私は国際連合を中心とした国際平和活動のための努力に対して、お金と物だけではなくて人の面でも一歩進んで貢献をすべきことは当然である、こういう気持ちでいるわけでございます。
この点につきまして果たしてこの場での質疑をされた皆さんかどういう気持ちでおられるのかというのが、質疑をお伺いしている限りでははっきりしない部分があったのは大変残念なことでございます。まず国連のPKO活動に対する我が国の参加という問題を一体どう考えるのかという根本論があって、その点について共通の認識がなければ、私は、憲法との関係とかその他いろいろな問題を議論したところで結局はそれはかみ合わない、本質的な意味での歩み寄りは見られない、こういう気がしてならないわけでございます。
もし我が国がPKO活動に積極的に参加すべきである、そういう共通の認識ができたのであれば、それじゃその上で、今の憲法でこれが許されるのかどうか、こういう議論をすべきだと私は思います。私はもちろん現行憲法上でこの法案が十分に枠内に入っている、こういうふうに確信をしておりますけれども、もし、そうじゃない、現行憲法上この法案がはみ出している、そういう御意見をお持ちの方がいらっしゃるのであれば、そしてなおかつ我が国が国連のPKO活動に参加することが必要である、そういうふうにお考えであれば、それはむしろ憲法を変える、そういう考えだってあっていいのかもしれません。私はそれが本筋の議論だと思うわけでございます。
要するに、ずっとこの議論を聞いておりましてどうもよくわからないのは、何か今の憲法というものが絶対的な存在としてまずあって、そしてその枠内で読めるのか読めないのかということが極めて技術的にあるいは法解釈的に議論されている、こういうふうに思われるわけでございます。私は戦後生まれの世代の一人でありますけれども、同世代の友人とこのPKO法案について、国会の質疑についていろいろ議論をしておりますと、どうも国会のやっていることはわからないな、こういう意見が多いわけであります。
本来、憲法というのは国民が制定したものであります。そして、そのときどきの時代的な変化に応じてもっと柔軟に、解釈もそして場合によっては法文そのものも変えていくべきものであると私は思います。間もなく戦後半世紀を経るわけでありますけれども、この間一字一句たりとも修正を加えずに五十年前の憲法をそのまま引きずっているということに私はむしろ奇妙な感じを抱くわけでございます。憲法改正を口にすると、それだけで、いや憲法は絶対であるとか、憲法改正を口にすることが何か反動的なような印象でとらえられるということは私にとって非常に残念でありまして、むしろそういう風潮こそが我が国の民主主義の根の浅さというものをあらわしているのではないか、そういう気がするわけでございます。憲法が不磨の大典である、神聖にして侵すべからず、これは戦前の考え方であります。それはまさしく戦前の帝国憲法の考え方であって、議会制民主主義の国においては、憲法のあり方について常に議論をする、それが本来の姿であると私は思うわけでございます。
これは憲法九条に限ったことではありません。いずれの条項であれ、もっと自由にこの国会の場でも議論できる、そういう雰囲気が私は欲しいと思うわけでありますし、先ほど戦後生まれの者に何がわかるかというお話もありますけれども、それであれば、我々は国民の負託を受けて国会議員として出てきているのでありますから、我々に黙れと言うのと同じであります。それが果たして民主主義と言えるのでありましょうか。また、そういう自由な議論をするという雰囲気の中で、初めて本来の意味での憲法を尊重する、そういう感覚が国民め間でももっと浸透していく、養われていくのではないか、こういう気が私はしているわけでございます。
そろそろ本論に入りたいと思います。
さて、今の憲法六十五条は「行政権は、内閣に属する。」こういうふうに明確に規定をしているわけでございます。そして、同じく憲法第七十三条は、具体的に、例えば法律の執行でありますとか国務の総理でありますとか外交関係の処理、こういった事柄を内閣の権限として、職務として個別列挙をしているわけでございます。そして、その中で条約の締結に関しては第三号ただし書きによっていわば例外が置かれておりまして、国会の承認を必要とする、こういうふうに書かれているわけでございます。
すなわち、この憲法六十五条と七十三条を貫く考え方といいますのは、私の理解によれば、行政権というのは本来内閣の権限である、そして法律の執行に当たっては本来国会の承認は必要がない、こういうことが大原則としてその思想としてある、私はそういうふうに思うわけでございます。本来、今の憲法で立法権限を国会に、そして行政権限を内閣にそれぞれ専属させているわけでありますけれども、国会と内閣の役割を明確に区分してそれぞれの責任の所在を明確にしているというのがその基本的な考え方である、私はそう思うわけであります。
この観点からいいますと、本来内閣が責任を持つべき事柄についてむやみに国会の承認にかからしめるということは、国会と内閣との間の責任関係を不明確にする、そういう大きな誤りを犯すことになるのではないかと私は思っております。こういう観点から、私は、本来行政権限に属することを国会の承認にかからしめることは極めて限定的に考えるのが筋ではないか、こういう立場に立つ者でございます。
そこで、具体的にお伺いをしたいと思いますけれども、現行法上で国会の承認を必要とする場合として、自衛隊法第七十六条の自衛隊の「防衛出動」のケース、それから同じ自衛隊法七十八条の「命令による治安出動」のケースが参考になると思うわけでありますけれども、その二つのケースはなぜ国会の承認を必要としているのか、御答弁をお願いしたいと思います。
池田国務大臣 お答え申し上げます。
我が国の憲法下において立法府と行政府との関係というお話がございました。そういった観点と同時に、自衛隊の行動につきましてはシビリアンコントロールの観点からの国会のかかわり合いという問題も出てくるわけでございます。
最初の問題につきましては、私の立場から御答弁を申し上げることは差し控えさせていただきますが、シビリアンコントロールの観点から申しますと、御承知のとおり自衛隊の行動についてすべてを国会の承認にかかわらしめるということではございません。シビリアンコントロールの本質と申しますのは、軍事に対する政治の優先というものをいかに確保するかということでございまして、それを確保するためにいろいろな段階でのコントロールはございます。自衛隊の最高の指揮官でございます内閣総理大臣は文民でございますし、防衛庁長官もさようでございます。そういったもとでいろいろ動いているわけでございます。さらに、政府の中におきまして国防に関する重要事項につきましては安全保障会議の議を経るとかいうようなこともございますし、防衛庁内部の運びにおきましても、防衛庁長官がいろいろな決定等をやってまいります場合に、参事官制度というものがございまして、いわゆる内局のいろいろな補佐を受けながら行動していくわけでございます。
さて、そういうことでございますけれども、最終的なシビリアンコントロールの担保というのは、やはり立法府である国会の御判断を仰ぐということになっております。それはまず、法律であるとかあるいは予算というものを通しまして大枠についてその御判断を仰いでおるわけでございます。それからさらに、個別の問題につきましても、防衛出動あるいは命令による治安出動、ただいま委員から御指摘がございましたが、こういうものにつきましては、その事柄の重大性にかんがみまして、法律における一般的な枠組みだけではなくて、一つ一つのそういった決定を下しますときに国会の御判断、御承認を仰ぐこととしております。
そういったことになっております趣旨というものは、そもそもこの防衛出動を要する事態あるいは命令による治安出動をしなくちゃいけないという事態は我が国にとって極めて重大な事態でございます。そういうことと同時に、またそういう事態になりますと、国民の権利義務にいろいろな制約が加わるといったような関係が生じてまいります。そういったことで慎重を期しまして、行政府の判断、一般的な立法府からの授権のもとにおけるそういう行政府の判断に加えて、国権の最高機関である国会の御判断を求めるということにしておるものと、このように理解しておるところでございます。
岡田(克)委員 ただいま長官から、一つは我が国にとって非常に重要である、そしてもう一つは、国民の権利義務に大きな影響を与える、その二つの観点から国会の承認にかからしめている、こういう御説明がございましたけれども、それではこの法案の場合には、そういった治安出動あるいは防衛出動の場合と比べて同じような状況にあるのかどうか、その点について御説明をお伺いしたいと思います。
野村政府委員 お答え申し上げます。
ただいま、防衛出動、治安出動との関連におきまして、この法案での枠組みについての御質問がございました。
PKOは、そもそも紛争当事者間の合意が成立しまして、紛争当事者がPKOの活動に同意していることを前提に、中立・非強制の立場で、国連の権威と説得によって停戦確保等の任務を遂行するものでございまして、これに対して我が国が協力するというのが今回の法案の仕組みでございます。したがいまして、PKOへの協力につきましては、そもそも基本的な性格からいたしまして、先ほど防衛庁長官より答弁のございました防衛出動あるいは治安出動のごとき我が国にとっての重大な事態への対応ではないということ、また、国民の権利義務との関係におきましても直接関係する面はない、そういうふうに考えておる次第でございます。
岡田(克)委員 ただいまの御説明、私もそのとおりだと思うわけであります。特に防衛出動や治安出動の場合には、我が国国民の権利義務に直接に影響を及ぼす、そういうところがあるわけでありますが、今回の法案の場合にはそこまでの国民の権利義務に対する影響はない、こういうことだと思います。
加えまして、私はもう一つ違いがあるように思うわけでありますが、それは、防衛出動とかあるいは命令による治安出動の場合には、いずれもその権限の発動に当たって内閣総理大臣にかなりの、幅で判断の余地というものを認めているのではないか、こういう気がするわけであります。
例えば七十六条の「防衛出動」の場合には、「外部からの武力攻撃」または「外部からの武力攻撃のおそれのある場合」に出動を命ずることができる、こういうふうになっております。このうちの「外部からの武力攻撃」というのは、ある程度これは認識として明確に認識できる、こういうことかもしれませんけれども、「外部からの武力攻撃のおそれのある場合」というのは、ある意味で抽象的な判断であります。高度な、政治的な判断ということもあるわけであります。そこに裁量、判断の余地がある、こういうふうにも思えるわけでございます。
同じく七十八条の場合には、一般の警察力をもってしては治安を維持できない、こういう場合に出動することになっておりまして、ここにも、果たして一般の警察力をもってしては治安が維持できるのかできないのかという一つの判断の余地があると思うわけでございます。
これに対して、今回の国際平和協力業務を我が国として実施する場合にありましては、これはもう既に何度も議論されていることでありますけれども、この法律上細かくその実施できる条件というものが書かれているわけであります。すなわち、国連総会または安保理での決議が必要であるとか、紛争当事国の合意が要るとか、あるいは中立性を確保しなければいけないとか、そういった具体的な条件が法律に書かれている、裁量の余地は極めて限定されている、こういうふうに思うわけでありますが、この点についての御認識をお伺いしたいと思います。
野村政府委員 今先生御指摘のとおり、基本的な枠組みといたしましては、国連との関係等、あるいは我が国のそれに対する国連との協力等の関係におきましてなすべき協力等につきまして、枠組みを設定しておるというふうに考えております。
岡田(克)委員 次に、これは昨日も外務省の方で御答弁いただいたと思いますけれども、PKO活動に参加する場合に、非常に緊急性を要する場合が多い、こういうお話でございました。この点につきまして再度、具体的な事例を挙げて詳細に御説明をいただきたいと思います。
丹波政府委員 お答え申し上げます。
このPKOは、紛争の解決の時期を失うことのないように、停戦が成立した後速やかに現地に展開することが必要とされる活動なわけでございます。それで、これまでのPKO活動は、御承知のとおり、安保理なり総会の決議で成立して、それで国連事務局が各国に派遣の要請をして展開するということでございますが、例えば一九五六年の十一月にできましたUNEFという部隊がございますけれども、この場合には、総会の決議とその第一陣が到着するまでの間が九日、それから一九六四年の三月にできましたサイプラスの平和維持隊の場合には、やはり安保理決議と活動の開始の間が約九日ということで、あとは省略いたしますけれども、大体一週間とか十日とか、そういう日にちの以内で展開が行われているというのが過去の例ではないかというふうに思います。
岡田(克)委員 以上要しますに、一つは、私が最初に申し上げました立法権と行政権の役割分担の問題、そして二番目には、先ほど長官から御説明もいただきました、自衛隊法で定める二つのケースとの明確な違い、すなわち国民の権利義務に重大な影響を及ぼすかどうか、あるいは裁量の余地があるかどうか、こういう明確な違いがある。そして三番目に、タイミングの問題として、制度はつくったけれども現実にそれが間に合わなかったら一体どうするのか、かえってそれは国際社会において信頼を失うことになるのじゃないか、そういう三つの点から、先ほど町村議員の御質問もありましたけれども、私といたしましては、国会に承認を求めるということは妥当ではない、こういうふうに思っているところでありますが、総理の御所見をお伺いしたいと思います。
海部内閣総理大臣 私は、町村議員にもお答えを申し上げましたように、現在の司法、立法、行政という三権分立の世の中で、立法府がやはり国権の最高機関であり、国の唯一の立法機関であるという、その立場を非常に重く受けとめておりますし、したがいまして、立法府で審議していただくこの法律によって、国際連合平和維持活動に参加していいか悪いかという、いいという許容の枠組み、そういったものを御議論願っておるわけでありますから、立法府でつくっていただく法律に従って、先ほど来申し上げておりますように、内閣は、その授権の範囲内で実施計画をつくって国会にまたそれを御報告します。
国会ではそれについていろいろな議論がございましょう。それを当然尊重してまいりますけれども、この法律を審議していただくこと自体で、行っていいか悪いかという基本的な原則の枠組みは決めていただくわけでありますから、シビリアンコントロールの枠内で行っていくのが至当であろう、こう考えておりますので、そこの枠組み、いただいた枠組みの限度内ということと、そこから逸脱しておりませんよということを報告によって担保していこうという気持ちでおるわけでございます。
岡田(克)委員 では、次の質問に移りたいと思いますが、法案の二十四条三項の運用に当たりまして、二十五日の本委員会における答弁で、束ねるという表現が用いられたわけであります。このことが部隊としての武器の使用を意味しているのではないか、そういう指摘が一部のマスコミ等にもあるわけでありますが、私がこの場で聞いておりました印象では、そういうことではもちろんないというふうに受けとめたわけでございます。この点につきまして、再度明確な御答弁をいただいて、そういった誤解が生じないようにしていただきたい、こう思うわけでございます。
例えば、具体的な例を挙げますと、個々の自衛官が二十四条三項の要件を満たしていないと判断している場合に、上官の命令によって武器を使用するということが果たして許されるのかどうか。この具体的事例に対する御答弁も含めて、御答弁をいただきたいと思います。
池田国務大臣 お答え申し上げます。
法案二十四条三項で認められております武器の使用、これは、その主体は法文にも「自衛官」と書いてございますし、個々の自衛官が判断をし、個々の自衛官がまた使用の主体でもあるわけでございます。したがいまして、部隊としての武器の使用というものはございません。
それで、私が束ねてということを申し上げましたけれども、この言葉自体の当否というものは、いろいろ御議論もございますのであえて申しませんけれども、私が申しましたのは、個々の自衛官が武器を使用してもいい、すべきだ、こう判断した、そういう状況におきましても、さらに慎重を期して、上官でございます経験の豊かな自衛官の判断をさらに加える、そういうふうに念には念を入れて慎重に対応することが適切なケースがある、こういうことを申したわけでございます。
さて、その逆の場合でございます。今具体的に御質問がございましたけれども、個々の自衛官が使用すべきであると判断していないにもかかわらず、上官の方から命令して使用させるかという御質問でございましたが、そういうことはございません。個々の自衛官の判断がない限り、上官が命令して使用させるということはこの法文上できないわけでございます。
岡田(克)委員 今の御答弁で明確になったと思うわけでありますが、個々の自衛官がこの二十四条三項の要件を満たしていると判断をした場合であってもそれを制限することがあり得るのであって、その逆のケースは、つまり個々の自衛官が二十四条三項の要件を満たしていないと判断しているにもかかわらず、上官がそれを満たしていると判断して命令をして武器を使用させるということはあり得ない、こういうことだと理解をいたしました。ありがとうございました。
それからもう一つ、私が審議を聞かせていただいておりまして、ちょっとよくわかりにくかったかなと思う点がございます。それは、いわゆるコンゴの国連軍型の平和維持隊、それからその他の場合との区別の問題でございます。もちろん、この二つ、明確に区別すべきであると思っているわけでございますが、この点につきまして、これも一部のマスコミに、説明が十分できなくなるのじゃないかとかそういう記事も出ておりましたので、ひとつ国民の皆様にわかりやすいように再度御説明をいただきたい、こう思うわけでございます。
丹波政府委員 お答えを申し上げます。
コンゴにつきましては、コンゴ平和維持隊というものが展開し活動する過程で、コンゴの中で内紛というものが発生いたしまして、国連としては新たな事態に当面することになりまして、それを受けて安全保障理事会が、そのコンゴの内戦を防止するために国連平和維持隊は最終的には武力の行使を行うこともやむを得ないという追加的な決議を行ったわけでございます。それによりましてコンゴ平和維持隊はその任務の一つとして武力の行使ということも安保理事会によって認められることになった。このように任務の中に武力行使が入っている、明示的に入っているということは、そのほかのこれまでの平和維持隊の活動にはないことでございますので、私たちはコンゴの平和維持隊の例というのはほかのケースと別に議論されなければならない性格のものになったのではないかということを御説明申し上げてきたつもりでございます。
岡田(克)委員 今の御説明でありますと、今後この法案が成立をしたと仮定をいたしまして、そして我が国からPKOあるいはPKFへの参加があった場合に、たとえ当初の国連からの依頼があったとしても、武力行使容認決議が付加されているような場合、こういうことは今まではないと思いますが、任務の中に武力行使が入っているような場合には、もちろん我が国はこれに参加ができないし、それから、一たび参加をした後に事態の変化によって安保理なり国連総会で武力行使容認決議が行われた場合には、その時点で我が国の参加というものは中断をし、あるいは撤収をする、こういうふうに理解をしてよろしいのでしょうか。
丹波政府委員 PKO活動につきましては、国連事務局が派遣の要請をした場合、加盟各国はそのすべての要請を受諾しなければならないということにはなっておりませんで、あくまでも関係加盟各国の自発的な決定によりまして参加していくということでございますので、日本といたしましては、今の先生がお挙げになりました二つのケースについては、あるいは当初から参加せず、あるいは途中から離脱する、そういう選択をとることになろうかと思います。
岡田(克)委員 この法案の第六条で、「内閣総理大臣は、我が国として国際平和協力業務を実施することが適当であると認める場合であってこ云々、こういう書き方になっているわけでありますが、ここで言う「適当である」というその中身の一つとして今のお話が入ってくる、こういう理解でよろしいのでしょうか。
野村政府委員 お答え申し上げます。
業務を実施するかどうか、あるいは場合によっては期間を延長するというようなこともございます。そういった点についての判断をどうするかという点が入ってくるというふうに考えております。
岡田(克)委員 ちょっと今の御答弁よくわからなかったのですが、この第六条の「適当である」に、我が国として参加をするかどうかという判断、今具体的に申し上げたような武力行使が含まれているか含まれていたいか、そういう判断が入ってくる、こういうことでございますね。
海部内閣総理大臣 御質問の御趣旨のとおりでありまして、内閣総理大臣は、そういった点を見て、これならば五原則、すなわちいただいておる枠組みの中で対応できると判断したときは、実施計画の作成をいたします。
岡田(克)委員 よくわかりました。
次に、やや法案の中身にわたって御質問をさせていただきたいと思いますが、この法案の六条二項に「実施計画」で定める中身が具体的に列挙してございます。そして他方で、八条で、「実施要領」で定めるべきものが書いてあるわけでございます。法案上、法文上はこの実施計画については国会に対して報告しなければならない、こういうことになっているわけでありますが、それじゃ、この実施要領と実施計画というのはどういう考え方に基づいて区別がされておって、具体的事例として、例えばどういうものが実施計画、そして実施要領に書かれるのか、この点について御説明をいただきたいと思います。
野村政府委員 御説明申し上げます。
今先生御指摘のこの実施計画と実施要領、これはこの法案の仕組みの基本をなすものでございます。
御指摘の実施計画、これは「国際平和協力業務の実施に関する基本方針」とか、あるいは「協力隊の設置」「国際平和協力業務の種類及び内容」等、業務の実施に当たりまして重要また基本的な事項を定めるものでございまして、閣議で決定するということにいたしております。決定があった後、法案の第七条に基づきまして「遅滞なく、国会に報告」するということになってございます。
それに対しまして実施要領と申しますのは、閣議で決定になりました実施計画に従いまして、それを実施するための具体的な内容を本部長が定めるということでございます。
具体的な例を申し上げますと、実施計画においては例えば派遣先国とかあるいは派遣期間が定められるわけでございますが、そのうち、その具体的な内容の業務につきましては、例えば派遣先国であっても、どこの地域で何をするかという具体的な地名とかあるいはその具体的な地域における業務に着目した具体的な期間というようなものが実施要領で定められるわけでございます。
したがいまして、私どもこの実施要領につきましては、基本的には、実施計画に従いましてその業務に着目した場合に、我が方の要員が、隊員が行動する、その行動を具体的に定めた一種の指令書のごときものである、そういうふうに理解いたしております。
岡田(克)委員 最後になりますけれども、この法案に対して外からの評価といいますか、期待といいますか、こういうもの、あるいは場合によっては懸念というものもあるかもしれませんが、そういうものがいろいろ寄せられているように聞いております。
まず、この法案に対して、当事者である国連の事務局、これは外務大臣、先ごろ国連総会に行ってこられましたのでいろいろその際にも話が出たと思うわけでありますけれども、その事務局での意見、あるいは当面のその対象となりそうなカンボジアの当事者の皆さん、一体この法案に対してどういう感想といいますか、気持ちといいますか、期待といいますか、こういうものをお持ちであるのか、お伺いしたいと思います。
中山国務大臣 先ほども町村委員にお答えをいたしましたが、デクエヤル国連事務総長は、PKOの必要性がこれからますます高まってくる、それはいわゆる冷戦構造後の地域紛争が多発してくるということに対しての国連の一つの大きな懸念であります。もう一つは、このPKOを動かす場合に資金が要る、ところがなかなか資金が集まりにくい、こういったことで、日本は独自でこのPKO立ち上がりのための特別のファンドを国連の中につくっているということも、この際に申し上げておきたいと思います。いわゆるPKO立ち上がり基金でございます。これは大変高く国連の中で評価をされております。
また、先ほどお触れになりましたカンボジア問題につきましては、カンボジアの和平が、十月の三十一日にパリで和平会議が行われる、署名式が行われると言われておりましたが、私の手元にげさ入ってきた情報ではこれが早くなるということでございますから、このカンボジア和平が署名が終わるといった時点が参りますと、このカンボジアの中にSNCの本部が置かれる、そして、国連のカンボジア暫定機構というものがございます。ここでこの要請が発出されることが出てくるわけでありますが、そういうことを考えますと、このカンボジアのSNC関連のシアヌーク殿下あるいはまたフン・セン首相も、日本のPKO及び経済的な協力に極めて大きな期待を寄せられておったということを申し上げておきたいと思います。
岡田(克)委員 今この法案に対する国連事務局の、あるいは事務総長の期待とかあるいはカンボジアでの期待というものをお伺いしたわけでありますけれども、そういった期待に早くこたえるためにも、私は、この法案を一日も早く成立をさせる、こういうことが極めて重要であると思うわけでございます。
他方で、この法案に対してアジアの一部の国々には慎重な姿勢をとる国もある、私はマスコミの報道でしか承知しておりませんが、そういう報道もなされております。もちろん、それは過去の日本の行為に対する不信、心配、そういうものもあるかもしれませんし、あるいは例えば中国を例にとれば、今までのカンボジアとの歴史、最近のいろいろな出来事、それを通じて、我が国とカンボジアとのPKO参加を通じたつながりというものに対する、言葉は適切かどうかわかりませんけれども、若干の警戒心みたいなものもあるいはあるのかもしれません。
しかし、いずれにいたしましてもこの法案の考え方というものが正しく理解をされて、そして、より大事なことは、この法案の背景にある我が国の国際的な貢献をこれから人の面でもしていくのだという、そういう基本的な考え方がきちんと理解をされるということが私は極めて大事だと思いますので、この点につきまして最後に総理のお考えをお聞かせいただきまして、私の質問を終わりたいと思います。
海部内閣総理大臣 岡田議員の御指摘の点は極めて大切な点だと考えます。
私もきょうまでアジア諸国の首脳ともいろいろお話もいたしましたし、また、中国やシンガポールにおいて政策演説をいたしますときも、国連中心の平和維持活動に日本としても参加をすることはアジア・太平洋地域の平和と安定のためにも役立つのです、また日本はそういったことをしたいのですということも強く申し上げましたし、他面、そのような考え方や国連中心の考え方はよく理解できるとアジアの国々も理解をしてくれるのですが、ただ一点、過去の歴史の厳しい反省に立って考えてみますと、我が国の行為によって耐えがたい苦しみを、そして苦痛を与えられたという感情のある国は、どうしてもそれに対して懸念を表明される。
そういう懸念を表明されるということを我々は理解をし、謙虚にそれは受けとめなければならないと思っておりますから、首脳会談のときでも、今後ともあらゆる場を通じてこれらのことについては、きょうまでと同様に、日本のやろうとしておることの真意、武力による威嚇ではありません、軍事大国になろうとしておるのでもありません、過去の厳しい歴史の反省に立って、それでも日本は自分だけよければいいということではいけないので、近隣諸国のためにもでき得る限り協力をし、役割を分担していきたいのですというこの率直な気持ちの正しい認識を求めて努力をしていかなければならぬということは、御質問の御趣旨を十分体していきたいと考えます。
岡田(克)委員 ありがとうございました。