政治評論家協会・講演録
今日(4月23日)は、あまりにもタイムリーなときにお招きいただきました。こういう日になってしまいましたので、小泉(純一郎)新総理誕生を前提に少しお話をさせていただきたいと思います。
ただ、民主党がどうなっているのかということもお話しさせていただくのが物事の順序ではないかと思いますので、一般的な民主党の話をさせていただき、その後、今回の自民党総裁選についての私なりの考え方といいますか、印象。そして、これから民主党としてどうあるべきかというお話をさせていただきたいと思っています。
民主党が目指すもの
民主党についていろいろアンケート調査をいたしますと、よく出てくる話が、「リーダーとしての鳩山(由紀夫)さんが少し物足りないのではないか」というものです。率直に申し上げてそういう声は出てまいります。もう1つは「民主党はバラバラではないか」。3番目が「政策がよくわからない」という話で、それぞれについて私なりの考えをお話し申し上げたいと思います。
まずリーダーについてですけれども、野党の代表というのは本当に大変なものだと、横から見て思うわけであります。現実問題として、鳩山さんの支持率がなかなか上がってこないというのは民主党にとって非常に痛いところでありまして、それを何とかしたいという気持ちはみんなが持っていると思うわけです。
私はやはり、1つは鳩山カラーをもっと前面に出したほうがいいと思います。これは党の中でも最近よく聞かれる議論なんですが、党首討論を見ていて迫力がないといいますか、「批判ばっかりしているではないか」という意見が出ます。迫力がないということになりますと、もっともっと強く批判をしなければいけないということになって、さらに批判をすると、ますますその中で鳩山さんらしさが失われていく感じがいたします。
批判するなら菅直人さんのほうが、はるかにというと語弊があるかもしれませんが、1枚上手です。ですから、野党の党首としては菅さんのほうがあるいはいいのかもしれないと思いますが、しかし鳩山さんの立場というのは、野党の党首であるとともに、選挙に勝って日本国総理大臣になるというポジションにいるわけですので、単に批判するだけではなくて、自分が総理になればこうするんだということをメッセージとして明確に伝えることが1番大事なことだと思っております。
もう1つ加えて言いますと、鳩山さんは相手の批判をするのにあんまり向いていない。性格からして、そうだと思いますね。ですから、もっともっと鳩山カラーを前面に出して、そして党首討論なども組み立てていくべきだと思っております。
同時に、党の中でいろいろな批判といいますか、意見が代表に対しても出るわけです。それはみんな心配して言うわけですが、やはり基本的なところで代表を支えていこうという気持ちがもっと前面に出てこないといけないと思っております。
我々が全会一致で選んだ代表でありますから、その代表の足を引っ張るような発言が時々出てくるのは大変残念なことで、基本的には鳩山さんを総理にするんだという気持ちをもっともっと前に出して、党の中がまとまっていくことが非常に大事ではないかと思っております。
もう1つは「党がバラバラだ」というお話でありますが、これは、1つは党の意思決定のあり方の問題だと思っています。今、党の中に意思決定機関は幾つかありますが、1つは10人で構成されていて、国会の運営について毎週1回集まって議論をしております。メンバーは、代表、特別代表、幹事長、あるいは衆参の国会対策委員長、私も入っておりますが、全体で10名おります。
ネクストキャビネットは政策について決めることになっておりまして、民主党の各大臣を中心に約25名で構成されております。
それから常任幹事会が2週間に1回開かれますが、ここは約30人で党務について決めることになっております。
これは半ば公式なんですが、選対の役員会がありまして、これは代表、特別代表、そして幹事長、幹事長代理の4名で機動的に決めることになっております。
それぞれはいいんですが、全体の党としての戦略を機動的に決めるための機関がいるのだろうと思っております。会社などでも、最近は取締役会ではなくて、もう少し小さなグループで物事を機動的に決めていくのが1つの流行(はやり)のように思いますが、5、6人の役員で基本的な方向性を決めていくということがあって、その基本方針の下に、先ほど述べたようなそれぞれの党の機関が具体的なことを決めていく。こういう形が望ましいのではないか。そこのコアの部分がないということが、意思決定が遅れたり、バラバラな印象を与えるのではないかと思っております。
もう1つ言わせていただくと、菅さんが幹事長として頑張っていただいているわけですが、菅さんを幹事長にするときに、幹事長の役割というのは政策と国会だと。そして幹事長代理が、その他の党務をやるんだと決めたわけです。これがよかったのかどうか。やはり幹事長というのは党務全体を本来見るべきで、そこで分かれているところも、機動的な意思決定ができないことにつながっているのではないかと思っております。
そういうところが、これから党としての課題で、恐らく参議院選挙の後ぐらいに、もう1度人事全体を代表もいじられると思います。代表の任期は後1年以上ありますから、参議院選挙後の新しい党人事の中で、そういうことについて党の機関のあり方も含めて議論をして人事配置もされたらいいのではないかと思っております。
もう1つは党の議員といいますか、民主党も非常に世帯が大きくなってきまして、党の議員の意思疎通をよくする、特に若い議員の意見を聞いて、あるいは彼らに役員会その他で決まったことはこういうことですよということを、きちんと説明する場がないのも問題だと思っております。
自民党ですと派閥というものがあって、週1回派閥の総会が開かれ、そこで例えば総務会でこういう決定があった、政調はこうだという意思伝達が行われますし、若い議員からいろいろな意見もそのときに出るということだと思います。そういう場が民主党にはありません。派閥がありませんから、そういうことになっているわけです。
そこで私が今試みておりますのは、ブロック別の擬似派閥をつくるということです。派閥というのは人事とかカネとかで、もちろんそういうこととは違って、先ほど言いました当選回数の浅い方の意見を吸い上げる、あるいは党で決まったことをきちんと説明する場として党全体では大きすぎるので、ブロックぐらいの規模でまとまりを作ると。好きな者が集まるのではなくて、客観的な基準で固まりをつくって、そこをそういう場として使っていくということです。
今はまだ試み段階ですが、東海ブロックは30名以上の国会議員が衆参でおり、週に1回集まってそういうことをやっております。かなりうまくいっていると思いますし、たまたま東海ブロックには熊谷(弘)幹事長代理とか私、あるいは赤松(広隆)国会対策委員長などのメンバーがいますので特に求心力があるのかもしれませんが、比較的うまくいっておりますので、これを全党的にきちんと党の機関として位置づけてやっていくべきではないかと思っております。
あと一言言わせていただくと、政党ですからいろいろ議論があるのはいいのですが、決めたらちゃんと従うという「文化」をぜひつくり出したい。決めた後もブツブツ言っているというのは絶対おかしいわけで、政党としての、私は敢えて「文化」という言葉を使わせていただきますが、そういうものをつくっていくことは大事なことではないかなと思っております。
それから政策ですが、私が政調会長代理、そして今は政調会長としてずっと責任を負ってきた分野であります。いろいろな意見があります。安全保障の面でも、そのほかの面でもいろいろな意見が出ますが、私は、いろいろな意見があることは決してマイナスではないと思っております。いろいろな意見が出て議論をすることは、むしろプラスである。
最近、「民主党はアメリカ合衆国だ」と言っているのですが、多様な人種がいて、そのことがアメリカの強さになっている。民主党も同じであると思っています。例えば、横路(孝弘)先生と安全保障の議論をかなり詰めさせていただいた時期が1年ほど前にあり、何時間も二人で議論をいたしましたが、私も大変教えられるところが多かった。今までに私にない視点をお持ちの方ですから、横路先生のご意見なども入れながら民主党の安全保障政策を当時つくったわけですが、そのことは私自身にも勉強になったし、ありがたかったわけです。そういう意味で、意見がいろいろあることは私はマイナスだとは思っておりません。
ただ、最終的に集約する仕組みというのは非常に大事でありまして、政調会長になって3カ月経って、今年の1月に少し政調の組織を変えたわけであります。つまり、今までは政策は民主党の大臣がいて、その下に部会長がいて、そしてその下に議員がいる。国会のほうはそれとは別系統で、筆頭理事、理事がいて、そして委員がいるという2系列になっておりましたが、それを集約いたしまして、すべて大臣のもとで筆頭理事は副大臣として大臣のもとに入るという形にいたしました。
その契機になったのは少年法の問題で、少年法について最終的に政策を決めるのはネクストキャビネットの場ですが、ここでは圧倒的に少年法の改正に最終的には賛成せざるを得ないという意見だったのですが、部会は反対でした。本部会は専門家が集まっていまして、少年法の改正には反対です。
集約できないまま採決を迎えてしまったわけですが、部会長は佐々木(秀典)先生という方で大変立派な方なんですが、基本的にはやっぱり、そこが2系列であったことが、私は調整ができなかった最大の理由であると思いましたので、まず部会長というポストをなくして、そして大臣のもとに委員会筆頭理事を副大臣という形で置くという形に変えまして、そういう問題は克服できたと思っております。
この国会で民主党が出す法案、議員立法は実は50本ございます。政府の閣法が120本出てまいりますが、我々は50本を出す。中身もかなり充実したものです。残念ながら、マスコミによって、報道を詳しくしてくれる新聞社と全く報道してくれない新聞社があるんですが、いずれにしても、これだけの力がついてきた。それぞれの法案について若い人を事務局長とか座長ということで責任者に決めまして、勉強し、議論していただいて法案を出しているわけですが、ここまで民主党の政策能力が高まってきたと考えております。
あるいはネットでの政策募集ということで、先般インターネットを通じた政策募集をやりましたら約1000名の一般市民の方から応募がありまして、その中の幾つかのアイデアは法案化して国会に出すということで準備もしております。そういう新しい試みも含めて、かなり政策形成面では充実した形になってきているのではないかと自画自賛をしております。
ただ、もう少しこれから力を入れていかなきゃいけないのは、1つは民主党の理念をもっとしっかり訴えていくということです。もちろん自民党にも理念はありませんから、自民党に理念がないときに、こちらが何でこんなことで苦労しなきゃいけないのかとも思いますが、やはり民主党というのは一体何を目指しているのかということを、きちんと議論をもう少し詰めた上で、わかりやすく示していく必要がある。
私は基本的に強い経済と社会的公正の両立だと思っておりますが、そのことをもう少し肉づけしていく必要があると思っています。イギリスのブレアさんなども「第3の道」と言っていますが、あれ自身も何を言っているのかよくわからないわけで、今までのサッチャー路線でもないし、昔ながらの労働党の路線でもないという意味での「第3の道」、つまり自分で自分を定義しているのではなくて、ほかとの関係で定義しているわけですね。これでもない、あれでもないということで定義しているわけです。
日本の場合、自民党に1つの理念といいますか、基本政策があれば、それに対してこうだということが言えるのですが、自民党そのものにそれがありませんので、余計新しいものを定義するのは難しいわけですが、これはぜひやり遂げたいと思っております。
党の組織について一言申し上げますと、これもいろいろ言われます。特に、民主党というのは議員政党なのか、それとも何と言いますか、地方にしっかり足腰を持った政党なのかという問いが発せられますが、私は議員中心のネットワーク政党だと思っております。一昔前であれば地方に党員がいて、そして支部があって本部があるというピラミッド構造が時流だったのかもしれませんが、政党というのはもうそういうものではない、と私は思っております。議員がいて、その議員を支援する市民の和があって、そして、その支持する人たちと議員、あるいは支持する人たちと政党が直接ダイレクトに結びついているというのが、これからの政党のあり方ではないか。
そもそも、党員になってくださいということ自身に対する拒絶感が、有権者の中にはあるのではないかと思っております。基本的に無党派層といいますか、どちらかというと民主党が好きだ、どちらかというと自民党が好きだというぐらいの無党派層が政党の中心であってもいいのではないか。何が何でも民主党だ、何が何でも自民党だという人は、全体から見ればせいぜい1割か2割ぐらいではないか。そこを中心にした政党を組み立てていくと間違うのではないか。そんなふうに個人的には思っているところであります。
もう1つ労組との関係がよく言われます。田中甲議員が辞めるときにも、そのことを提起していきました。私は、政策面で言えば労組との間に、いろいろな意味で緊張関係があるのは当然であると思っております。民主党の政策がよくわからない、というお叱りも時々いただきます。
しかしそれは当たり前でありまして、もし支持母体と政党が政策面で完全に一致している、逆にいうと支持母体に政党が政策を合わせるということであれば、それは自民党が自民党の支持母体の言うことを全部聞いているのと全く変わらないわけでありまして、基本的に政党と支持母体の政策に食い違いが出てくる、緊張関係があるのは当たり前であると思っております。もちろん、なるべく合わせる努力、そしてその前提としての信頼関係は大事だと思いますが、違いがあること自身がおかしいという発想には私は立っておりません。
橋本派の崩壊は自民党全体の崩壊につながる
次に今回の2番目のテーマであります自民党の総裁選挙について、少しお話し申し上げたいと思います。
今度の総裁選挙はどういう展開になるだろうか。非常に恥をさらすようで申しわけないのですが、私が思った展開というのは、まず橋本(龍太郎)派は小泉候補が出ないように、出たとしても正面衝突にならないように行動するだろうと思いました。
そういう意味で、橋本派が候補者を出すということはないのではないか。つまり他派の候補者、例えば堀内派の堀内(光雄)会長を担ぐというのが最もあり得るのではないかと思っておりました。その上で参議院での負けを最小にとどめて、参議院が終われば、またお得意の「人買い」で何とか過半数を回復して、その上で本格的な政権をつくる。3年間の任期がありますから、その時に1番可能性の高い候補者である橋本さんをそこまでとっておくだろうと思っていたわけです。ところが実際の流れは全然違う形になりまして、橋本派から候補が出た。それも橋本さんが出てきたということは、私にとって驚きでありました。
今回なぜ橋本派がこんなに負けたのか、私にもよくわかりませんが、もちろん個々の現象としては候補者決定が遅れたとか、今の時点で橋本さんが出てきたことに対するアレルギーがあったとか、いろいろなことが言えると思います。あるいは野中(広務)さんと青木(幹雄)さんの対立もあったのかもしれません。
ただ、煎じ詰めれば、1つはやはり人材不足ということが非常に大きかったのではないかと思います。つまり、敢えて橋本さんを出さざるを得なかった、ほかにいなかった、ということです。確かに今、橋本派の中を見渡しても総理総裁が務まるような方はいないと私は思うんですね。人材不足というのは、もう隠しようのない事実である。
そしてもう1つは、やっぱり地方に対するグリップがあまりにも不足していた。時間がなかったからだとかいろいろなことが言われますが、1つの大きな原因は「非拘束」にしたことだと思います。
そもそも、橋本派の最大の権力の源泉は参議院の比例で各利害関係団体をつかんでいることにあると私は思うわけですが、まず非拘束にしたということは、そこに対するグリップが非常に弱くなったわけです。私は、青木さんが参議院の選挙制度を非拘束に変えたというのは理解不能でした。なぜ、そんなことをするんだろう。自分で自分の首を絞めるのではないのかと当時は思ったのですが、今回の選挙でも、そのことがかなり響いてきたのではないかという感じがいたします。
もし拘束制度のままであれば、まだ順番も決まっていないわけですから、ガチッと派閥のほうから指令が出れば、系列の党員の皆さんも好き勝手なことはしなかったのではないかと思うわけですが、非拘束ですから、今回は参議院と総裁を明らかに切り離して行動ができたということだと思います。
もちろん、日本の民主主義も捨てたものではないなという感じはあります。そうは言ってもいろいろな腐れ縁といいますか、つながりがある中で、党員の皆さんが国民の声を受けて自らの思いを投票に託したということは、日本の民主主義も捨てたものではないなと思っております。
さて今回のことで、これから橋本派がどうなるんだろうか。まず橋本派の不敗神話がこれで崩れたわけですね。これは非常に大きいような気がします。加えて参議院の、先ほど言った比例候補に対する派閥のグリップが弱まっている。あるいは今度の参議院選挙で自民党が惨敗をして比例候補が次々に辞任をすることになりますと、今までの橋本派とは全く違う単なる一派閥になってしまう。そんな気がいたします。
そうなったときに、それが自民党のいい方向への改革につながっていくのか、あるいは自民党の中で最強力の派閥であった橋本派がそういう形で事実上崩壊することは、自民党全体の崩壊につながっていくのか。ここが1番、実は私どもとしても気になるところでありますが、私は後者だろうと思っております。
そもそも考えてみれば、今の小選挙区のもとで党の中で主役が交代をするということは本来あり得ないことです。中選挙区であれば、例えば今中選挙区で衆議院選挙をやれば橋本派の人たちが次々に辞任をして、そしてかわりに小泉派の人がどんどん当選をするということはあったと思います。トータルで見たら自民党の数は減らない、あるいは増える。
しかし小選挙区ですから候補者は1人しか出ておりませんので、ということは、やはりここで衆議院選挙をやれば単に橋本派が負けるということではなくて、橋本派に、あるいは自民党に代わって民主党が勝つというのが本来の姿なんだろうと思っております。
さて、他党のことをいろいろ言っても仕方がないのですが、それでは民主党はどうなんだということですが、私はかねがね申し上げておりますが、もう政界再編成は終わったのだと思っております。もちろん自民党が瓦解をすればその時点で何かの変化はあるかもしれませんが、民主党としては、とにかく選挙で勝って大きくしていくことだけを考えていればいい。あとはプラスアルファで、向こうが来るんなら、いい人なら入れてあげればいい。そのぐらいの感じで考えております。
小選挙区制度の中で政界再編というのはそんなに簡単に起こるものではありませんし、そもそも何かややこしい、もう古い人と今さらくっつく必要はないのではないか。それよりは、そういう人を落として新しい血を入れたほうがいい。つまり「民主党から候補者を立てて、入れかえればいいんだ」と私は考えておりまして、そういう意味で、あんまり再編成ということには関心を持っていないわけです。「あいつは政治音痴だ」とかいろいろ言われますが、やはり民主主義の基本は選挙で、選挙で勝って多数をつくることだと考えております。
小泉政権の矛盾をキチッと突く
そこで小泉さんが総理になったという前提で考えますと、1つ厄介なことは、我々に残された時間があまりないということです。国会もゴールデン・ウィークの連休明けから本会議、予算委員会と始まってくると思いますが、事実上50日しかないわけです。その50日で小泉政権の問題点といいますか、もう少しどぎつく言うと化けの皮を剥がさなきゃいかんわけですが、これが果たして可能かどうかということになります。国民も今半信半疑といいますか、小泉さんに期待をしつつ、しかし本当にできるのかなという目で見ているのが平均的な姿だと思います。代表質問、予算委員会、そして党首討論という数少ない場の中でキチッと議論をしていかなければいけないわけです。
先ほどちょっと羽田(孜)先生と話していて、長野の新聞を見せていただいたのですが、田中(康夫)知事の人気はまだ80%以上ある。知事になってもう半年経っていますよね。それでこの状況ですから、すぐに50日で自民党ないし小泉政権に対して、国民が「やっぱりできないのではないか」「改革政権というのは看板倒れではないか」と思うのは、かなりの野党としては努力を要するわけで、ここの勝負だと思っております。
ただ知事の場合には1人出しますけれども、内閣の場合には総理だけではなくて、そこに政党というものがくっついてまいりますから、結局小泉さんが国民の望むような改革をやろうとした時に自民党の中がどうなるのか、その辺が知事とは違うところではないかと思っております。
具体的に、幾つか小泉さんの今までおっしゃったことについて申し上げますと、まず「財政構造改革」ということを1枚看板のようにして言われているわけですが、最近は「国債を30兆円以上出さない」ということに変わってきております。今年は28兆円ですから、あと2兆円ぐらい補正が組めるのかなという感じもするんですね。それが財政再建なのだろうかという感じはいたしますが、この辺の矛盾が明らかにあるわけです。
それから、各論を全然言わないものですから、これから何を言われるかということなんですが、例えば小泉さんは厚生大臣のときに私は野党の厚生委員会の筆頭理事をやっておりましたが、医療制度改革を2000年度までにやるとはっきり約束されたんですね。その医療制度改革は結局2002年度まで先送りをされ、2002年度も、最近の医師会長の発言などを聞いておりますと、おかしくなっているわけです。
だから、いろいろ言うのはいいけれど、本当にできるのかどうかというところが問われるし、過去の発言についても、そういったところについて、これから我々としてはしっかり議論していきたいと思いますし、そういう中で矛盾が出てくるのではないかと思います。
経済対策も、よくわかりません。この前決めた政府の緊急経済対策について小泉さんがどういうポジションにいるのかということも、はっきりいたしません。あれを全部白紙に戻すのか、それとも基本的に受け継ぐのかということもありますし、各論でいうと株式の買い取り機構などというものも認めるのかどうかですね。
亀井静香さんによれば、あの株式買い取り機構で銀行の株を約10兆円買い取って、そして5年間でそれを処分していく。得をすれば銀行が山分けをするし、損をすれば税金で穴埋めをすると言っておられるわけですが、これは政府の中でも、柳沢(伯夫)さんなどから異論があったわけですが、小泉さんはどうされるのかが全く聞こえてまいりません。政府の緊急経済対策に対してどうするのかが、まず問われるところだと思います。
外交・安保も、よくわかりません。ほとんど、おっしゃいませんので。ただ聞こえてくるのは「集団的自衛権は解釈を変更して認めるべきだ」ということをおっしゃっていますが、本当にそうするのかということについても、もう少し詳しくお聞きをしなければいけないと思います。私は集団的自衛権というのは、今の憲法の解釈を変えて認めるのは絶対に避けるべきだという意見です。小泉さんも、そういうふうに今まではおっしゃっていたと思うんですが、突然解釈の変更をすべきだとおっしゃいましたので、ここも1つの大きな争点になると思います。
小泉さんも全体の流れを踏まえて行動されると思いますので、恐らく人事はかなり思い通りのものをやられるのではないか。他の派閥もそれを黙認する姿勢をとるのではないかと思いますし、恐らく早期に訪米されて、アメリカのブッシュ政権との関係を対外的なアピールに使うことは当然されるだろうと思っております。
そういう中で繰り返しになりますけれども、わずか50日の間に、ある意味では自民党にとって最後のカードである小泉総理の政権の矛盾をキチッと突いていく中で民主党にとっての道が開けるのではないか。そんなふうに考えているところでございます。
質疑応答
――民主党全体のお話がありましたけれども、どうしてその民主党に人気がないのか。それに対する幾つかの回答を承ったわけですけれど、私はやっぱり党首の顔ではないかと思うんです。
先ほども「民主政治の基本は選挙だ」というお話がありましたけれども、そのとおりです。選挙の基本は何かというと、やはり党首の顔です。今度の自民党のゴタゴタも、「森さんでは選挙は勝てない。だから顔を代える」ということだけですよ。人格もなければ政策も見識もない。ただ「勝てる」ということで小泉さんを選んでいるんですね。
これで自民党は成功するのかもしれませんよ。それに比べると鳩山さんは、確かに政治家としても立派ですよ。ただ、党首としてはどうでしょう。私は、学者としては通ると思うし民間人としても一流だと思うけども、戦う党首、野党の党首、野党第1党の党首ということでは必ずしも適任ではないと思いますね。
あの落ち目の森さんを向こうに回して党首討論をやっても、むしろ、たじたじとなってるのは鳩山さんのほうですからね。そして今度は小泉さんですよ。あの人は森さん以上にケンカがうまい。これを向こうに回して、5分と5分、あるいは5分以上の勝負が展開できるか、私は心配ですね。
それから野党の共闘ということがこれからますます重要になるんですけれども、党首の顔ぶれを見ても、小沢一郎さんあり、土井たか子さんあり、志位和夫さんありです。場合によっては鳩山さんより役者が一枚も二枚も上手という感じがあります。
そういう点からいうと、民主党もこれから真剣に、選挙に勝てる党首というものを再度お考えになるときではないかと思うのですが、いかがでしょう。
岡田 今のご質問には政調会長が答えるにはちょっと荷が重すぎるんですが、もし鳩山さんに少しミスがあったとすれば、私はこの前の代表選挙は、結局選挙はなかったのですが、あのときにもっといろいろ注文をつけるべきでしたね。「党首になったら、俺はこういうことをするんだ。それで嫌な人は挑戦しろ」ということにして、幾つか自分なりにお考えのことを前面に出して、そして党首になれば文句を言わせずにそれができたと思いますが、何となく、そういうことなしに党首になってしまったのは惜しかったなという感じはいたします。
ただ、今までの万年野党の党首と、政権を取ろうという政党の党首は、私はイメージが違って当然であると思っていますので、そういう意味で鳩山さんが、先ほど言いましたように本来彼が得意でないことをやらされているというところはよく考えなければいけないところだと思います。もっともっと鳩山カラーを前面に出して戦っていく中で、私は国民の皆さんにご理解いただけるんじゃないかと。あとは、それを幹部がいかにしてサポートしながら民主党としての、鳩山さんだけではなく、いろいろな顔も見せていくということだと思います。
それ以上はちょっと、今のご質問には答えられません。我々も選んだ責任がありますから、鳩山さんを一生懸命支えていくのは当然のことだと思います。
―― 鳩山党首は女性に人気がないという数字が調査で出ていると思うんですが、これは民主党にかなり影響が大きいんだろうと思うんです。なぜ女性に人気がない、支持が少ないのか。それについては、どういうふうに分析されていますか。
岡田 「鳩山さんが(女性に人気がない)」というのはちょっと私にはわかりませんが、民主党は確かに女性の人気が低いんですね。我が党の女性議員は「それは民主党の男性に魅力がないからだ」と言うんですが、我々は「いや、女性議員に魅力がないからじゃないか」と陰では思っていてもなかなか表では言えないんです。怖いですから。(笑)
しかし、この前韓国に行ったときに、韓国の政権党は民主党ですが、その幹部とこの話をしましたら、「それは当たり前だよ」と。「韓国の民主党も、野党のときは女性の支持率が男性より低かった。しかし、政権を取るようになった途端に支持率がアップした」と言っておりました。「女性は」「男性は」という言い方で括るのはやや危険ではありますが、やはり女性のほうが男性よりは変化に対して保守的だという部分はあるのではないか。変わるということに対する心配といいますか、防衛的な部分があるのではないのかなと思っております。
しかし、そうは言っても、女性の人気が民主党はないというのは、ちょっと理解に苦しむ数字ではありますね。深刻に受けとめています。民主党全体として女性の支持が低いということについて、もう少し女性をターゲットにした政策も含めて、PRもしっかりしていかなきゃいけないと思っています。
ただ、僕らが政策をつくっていく上で少し迷うのは、女性のどの部分にポイントを当てた政策をつくっていくかということです。我が党の女性議員からは非常に先鋭的な政策が出てくるわけです。
例えば、「所得税でいえば配偶者控除とか配偶者特別控除などというものはおかしいんで、これは全部やめてしまうべきだ」と。「男性も女性も自ら稼ぐ。つまり所得を持つというのが前提の制度にすべきだ」ということですが、専業主婦とかパートで勤めておられる方から見ると増税をするということですから、「とんでもない」という話にもなるわけです。数からいうと、自分でフルタイムの職業を持っている女性よりもパートとか専業主婦の方のほうがずっと多いものですから、そこで我々はどっちに重点を置くべきかということで迷ってしまうわけです。そういう問題は、それぞれあります。
――これからどうなるかわかりませんが、小泉カラーが出るに従って自民党内で公明党との間に溝ができてくるかもしれないわけですね。その場合、公明党が野党のほうに顔を向けてくるかもしれないことは考えられるわけなんですが、そういう事態を民主党のほうでは歓迎をするのかどうか。先ほど「政界再編は終わった」とおっしゃいましたけれども、その点はどういうふうにお考えになりますか。
岡田 私は、参議院選挙が終わるまでは今の与党3党連立は崩れることはないと思っております。ただし参議院の結果によっては、変わる可能性はある。そのときに、私は基本的な立場として自民党と組まない、共産党と組まない、という原則でいけばいい。逆に言いますと、それ以外の政党とは政策的にある程度一致をするんであれば組んでいいと思っています。
――公明党については、野党の一員にすることに何ら抵抗はないという……。
岡田 野党の一員ではなくて、与党になるときに連立の相手として頭から否定する必要はないと思っています。
――「民主党はアメリカ合衆国だ」というお話がありました。確かにいろいろな議論があっていいんですけれども、多様な議論を各機関で勝手にやると、却って議論倒れに終わる、まとまりがつかないという傾向を1つ指摘できますね。
それから、幾ら議論してもいいけれども、決まったことは決まったらやるという、これも統率力と指導力というものが必要ですね。
もう1つ、ほかの議論は幾ら食い違ってもいいけれど、国家基本にかかわる問題だけはキチッと党内一致の体制をとってほしい。例えば憲法だとか、あるいは国歌・君が代だとか、ああいう問題について民主党は足並みが乱れるということがありますね。
ですから私は、先ほどちょっとお話がありましたけれども、各機関に任せて勝手に議論させるというのもいいけれど、同時にやはり代表、それから幹事長、政調会長、国会対策委員長、幹事長代理、このぐらいのインナーキャビネットでもってキチッと基本方針を決めていく。鳩山代表がああいう性格の人ですから、そういう何人かが固まって脇をキチッと固めていくという体制を、是非早くとる必要があると思いますね。今はちょっと自由放任主義で、これが却って党の関係をバラバラにしているという逆効果のほうが強いと思いますが、いかがでしょう。
岡田 まさしく私が言いたいことをおっしゃっていただいたと思いますが、最初に私は申し上げたつもりなんですけれども、やっぱり5、6人の幹部で最後はキチッと決める。それは私的にするのではなくて、党の機関としてそういうものをつくって、そこで決めて、決めたことにはちゃんとみんがな従うという「文化」もつくっていくことが大事だと思いますね。
2年間の任期ですから、自由度はある程度トップに持たせて、いろいろな議論がありますが、しかしトップはどうしてもこれでいきたいというんなら、決めたことが党の意思になるということにして、それが嫌な人は2年後の代表選挙で自ら立ってトップを代えればいいわけですから。私は大いに議論をするべきだと思いますが、最終的にはトップが「えいや!」と決める部分というのは大事だと思っております。
(於・千代田倶楽部 平成13年4月23日)