「多様な価値観を活かせる社会に」
モデレーター 参議院議員 山本一太
山本 「投票の結果、岡田克也君を内閣総理大臣に指名することに決定いたしました!」(拍手)
今週も「新世代・総理宣言」の時間がやってまいりました。この番組は与野党を問わず、超党派で30代、40代の新進気鋭の国会議員をお招きして国家ビジョンを聞くという野心的な番組です。今日は最大野党の民主党からすばらしいゲストをお招きしています。三重県選出の岡田克也衆議院議員です。岡田さんは30代、40代の政治家の中でも屈指の理論派で論客。岡田さん、よろしくお願いします。
岡田 よろしくお願いします。
山本 岡田さん、まず、最近の政治家の不祥事や秘書の給与の問題など、政治とお金の問題についてどういうご感想をお持ちでしょうか。
岡田 僕が初当選したのは平成2年。リクルート事件が起きて、何とかしなきゃいけないという中で大量の新人が当選したんですが、僕もそのうちの1人なんです。当時、僕は36歳、今から12年前ですね。そのときは自民党にいて、政治資金規制法の改正などにも取り組んで少しは変わったかと思ったけれど、結局、全然変わっていない。鈴木さんもそうですし、加藤さんの件は特にショックを受けました。一体この12年間はなんだったんだろうという思いです。
山本 なるほど。率直なお気持ちをうかがったところで、いつものようにアシスタントの武田あかりさんに、岡田克也政調会長のプロフィールを格好よく紹介してもらいましょう。
武田 はい、岡田さんのプロフィールを紹介します。岡田克也さんは1953年、三重県四日市生まれ、三重3区選出の衆議院議員で、かに座のO型。東京大学法学部在学中は読書にふけり、3分で眠くなると言われるドストエフスキー作品にはまり込んだそうです。大学卒業後は通産省に入省され、在職中、ハーバード大学に留学されます。
山本 絵にかいたようなエリートコースですね。
武田 そうですよね。ハーバード大学で政治の重要さに目覚められ、90年、自民党から衆議院議員として初当選。93年、野党提出の宮沢内閣不信任案に賛成票を投じて自民党を離党。その後、新生党、新進党を経て民主党結党に参加されます。現在、民主党政調会長の要職にあります。趣味は読書と国会質疑(笑)、好きな言葉は「大器晩成」だそうです。
山本 岡田さん、先ほどの政治とお金の話ですが、小泉総理が数日前に政治資金改革ということで2つのイニシアチブを打ち出しました。1つは公共事業を受注した企業の政治献金を制限すること、もう1つは、政党支部に集まってくる企業献金の使い方を制限するという話ですが、岡田さんはどういうお立場でしょうか。
岡田 基本的に賛成です。本当にやってくれるのならね。私は、小泉さんが本気でやるつもりでおられるかどうか、かなり疑問に思っていますが、今の2点も含めて、広告費の名目で事実上政治献金を受けているといった6つの点について、明日、野党4党の政策責任者が福田官房長官に申し入れに行きます。「政治と金の問題を本気で改革すべきだ」とね。例えば、政治資金収支報告書をインターネットで公開するといった提案も含まれています。我々は議員立法で出しますので、自民党が反対しても小泉総理には賛成していただきたいですね。
山本 さすが政調会長、非常に戦略的なことをさらりとおっしゃる。岡田さんを政策通として尊敬しているので申し上げますが、私は企業献金を最初から悪のように考えるのはちょっと違うんじゃないかと思うんです。
まず、一つお聞きしたいのは「公共事業を受注した企業」といいますが、公共事業って土木工事だけじゃないですよね。鉛筆の1本でも政府に納入している企業となれば、大手の企業はほとんど入ってくるわけなんですが、そこら辺はどう整理されているんですか。
岡田 それは、おのずと足切りがあるんだと思います。私は、企業の政治献金について3週間か4週間前だと思いますが、辻元さんと一緒にNHKの日曜討論に出たときに……。
山本 まだ(辻元さんが)辞職される前ですね。
岡田 ええ。そのとき彼女が「企業の政治献金は全部やめるべきだ」とおっしゃったので、「それは違うんじゃないか」と申し上げたわけです。パーティーは自由にしておきながら、政治献金はだめというのは違うんじゃないか。パーティー券は企業や労働組合も含めた団体も買うわけですからね。「もし規制するなら同じように規制すべきだし、そういう手前勝手な言い方は違うんじゃないか」と申し上げました。企業だってNPO活動とか、いろいろなことにお金を出すし、それが背任になるといった議論はないと思うんです。政治献金も一定の範囲の中で、きちんと透明な金であればいいんじゃないか。将来の政治家を育てるために、企業・団体が金を出すことは法律違反でもなんでもないし、むしろ必要なことだと思います。そうしないと資産のある人しか政治家になれなくなってしまいます。
山本 同感です。ヨーロッパ人の友人が私にこんなことを言いました。「日本の政治を見て思うのは、日本では現実と乖離した決まりをつくる傾向がある。最初から守れないような決まりをつくっておいて、しかも悪いことに守らせない」と。非常に含蓄のある言葉だと思っていたんですけれども……。
岡田 僕もね、最初に政治家になって感じたのはそのこと。法律をつくるのが国会議員の仕事ですよね。ところが、最初に国会議員になるときに、法律をきちんと守ってなる人はほとんどいない。つまり、認められたお金の範囲の中で、認められた選挙活動をやって当選するのは至難の技なんです。結局、最初から無法地帯の中で政治家が生まれるということに非常に矛盾を感じました。大事なことは金の流れがオープンになることであって、むちゃくちゃルールばかり厳しくして守れないのは賢明なやり方ではないと思いますね。
山本 欧米を見ても、大体、企業献金容認型です。政治活動委員会は通しますが、企業献金を認めている。フランスだけが95年に全面禁止したんですが、代替措置として下院議員の選挙で使われたお金の還付を20%から50%にしたり、個人献金の使い勝手をよくするために税制優遇をしたりしました。しかし、フランス人の友達に聞いたら、今、岡田さんがおっしゃったように、無名の新人は個人献金を集められないので不正な資金集めをしてどんどん捕まっているそうです。やっぱり、あまりにも現実と乖離したルールは問題ですね。
岡田 二世議員だけになってしまいますよ、国会議員が。
山本 そうですね。政治とお金の話は尽きないんですが、岡田さんは金融も福祉も教育も外交も全部詳しいので、次に外交のお話をうかがいたいと思います。
今の世界で最も懸念されるのは中東ではないでしょうか。イスラエルとパレスチナはほとんど戦争状態です。こんなときに外務大臣が外務省改革問題で縛られてはいけないと私は思う。どんどん中東に出かけて行ってシャトル外交をするべきだと思うんですが、岡田さんは、中東情勢に対して日本はどういう政策をとっていくべきだとお考えですか。
岡田 なかなか難しい話なんですが、私も、パレスチナの初めての国政選挙の選挙監視団に参加しました。あのときはみんな初めて自分たちの代表が自分たちで選べると涙を流していた。字の書けない人もたくさんおられたんですけれども、これで国づくりが始まると。そのときから見ると、今の状況はちょっと信じられないような思いです。日本はイスラエルに対してもパレスチナに対しても一定のことが言えるポジションを持っているので、こういうことになってとても惜しいですね。僕はブッシュ大統領に相当責任があると思います。
山本 川口さんみたいな能力のある大臣が外務省改革で外に出られないことも残念だと思うのですが……。
岡田 それは総理が外交に対して関心がないからじゃないの?
山本 いや、そんなことない。関心がないわけではないと思うんですが、それより野党は外務大臣まで答弁に縛りつけて外に出さないのか。その原因を考えてみるに、政権交代がないからだと思うんですよ。もし政権交代があって、岡田さんが総理あるいは外務大臣になられたら、こんなふうでは困るわけですから、予算委員会で大臣を縛りつけたりしないと思うんですけれど……。そこら辺を政調会長のイニシアチブで変えていっていただけませんか。
岡田 以前と比べると大分弾力的になったと思うんですが、弾力的になるとそれを与党も利用しますからね。ただ、私も政権交代がないことの弊害かもしれないと思います。
山本 外交についてもう一つ。今、日本外交の最大のチャレンジはイラクだと思うんです。ここ数週間のうちに何人かアメリカの外交専門家が訪ねてきて「ブッシュ政権のイラク攻撃は時間の問題だ」と言うんですね。もしアメリカがイラクを攻撃した場合、日本がどういう対応をするのか、シミュレーションをしっかり組み立てていかなきゃいけない。岡田さんはテロ特措法のときも民主党を代表する論客として発言をされましたが、この問題をどうごらんになっていますか。
岡田 日本の外交はブッシュ政権が登場し、小泉さんが総理になって大分変わったと思います。イラクをアメリカが攻撃したときに「理解する」というところまでは言っても、今までなら全面的にそれを認めたりしないはずです。「国連の手続きに基づいて進めていくべきだ、単独行動は基本的にはイレギュラーである」ということだったと思うんです。
それが、あのテロ以来、タガが外れたような気がしますね。アフガン攻撃は個別的自衛権の発動ということで辛うじて説明できると思いますが、イラク攻撃までいくと、完全にその範囲を超えてしまいます。そのとき日本は国連をどう位置づけるのか。もちろん国連だけでは動かないので、現実問題としてはアメリカの単独行動が必要なことは事実ですが、それを正面に据えてしまうと外交は全く変わってしまう。今の政権がそれをわかっていてやっておられるのかという感じがします。
私は、ブッシュさんがもしアメリカの大統領でなきゃボカスカ殴られるような存在じゃないかと思うんですよ。これがもし日本の総理大臣なら「もうちょっとよく考えたら」とほかの国に言われちゃうと思うんですね。
山本 今の絡みでお聞きしたいんですけど、岡田さんは限定的に集団的自衛権を認めるとおっしゃっていますよね。前原さんとか松沢さんは集団的自衛権の行使には積極的なんですが、岡田さんの限定的行使というのは?
岡田 多分、僕は古いんだろうと思いますが、今の憲法ではやむを得ないと思うんです。憲法をこれ以上拡張解釈すべきじゃない。これ以上広げるなら憲法改正をすべきだと思います。そのときに集団的自衛権を裸で認めることは、要するに侵略戦争はしないというだけのことじゃないか。とすると憲法9条は当たり前の規定に変わるということでしょう。50年前に戦争した国としてその反省が全然なくていいとは私は思わない。やっぱり少しは手足を縛る姿勢が必要だと思うのです。ただ、この話は民主党の若い人には非常に不評ですね。もっと普通の国になるべきだという意見が多いんじゃないでしょうか。
山本 岡田さんは普通の国じゃなくてもいいと?
岡田 いいと思います。将来的には普通の国になるかもしれませんが。
山本 私も岡田さんと近いところもあって何かちょっとほっとしました。これは国の生きざまにかかわることだから、きちっとした議論が必要ですし、国連についてもきちっと考えていかなきゃいけない。このセミナーには国連のスタッフも来ていますから、この後の質疑応答でいろいろな意見が出るかもしれません。 ではここで、あかりさん、岡田克也さんの人間性に迫る質問をお願いします。
武田 ドストエフスキーを趣味で読まれている方が、どのようにして奥さんを口説いたのですか。
岡田 いや、あの……。
山本 いや、あのって……(笑)。
岡田 別に口説いた記憶はないんで……。子供には「頼まれたから結婚した」って言っていて、子供はそれを信じてまして……。
武田 お子さんが聞かない大人の時間の番組なので、大丈夫です。ドーンとお答えください。
岡田 あうんの呼吸、じゃないですかね。山本さんもそうでしょう。
山本 いえ、私の場合は一緒にニューヨークにいて、ラーメンか何か食べに行ったのがきっかけですから動機ははっきりしているんです。奥様は自民党の国会議員の方の妹さんですよね。
岡田 そうですね。
山本 選挙とか、そういう関係の中で知り合われた……。
岡田 そうですね。
山本 じゃ、1つだけ。奥様のどういうところが一番好きですか。
岡田 ああ、難しいですねえ。20年前と今とは違うし。そういうことはほかの人に聞いてるの?(笑)
山本 聞いてますよ、もちろん。
岡田 そうですねえ。まあ、でも、こういうのは相性ですから、パッと見じゃないですかね。当時はやせててわりとスタイルよかったんで、ということじゃないですか。
山本 なるほど。そうすると表面的にもすごくすてきで、中身も気に入ったと、こういうことなんですかね。
岡田 そういうことにしときます(笑)
山本 やった!どんな質問をぶつけても絶対動揺しないのに、完全に動揺してましたね(笑)。その話はこのくらいにして、趣味は読書と国会質疑といいうことですが、音楽はあまり聞かれない?
岡田 ええ、いまは子供と遊んでいるのが結構楽しい。下の子供はまだ小学校2年生に上がったばかりでね。3人目は少し間があいたんですよ。もう孫みたいなもの。
山本 控え室で僣越ながら申し上げたのですが、岡田さんはこの世代から日本のリーダーを目指される方であり、政策の知識とか見識は素晴らしいものをお持ちですが、音楽も聞いていただきたいと思っています。
岡田 音楽は嫌いじゃないですけど、10秒ぐらいクラシックを聞いていると寝てしまうんですよ。
山本 クラシックである必要はないのでCDをプレゼントしますね。岡田さんが音楽を聞いて「おれ、何とかのグループが好きなんだな」とか言うと人間味がスーッと広がるような感じがしますので。
武田 一太さんのCDを……。
山本 いや、私のCDだと寝ちゃうかもしれませんから。
プライベートな話はこのぐらいにして、3月危機が遠のいたあと、公的資金の話やデフレ対策などの手綱が緩んでいるような気がするんですが。
岡田 まず、3月末は相当PKOをやったと思うんですよね。株価を無理に引き上げた。これは株式市場に対する信頼性をものすごく損なったと思うんです。そのマイナスは非常に大きい。銀行の経営の実態が悪いことは変わっていないわけですから、3月を越えたからいいという問題じゃなくて、やっぱりこれをどこかできちんとしないと金融調整機能は回復しない。僕らは、この4月、5月の間に何か大きなクラッシュが起きる可能性が高いと思っています。
山本 経済を立て直すためには何が一番必要だと思われますか。
岡田時系列的には、不良債権の処理が前提条件ですけど、「政府が何かできる」という発想に立つべきじゃないし、あまり過大に期待すべきじゃない。例えば、インフレターゲットで一生懸命土地や株の値段を上げても、また沈んじゃうわけです。そういう意味では、企業をもう一回再生することが大事です。例えばこういう法律はどうですかね。3年以内に黒字にできなければ、その経営者は自動的に首になる法律。
山本 うわーっ、それはかなりドラスチックな、過激な法律ですね。
岡田 経営者にその自信がなきゃ、経営を若い人に譲ったらいいんです。リスクをとるのが経営の基本。リスクをとれないなら経営者をやめるべきだと思いますけどね。政府にもいろいろ問題ありますが、民間の側で言えば、そこが一番問題じゃないでしょうか。
山本 岡田さんの哲学が現れてきましたね。時間が迫ってきたので、恒例の質問に入ります。岡田さんが考える21世紀の日本の国家ビジョンをお聞かせください。
岡田 まず、私は国が引っ張っていくというイメージを持っていないんですね。そういう時代は終わったと思います。基本的には、個人の多様な価値観を生かせる社会が基本。それを国家が保障するということだと思います。
山本 それは、つまり国の役割は限られていて、国は自由な競争とか、民間の英知とか、国民の知恵が生きる環境をつくるということですか。
岡田 そういうことです。もちろん防衛とか警察とか、民間にできないことはしっかりやっていかなきゃいけませんが、あまり国が関与していいことはないというのが、私が通産省で12年間経験した結論です。 途上国型のキャッチアップ社会は終わっているわけですから、発想の転換が必要じゃないでしょうか。国民の側も国が何かしてくれると期待をするのは間違っていると思いますね。
山本 そういう意味で言うと、ちょっと小泉さんの哲学に近いようなところもありますよね。自助自立。
岡田 それはそうかもしれません。
山本 引き続いてもう一つ。明日、岡田克也総理が誕生した一番最初に何をしますか。
岡田 まず、官邸に仕事のできる人を集めます。それから霞ヶ関がきちんと機能するようにしたい。
山本 官邸にイギリスみたいなポリシーユニットをつくる?
岡田 そうです。個人のできることは限られていますから、しっかりサポートしてくれる優秀な人間を最低30人は置きたい。
山本 霞ヶ関を機能させるには?
岡田 霞ヶ関の皆さんは、基本的には国のために公のために働こうという意欲を持って安い給料の公務員になる人がほとんど。それなのにいつの間にか何かおかしくなってしまう。彼らがしっかりそういう意欲を持ちつづけて仕事ができる環境をつくることが非常に大事だと思います。
山本 なるほど。ありがとうございます。最後に、いつも決めのせりふ、「総理大臣になって何々をするぞ」と叫んでください。
岡田 あれ、ほかの言い方でもよかったんじゃないの。「総理大臣になって?」なんですか?
山本 ええ、それでよろしくお願いします。
岡田 「総理大臣になって、自民党をつぶすぞ!」(爆笑)
山本 ありがとうございました。(拍手)