安保政策と自衛隊
有事法制に続き、イラク新法が国会で審議されようとしている。自衛隊は来年で発足から50年。自民、民主の幹事長は、これからの安全保障政策をどう描くのか。(司会=政治部長・木村伊量)
イラク新法
――有事法制3法に続き、イラク復興支援特別措置法案の審議。今度は自衛隊の海外派遣が焦点になります。
山崎氏 現在、25カ国が軍の派遣に手を挙げている。小泉政権は米英の軍事介入を支持した。自衛隊を派遣すべきだ。野党、なかんずく民主党と十分協議したい。
――「まず派遣ありきでは」との批判も出ています。ニーズはあるのでしょうか。
山崎氏 道路や橋を造るためゼネコンにお願いして大勢行ってもらえる状況にはない。炊飯も安全確保も物資輸送も自己完結的にできる部隊が行く必要がある。
――イラクへの経済制裁解除を決めた安保理決議1483が根拠だとされていますが、対米配慮が最大の理由との見方の方が多いのでは。
山崎氏 決議1483は日本の強い主張でできた。米国のウォルフォウィッツ国防副長官もアーミテージ国務副長官も「あなた方が『決議がないと(自衛隊派遣の)根拠法ができない』と言ったじゃないか」と言っていた。米国は日本の国連中心主義を理解し、手順を踏んでいる。私たちは決議に基づいてやる。
――民主党は評価しているのですか。
岡田氏 自衛隊を海外に出す時、国連平和維持活動(PKO)と、同盟国である米軍支援という考え方がある。テロ対策特措法は後者の初の例だった。あの時は9・11テロに対する自衛権行使と説明され、国際社会も容認した。我々も「国会の事前承認が必要」と主張した以外は、考え方としては賛成だった。
イラク戦争は自衛権行使ではなく国連憲章違反の疑いが濃厚な行動だった。イラク戦争を支持したのだからという論理は受け入れられない。決議1483で戦争の正当性のない部分をカバーできるのか、まだ十分整理できていない。下手をすると、米軍の行動なら何でも後方支援する方向に踏み出してしまう。
もう1つはニーズの問題。カンボジアや東ティモールと違ってイラクではインフラは整っており、行政が動いていないだけだ。自衛隊が必要なのか議論のあるところだ。
――非戦闘地域を限定できるのか、武器使用基準を緩和しないで対応できるのかという疑問にどう答えますか。
山崎氏 対応できる。(10日に会談した)アーミテージ副長官は「北部は完全に安全。中部はバグダッド周辺で小さな紛争がある。南部はシーア派とスンニ派の対立が激しく不安定要因はある」「イラクへの派遣はカンボジアPKOへの派遣と同じと考えてほしい。国際社会が分担を決める時、非戦闘地域に日本の役割を設定したい」と言っていた。武器使用基準は、護身と管理下にある人の防御に使用しうるということに今回はとどめたい。武器は有効なものを使わせてほしい。
テロ対策特措法
――テロ対策特措法を延長する理由は。給油などの需要は小さくなっています。
山崎氏 手を引くわけにはいかない。60カ国が参加し、どの国も手を引いてない。現在の支援で所要が少なくなってきているのかも知れないが、他の活動でできることがあればやればいい。
岡田氏 判断は次の国会で良いのではないか。ポイントは3つ。1つはどれくらい効果を上げ、油が他目的に流用されなかったか。もう1つは、これまでの支援分野にとらわれる必要はないが、今後何をやるのか。3つめはやはり基本計画は国会の事前承認を必要とすべきだ。北朝鮮問題が山場の時に、虎の子のイージス艦をインド洋に派遣して良いのかという問題も提起したい。
――その北朝鮮にどう対処するか、日本周辺では最大の課題です。「対話と圧力」で北朝鮮を交渉の場に引き出すことはできますか。
山崎氏 対話だけでなく圧力が必要だ。圧力には3つ考えられる。1つは北朝鮮の核保有を完全に認めないという、日米韓中ロの合意が圧力になる。2つめはこの地域における米軍のプレゼンスを維持し、対応能力を落とさないこと。もう1つは経済制裁。ミサイル輸出や核開発に必要な物資の輸入をさせない、麻薬取引や偽札づくりをさせないなどがある。万景峰号に対する検査もそうだ。
――その点で、米国が先制攻撃的に武力行使することも想定に入っていますか。
山崎氏 日韓の了承なしには絶対にない。
岡田氏 米国政府には、北朝鮮でも金正日体制を転換させるという考えが強いのではないか。体制転換のための圧力と、対話に応じさせるための圧力では中身が違う。そこについて日米で一致しないまま進むのは危うい。
山崎氏 イラクと違うのは、日、韓、中、ロが北朝鮮の隣国だということだ。米国もそれらを無視した行動はとれない。中国に行ってきたが、胡錦濤(フーチンタオ)国家主席は朝鮮半島の非核化をあくまでも対話で実現する、北朝鮮の体制転覆はだめだと言っていた。
岡田氏 体制転換の是非について日本政府内ですら分裂があることを強く懸念している。
――米国が攻撃しようとすれば止めますか。
山崎氏 もちろんそのつもりだが、当面その必要はない。米国も武力行使はできればしたくない。
有事法制の課題
――有事法制は、国会の9割近い圧倒的多数の賛成で成立しました。
山崎氏 専守防衛体制に法的なすき間がなくなった。民主党が安全保障で国論を一致させる判断をしていただいたことに感謝している。
岡田氏 民主党は、緊急事態法制は必要という考えだ。基本的人権の保障や、緊急事態への対処措置を国会決議でも終えられるという主張が入った。安全保障論議はタブーではなくなり、世論の反応も非常に冷静だった。
――宿題もあります。
山崎氏 国民保護法制を1年以内に整備する。米軍支援や自衛隊の行動の円滑化の法整備もしなければならない。不審船対応や国際テロには、現行法でも自衛隊や警察や海上保安庁が連携し、水も漏らさぬ体制をつくりたい。
――国会が自衛隊の行動、政府の権力乱用にチェック機能を果たせるかがポイントになるのでは。
岡田氏 国会決議で対処措置を終わらせることができるが、国会の調査能力は限られている。安全保障では政府と国会が責任を共有して判断することが必要だし、通常の与野党関係を超えた関係を求められることがある。
山崎氏 有事法制の整備そのものにシビリアンコントロールを明確にする意味がある。もしなかったら有事において自衛隊は超法規的に動き、非常に混乱するだろう。
岡田氏 国会が自衛隊をコントロールするのは非常に大事だ。自衛隊の制服組の責任者が、国会で説明することも重要ではないか。
山崎氏 いや、立法府は行政府に立法を通じて授権するもので、自衛隊の行動を直接コントロールすることはあり得ない。制服組が国会に来ることには賛成しない。
自衛隊の役割
――自衛隊の役割は「北の守り」から「西への備え」に変わってきています。今後のあり方をどう考えますか。
山崎氏 我が国を防衛する任務については、冷戦構造崩壊後、陸海空のバランスはこれで良いのか、ミサイル防衛が大事じゃないかと、自衛隊の構成や装備に関する考え方が変わってきている。
岡田氏 思い切った発想転換が必要だ。輸送できないような重い戦車を持つより、機動力を高めないといけないし、ミサイル防衛の議論も本格化させるべきだ。テロへの対応も十分とは思えない。今の政府の対応は、飛行機が主流になっても戦艦大和を造った時と同じではないか。
――ミサイル防衛では、パトリオットPAC3やSM3を、夏の概算要求に入れようという動きが出ています。
山崎氏 PAC3などを予算要求すべきだ。
岡田氏 党内論議はこれからだが、PAC3はいまのパトリオットの改良型と考えればそう大きな障害はなく、前向きな結論を出せると個人的には思う。本格的なミサイル防衛システム導入となると、北朝鮮だけでなく中長期的には中国に対する問題でもあるので、議論が必要だ。
――イラクもそうですが、PKOも含め自衛隊を海外に出す流れが強まっています。
山崎氏 国際貢献については、自衛隊に国際貢献部隊をつくるのが今後の課題だ。派遣の仕方もケースごとに法律をつくるのではなく、国際貢献の一般法「自衛隊協力法」をつくる必要がある。
岡田氏 国際貢献では、まずPKO的なものを中心にしながら、国連決議を前提にPKO参加5原則を緩めていく方向だろう。米軍の後方支援のための一般法は、米国が国連離れをしているだけに慎重な検討が必要だ。
――自衛隊を派遣する原則はどこに求めるのでしょう。自民党内には憲法解釈の変更で、集団的自衛権の行使も認めようという声もあります。山崎幹事長は、集団的自衛権を認めるには憲法改正が必要という立場ですね。
山崎氏 自衛隊の派遣は国連決議が条件になると思う。小泉政権は「集団的自衛権を行使しないという政府見解を堅持する」と言っている。次の政権が解釈改憲で集団的自衛権を認めようとしても、政権維持は難しいだろう。
岡田氏 私も憲法解釈の変更で集団的自衛権を認めることには反対だ。公海上で日本を防衛している米艦船が攻撃された時の対応は、個別的自衛権で説明できる。PKOでの武器使用も集団的自衛権の問題ではなく、国連決議がある時には武器使用を少し弾力的に考えるということで説明できると思う。
やまさき・たく 36年福岡県生まれ。67年福岡県議。72年の総選挙で初当選し、以後10回連続当選。89年宇野内閣の防衛庁長官、91年宮沢内閣の建設相、自民党政務調査会長などを経て、01年4月から現職。著書に「憲法改正」「2010年日本実現」など。
おかだ・かつや 53年三重県生まれ。76年通産省(現・経済産業省)に入る。大臣官房企画調査官で退職し、90年の総選挙で初当選。93年自民党を離党し、新生党結成に参加。その後、新進党の結成・解党を経験し、98年民主党。政策調査会長などを務め現職。
キーワード
<イラク復興支援特別措置法案> イラク国内で治安維持活動をする米英軍に、自衛隊が後方支援をすることなどを目的に、政府が今国会での成立をめざしている。(1)イラク国民への生活物資の提供、施設の復旧・整備(2)米英軍のための輸送、補給など安全確保の支援(3)大量破壊兵器処理への支援――の3分野。隊員の自衛に限られた武器使用基準は変更せず、隊員の活動は「非戦闘地域」に限るとしている。
<ミサイル防衛(MD)> 弾道ミサイルをレーダーなどで発見・識別し、軌道を予測して地上や海上から誘導ミサイルで撃ち落とすシステム。日本は99年から米国と共同技術研究を始めたが、これとは別に、米国が開発した地対空誘導弾パトリオット「PAC3」とイージス艦搭載型の「SM3」を購入する案が浮上。防衛庁では来年度予算案の概算要求に、購入費用の一部計上の検討を進めている。