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2004.09.09|その他

特別講演会『民主党が目指すもの』

今日はこういう機会をいただきまして、ありがとうございます。民主党代表の岡田克也です。13日に正式に代表に再任されることになっておりますが、今日はそれに少し先立って、今後2年間(代表の任期)、民主党が何を目指し、何をすべきかということを中心にお話をさせていただきたいと思います。 私、あまり長く話すことが好きではございませんので、是非、後ほど皆さんからもいろいろご質問やご意見を頂戴できればと考えております。

参院選結果

まず、先般の参議院選挙で、民主党は自民党を1議席上回る結果を得ることができました。1議席というのは非常に控えめな言い方でありまして、無所属候補も含めれば1プラス5上回ったということです。比例におきましては、昨年秋の総選挙で140万票ほど民主党が自民党を上回ったわけですが、今回は400万票上回るということですから、比例選挙においては、つまり国民の意思としては、明らかに自民党よりは民主党と判断していただいたと思っております。 残念ながら、選挙区になりますと、やはりベテランの、しっかりした基盤をお持ちの自民党の議員が各地域にいらっしゃいますので、昨年の総選挙においても、小選挙区で勝つということはなかなか大変だったわけですが、しかし、そこも今回の参議院選挙で、主として地方で、民主党の基盤が弱いとされる1人区で、無所属も入れて13勝14敗と互角の戦いができました。2人区は、民主党は例外なく1議席を取ることができました。そして、3人区、4人区では、東京、神奈川、愛知といったところで民主党は2議席を得ているので、さきの参議院選挙を見れば、これは政権交代も近いと思っていただくことができるのではないかと思っております。 私は、さきの参議院選挙の開票日に、あまりうれしそうな顔をしませんでした。マスコミからは笑ってくださいと随分ご要望もいただいたんですが、しかし、われわれの志はそんなに低くないと。1回の参議院選挙で自民党を少し上回ったからといって、それで満足するような低い志ではない。政権交代をしてこの国の政治を変えることがわれわれの目指すものですので、その大きな一歩をしるすことができたという意味では当然喜ぶべきことではありますが、それはまだ一歩にすぎない。本当の勝負はこれからだと。これから予想される総選挙、あるいは3年後の参議院選挙、この2つの選挙でいずれも単独で過半数を得て、そして民主党政権を衆参ともに確実な形でつくることが、われわれの目指すところです。 今回貴重な一歩だったと思いますが、自民党に勝ったとはいえ、「自公」に勝ったわけではありませんし、そんなに大喜びしていられないと思っております。


歴史に残る2年にしたい

さて、これから2年間、私はこの2年を日本の政治史に残る歴史的な2年にしたいと思っています。日本では、戦後、特に55年体制ができて以降は、政権交代がきちんとした形では行われておりません。細川政権、羽田政権、あるいは村山政権という権力の移行はありましたが、それは非常に短期であったり、あるいは、本来民主主義国家においては禁じられているような手を使っての政権交代であって、きちんと選挙を通じて、単独で過半数を制して政権が移行するということは、50年間行われておりません。それが初めて可能になる、そのための貴重な準備期間が、これからの私の任期2年と重なってくると思っています。 

政権交代を目指して

細川政権ができました。平成5年のことであります。この細川政権は7党1会派の寄り合い所帯でした。私も当選2回生議員としてこの細川政権の運営に後方から関わった一人でありますが、残念ながら、細川政権、羽田政権を合わせて11カ月で終わってしまいました。

しかし、その時にまかれた種が、この10年間野にあって、育って、今、花開こうとしているということだと思っています。本当に花を咲かせることができるかは、この2年間にかかっていますので、そういう意味で、大変責任重大で、これから一日一日、死力を尽くして頑張っていかなければならないと思っておりますし、民主党所属の議員一人一人、政治家一人一人が本気になって政権を変える、こういうチャンスは今を逃したらまたしばらくなくなってしまう、そういう思いで心を一つにして頑張らなければならないと考えているところであります。

まず政治への信頼回復

さて、では具体的に政権獲得に向けて民主党は何をするのかという話ですが、私は、まず大事なことは、政治に対する信頼を民主党が取り戻すということだと思います。この日本は、本当に残念なことでありますが、国民が政治を信頼していない。政治、政党、政治家、いずれもマイナスイメージであります。これはマスコミのせいだという人もいますが、やはり実態がそういうところがあるから、国民の皆さんが信頼していないというべきだと思います。 今、自民党が直面している政治と金をめぐる話なども、1億円の話、あるいは橋本派の1億円にとどまらず、迂回献金という形で特定の利害関係団体から一人の議員に何百万、何千万というお金が自民党というろ過装置を通して流れ込んでいる姿を見れば、額に汗して働いている国民は、そのことに対して怒りを通り越してあきらめてしまっている、そういう状況であることは否めないと思います。 しかし、国民が政治や政党や政治家を信頼しない中で、政治のリーダーシップが発揮できるはずはありません。やはりそこは、国民と政治がしっかりと「信頼」という太いパイプで結ばれていなければ、政治家が何を言っても、それを信じて、それに協力をする、一緒になってこの国を変えていく、そ

ういう機運が起こるはずはないわけで、そういう意味で、政治に対する国民の信頼を取り戻す、あるいは民主党がその先頭に立つことがまず大事なことだと思っております。

政治に対する信頼を取り戻すというのは具体的にどういうことかといえば、私は一言でいえば、まさしく民主党の所属の国会議員一人一人、あるいは政治家一人一人が国民の立場に立って、毎日毎日額に汗して頑張っている。そういった姿をしっかり国民の皆さんに見ていただく、信じていただく、こういうことだと思っています。そのことをまずわれわれ一人一人が自戒をしながら進めていかなければならないと思います。 

党改革

さて、もう少し具体的に申し上げますと、一つは、党をどういう方向にもっていくのか。つまり、党改革の問題が課題として挙がります。お手元の資料の「民主党改革の方向性」というものに述べておきましたので、後でお読みいただければと思いますが、菅さんが代表になって、私が幹事長として1年5カ月やってまいりました。この間進めてきたのが、この党改革であります。

透明性と説明責任がポイント

幹事長の時に一番力を入れてきたのは「透明性」、それから「説明責任」ということです。最近の企業経営にあたって、多くの立派な経営者の皆さんがそのポイントとして挙

げておられるのも「透明性」というキーワードであるということですが、私は、政党にはそのことがより求められていると考えています。 政治と金の問題など、今の自民党を見れば明らかに不透明で、国民から見たら、政党はわけの分からない存在であるわけです。そういう形ではなくて、きちんと透明で説明責任を果たす、そういう組織に民主党をつくっていこうと考えまして、私がまず取り組んだのは、党本部、あるいは都道府県連の政治資金の出入りについて、すべて外部監査にかけるということです。つまり、企業が受けているような日本を代表する監査法人に監査を受けて、そして、説明できないようなお金の使われ方がされていないということをきちんと、客観的に立証するということを始めました。もう既に党本部については、昨年度分の外部監査が終了しておりますし、今年度分からは都道府県連についても同じように、党が契約をした監査法人が47都道府県連に出かけて外部監査を実施することにしております。

これは、かなり革命的なことだと思います。党の中にもいろいろご意見がありましたが、あえてそのことを実行させていただきました。もちろん、実態がきちんとしているからそういうことができるわけですが、私は是非、自民党も含めて、他の政党もそういったことをされれば、もう少し国民から政党というものが信頼されるのではないかと考えております。そして、そういったいろいろなデータについてホームページを通じて国民がチェックできるようにするということも進めています。 あるいは、これも始める時は随分決断が要りましたが、当時の幹事長の定例記者会見、これについて記者クラブだけではなくて、内外のメディアにオープンにするということもさせていただきました。今、民主党は代表、幹事長の定例の記者会見をそういう形で開かせていただいています。ふだんよく知っている記者会の皆さんだけではなくて、週刊誌その他、あるいは外国のメディアが毎週来られて、例えば民主党が小さなスキャンダルを起こした時など、容赦のない質問をされるわけで、なかなか厳しい、つらいことでありますが、そういうことを通じてきちんと説明責任を果たしていくということであります。 

選挙対策

そういった透明性を高める、説明責任を果たすための改革をかなりやってまいりまして、もう少し進めなければいけないところはありますが、ここはほぼ完了かなというふうに私は思っております。その上で、これからの党改革、一つはやはり、選挙に勝つための準備をしっかりしていかなければなりません。そのためには、まず候補者をちゃんと立てるということです。さきの総選挙でも、最終的には何とか辻褄を合わせてかなりの候補者を立てることができましたが、それでも空白区は残りました。これは、それぞれの選挙区、あるいは都道府県連にとっては、いろんな理由があって、候補者を立てたくない、あるいは立てることができないという選挙区がどうしても出てくるわけです。それを解消していくには党本部のリーダーシップが必要です。 幸いにして、次の選挙で政権を取るということが視野に入ってまいりましたので、今非常に若い人材、あるいは豊富な経験を経た優秀な人材、いろいろな候補者が民主党から立候補したいということで、手を挙げてくれています。私は、少なくとも年度内、3月までに300の小選挙区をほとんど埋めることは可能だろうと思っています。今、あと75ほど空白区が残っています。

全候補が小選挙区から立つ

つまり、われわれ現職は小選挙区を全員が持っています。自民党のように比例だけという議員はいないんです。全員が小選挙区から出て闘うという、これは私が幹事長時代に実現したことです。選挙区で勝った人と、選挙区で負けたけれども、惜敗率で比例で救われたという両方ありますが、すべての現職議員が選挙区を持っています。そして、それに加えて、総選挙を終わって2カ月ぐらいの間に、さきの総選挙で非常に健闘した候補者については、すぐに予定者を公認をして、既に地元で引き続き活動をしています。残された75程度の空白区について、そのうちの幾つかは他の野党、社民党との協力ということもあるかもしれませんが、いずれにしても、3月までにはほぼ埋め尽くすということが具体的に視野に入ってまいりました。 最近の特徴は、非常に若い候補者が手を挙げてくれるということで、30代、40代、特に30代の候補者が、立派なところにお勤めであったり、弁護士だったり、いろいろな資格を持っておられるような方が、それを捨てて民主党から立候補していただける、これは大変ありがたいことだと思います。安易な世襲制を断ちたい

幸いにしてといいますか、自民党のほうは、どうしても世襲制ということで、新しい候補者が出る余地が少ないものですから、その分、民主党に志を持った有為な人材が集まりやすいという傾向もあります。もし、私が自民党の総裁なり幹事長であれば、世襲制を禁止するということをまずやるだろうと思います。ここが私は、中期的に見ると自民党にとって最大のネックだろうと。新しい血が入らないわけですから、組織としては全く尻すぼみといいますか、先がない状態になっています。もちろん、二世、三世でも立派な政治家はたくさんいます。しかし、そうでない方もいらっしゃるということだと思います。 かつての中選挙区時代は、別に世襲であっても、無所属で出たり、他の派閥から出たりして、選挙で淘汰されたわけですが、小選挙区になりますと、一つの政党で一人しか出ませんので、ここで安易に世襲にしてしまうと、10年、20年、ボディブローのように人材不足が効いてくるということだと思っています。 早く候補者を擁立する、そして、擁立した候補者は党である程度資金的な支援もしながら、しっかり地元活動をさせることが大事だと思います。もちろん、われわれはそういった候補者を甘やかしているわけではなくて、一たん候補者として決めても、活動が十分でない人は、途中で代わってもらうということを前提に今、候補者の選定作業を進めているところであります。 それから、党が勝手に決めるのではなくて、予備選を導入したりして、地域で選んでもらうような工夫も必要ですし、女性の候補者を増やしていくのも非常に大きな課題だと思っています。隣の韓国を見ますと、女性の政治家が、政党が活性化する一つの大きな要素になっています。私は、多少優遇措置をつけてでも、女性の候補者が増えるようなことも含めて考えるべきではないかと思っているところです。

10年後民主党国会議員の3割は女性に

考えてみれば、小選挙区制を導入した時に、小選挙区で女性の候補者が勝ち抜いて当選することは、とうてい無理だと多くの人が思っていたと思いますし、私もそう感じて

いた一人です。しかし、現実に小選挙区で女性の候補者がベテランの男性自民党議員を破って当選するということが、さきの総選挙では起こりました。例えば新潟は、小選挙区が5つあります。何とそのうち、女性の小選挙区当選者は3人いるわけです。1人は、あまりにも有名な方ですので名前を挙げる必要もないかと思いますが、あとの2人はわが党の西村さんと菊田さんという女性です。それぞれベテランの自民党議員を破って、小選挙区で当選をしました。

そういう時代になっているということです。この流れは、ますます加速するのではないかと思っています。私は10年後には、国会議員の3割は民主党においては女性という目標を掲げていますが、そのためにしっかりとした対策も必要だと考えております。

迅速な意思決定とチェック機能

党首の権限

もう一つ、党改革で重要なことは、組織を考える時に、トップにどのぐらいの権限を持たせるかという問題があります。われわれは、総理大臣に大きな権限を持たせるべきだと主張しているわけで、そのことと同じ次元で考えれば、党首・代表にも大きな権限を持たせるべきであるということになります。現実に民主党は、そういう形になっております。 しかし、一方でそれに対するチェック機関がないと暴走してしまいます。そういう意味で、恐らく今度の臨時党大会で規約を改正することになると思いますが、党内のチェック機能もきちんと位置付けて、トップに権限を持たせるとともに、それに対するチェックをしっかりできる体制をつくる、暴走を押さえるという党組織にしていきたいと考えています。これが「迅速な意思決定とチェック機能強化のための改革」ということです。

党の基盤強化は必須の課題

地方議員

それから、これはあまり外部の方には関心がないかもしれませんが、どうしても民主党は頭でっかち、つまり国会議員はいろんな人材がたくさんいる。しかし、地方に行くと、非常に地方議員の数が少ないし、若い人や新しい人がまだまだ育っていないという現実があります。そういう意味で、地方議員についてももっともっと数を増やしていかなければいけない。その中で、新しい支持基盤に立った人とか、あるいは女性の地方議員とか、そういった方々を増やしていく中で民主党の基盤を強くしなければならないと思っています。 これは一つの数値目標を立てました。地方議会というのは小選挙区ではありませんので、1人区もあれば、2人区、3人区、4人区、あるいは、市会議員などはもっと大きな選挙区になるわけですが、1人区、2人区では必ず1人は候補者を立てる。3人区以上では複数立てるということを私の基準として掲げています。これは、どこかの時点で党としても正式に決定したいと思っています。地方議員さんの中でも、どうしても自分がかわいいですから、同じ党から何人も立つと自分が危なくなるということで、なるべく立ってくれないようにという傾向がないわけではありません。そうすると、いつまでも新陳代謝が進みませんので、思い切って候補者をたくさん立てていくことが重要ではないかと思っています。 そういった改革をやり、そして、これは自民党でも同じような議論をされているようですが、シンクタンク機能の強化とか、政治スクールをつくるとか、そういったことも含めて、党改革の仕上げをこれからの2年間、特に2年間の中の前半1年間で改革については仕上げをしたいと考えているところであります。それができれば、政権交代に向けての党としての基盤は整うと思っております。

政策課題

次に政策の問題ですが、「2015年、日本復活ビジョン」というのを出させていただきました。これはまだ不十分なもので、今後さらに深めてゆきますが、ここで述べていることの第一は、やはり「本当の民主主義国家日本を創る」ということです。そのために政治に対する信頼をしっかり取り戻すことを中心に、いろいろな改革を実現しなければならないと思っております。

市場の生きない場に政治の役割

そして2番目が、「自由で公正な社会を実現する」ということです。今、日本の抱えている問題はいろいろありますが、私が非常に気になっているのは、「一億総中流」といっていた日本が今、失われつつあるということです。もちろん、競争は必要ですし、グローバル化が進む中で一定の格差が出てくることはやむを得ないところだと思いますが、それにしても、アメリカの「二極分化型社会」がわれわれの目指すものではないだろうと考えています。 私は、経済は基本的に市場を生かして、競争していけばいい。それに政府が余分なことはしないほうがいいという考え方でありますが、しかし、そういった市場が生きない部分というのは当然あるわけで、そこにこそ政治の果たすべき役割がある。そこが今、十分に機能していないのではないかと考えております。

所得税制のフラット化見直したい

一体、何が自由で公正な社会かというのは、一人一人意見が分かれるところだと思いますが、私は、一つは所得に大きな格差がないことが大事だと思います。これは税制の問題が中心になりますが、社会全体のコストを考えた時に、所得税制もあまりにもフラット化が行き過ぎるのは考えものです。昔のような極端な累進税率に戻せとは言いませんが、今、フラット化が流行のようになっていることについて、私はもう少し考え直す必要があるのではないかと思っています。




それから、公正な社会という時に、機会の平等というのが非常に重要になります。形式的な機会の平等ではなくて、実質的な機会の平等です。何が実質的かということは議論が分かれるところだと思いますが、例えば教育は、機会の平等にとって極めて重要なファクターです。現実を見ると、公立の小・中学校は相当問題があると思っています。学級崩壊とかいじめとか、学力低下とか、いろいろなことが言われています。




今、公立の小・中学校がいかに危機的状況にあるかというのは、例えば東京にお住まいのお父さんやお母さんが、子どもを中学校からなるべく私立に入れたい、あるいは小学校から、場合によっては幼稚園からというふうな大きなトレンドがあること一つとっても、明らかではないかと思います。 しかし、そういったチャンスに恵まれた人は、私立の学校に入ることができるわけですが、そうじゃない人は公立の小・中学校に行く。そこがもし問題を大きく含んでいるとすれば、それは機会の平等が確保されていないわけです。そういう意味で、公立の小・中学校の立て直しということは極めて大きな政治課題だと考えております。

よく小泉さんは、努力した人が報われる社会ということを言われます。異論のある人は、私はあまりいないと思います。努力した人が報われる社会はいい。しかし、努力しても報われない人は当然いるわけです。私はよく言うのですが、人生というのは、生まれもっての能力と、努力と、そして運だと。この運というものがある以上、努力しても運が悪くて恵まれなかったということに対して、きちんと手を差し伸べる政治でなければいけないと考えています。努力した人が報われる社会は当然、重要なことだと思いますが、それだけでは済まない。私は、小泉さんに一番欠けているのはそれではないかと思っていますが、そういったことについてもしっかりとした対応ができる政治でなければならないと考えております。

あと、具体的な問題を幾つか申し上げたいと思いますが、一つは、社会保障制度をどうするかという問題です。小泉さんは、3年間かけて社会保障全体の見直しをすると言っておられます。民主党も一緒になって議論しましょうと、お誘いをいだたくわけですが、今まで見ていると、ほとんどが先送りになっています。

待ったなしの医療抜本改革

例えば医療制度の改革、私は、小泉さんが厚生大臣の時に、野党側の厚生委員会の責任者をしておりました。ちょうど健保の負担が1割から2割に上がる時です。やはり、抜本的な改革をしない限り、単に負担増はよくないと申し上げたところ、小泉さんは、いや、抜本改革は必ずやると。だから、まず1割を2割に上げるところを認めてくれ、その後引き続き抜本改革をやるからと、国会答弁でもそういうふうに明言されたわけですが、結局2割に上がった後、見るべき改革はないまま終わってしまいました。今度は、2割からまた3割に上がる。また抜本改革をやりましょうということで、それは法律にも書き込まれました。

しかし、結局、抜本改革は先送りです。 医療制度改革一つとってもそうですから、医療制度、介護、あるいは年金、そういうものの全体を見直すといったとたんに、これはもう絶対にできないと言っても過言ではないと思います。 では、どういうふうにすべきかということですが、私は、やはり年金改革をまず先行させるべきだと思っています。これからの社会保障のポイントは、高齢者医療であり、介護です。つまり、高齢者に関わる部分が問題であるわけです。年金というのは、その高齢者に所得を保障する制度です。私は、これは民主党の案でもありますが、今の国民年金、基礎年金制度を抜本改革をして、そして最低保障年金、すべての人がもらえる年金制度をまず創るべきである。その財源は税にすべきだと、こういうことを主張しているわけです。

さきの総選挙では、そのために消費税の3%引き上げということも申し上げました。ただ、今の国民年金、基礎年金と違うのは、まず税ですから、保険料を集める必要がありません。したがって、国民年金、4割の人しか保険料を払っていない事態は解消されるわけです。同時に、税で取るわけですから、すべての人にそれを保障するのではなくて、所得の高い人にはそれは払わないという形で、全体の財源を切り詰めることができるということです。

そういった最低保障年金を一階建てとして考えて、そして、職業の如何、働き方の如何にとらわれず、所得に応じて保険料を負担し、その保険料に応じて年金がもらえる、そういう所得比例年金を二階建てとして設けるということです。 これからは多様化の時代ですから、同じ会社で40年間勤め上げるということはむしろ例外になると思います。会社が変わります。あるいは、公務員の方が会社勤めになったり、会社勤めの方が一念発起して事業を始めたり、いろいろな働き方があります。フルタイムで働く方もいれば、派遣の方もいらっしゃるし、パートの人もいらっしゃる。すべて所得に応じた保険料を負担する。そして、負担した保険料に応じて年金額が決まってくる、こういう制度にして、そこに分かりやすさと公平さを担保する。これが私達の年金改革であります。

この年金改革をやりますと、最低保障年金の部分は、全員がそれだけの年金を受けている。つまり、無年金者はいないということになるわけです。高齢者医療とか介護制度を考える時に、無年金者がかなりいるという前提で考えるのと、すべての人が最低限の年金は受け取っているという前提で考えるのでは、制度の中身がかなり違ってきます。すべての人が最低限の年金を受け取っているということになれば、例えば介護とか高齢者医療でも、高齢者に対して一定の保険料の負担をしてもらうとか、自己負担も考えられます。例えば、施設に入っておられる方は、そこで生活がもう成り立っているとすれば、年金はそのために払っているわけですから、その年金の中で一定の負担をしていただくというのは、十分な合理性があるということになります。 そこで無年金者の方と年金を持っておられる方が併存しているということになると、制度も複雑になります。すべての人が一定額の年金をもらっているという前提で、介護制度、あるいは高齢者医療制度を組み立てるということが可能になります。

医療制度については、現役世代は税金投入なし。そして、同時に、高齢者の分の負担もなし。つまり、自立的にやっていただくということで十分成り立っていくと思っています。自立的にやるということは、健保組合にしても、自営業の方などの母集団にしても、それぞれが自立的にやっていただいて、もし効率的な運営がなされれば、その分保険料を下げていいと。このように民営化に近い形で運営される。そのことでむだな医療費の出費がなくなるということだと思います。

高齢者の医療の場合には、やはり一人当たりの医療費が当然たくさんかかるわけですし、所得が少ないわけですから、保険料と自己負担だけでは賄い切れませんので、ここはかなりの税を投入しなければなりません。しかし、いろいろな数値を公表する中で、より効率的な運営がされるような工夫をする余地はかなりあると思っております。医療費のこれからの伸びは非常に大きなものが予想されていますが、その前に、効率化によってかなりの土台を下げることができると思っているわけです。

政府の分権改革はパッチワーク

それから、分権ですが、今まさしく「三位一体の改革」ということでいろいろ議論も起きています。今の知事会の中での議論、あるいは知事会と政府の間の議論を見ておりまして、やはり小泉さんのやり方のまずさが集中的に出ているなという気がするんです。大きなビジョンを示さずに、パッチワークでやろうとするから、こういう問題が出てくるわけです。




例えば、義務教育の国庫負担金の問題、知事さんの間でも意見が二つに分かれています。分権がなされることは非常にいいことだから、この際、義務教育の国庫負担金についても、当面は一部ですが、これを税源移譲して自由にできるようにすべきだという意見と、それに対して石原さん(慎太郎・東京都知事)や田中さん(康夫・長野県知事)のように、そんなことをしたら、教育のレベルが都道府県ごとに変わってしまう。ほかにその税源が使われてしまう。教育というのは、国が一定レベルのものを保障すべきだから、そういうことは認めるべきではないという意見に分かれているわけです。

問題は、全体としてどのぐらいの税源移譲をするのか。20兆ある補助金の中で、国に残すべきものは一部あるでしょう。われわれは18兆は移せると言っています。18兆移すという、その姿をきちんと示した上で、段階を追って税源移譲をしていく。その全体像が見えないからこそ、他に流用されるのではないかとか、そういう議論が出てくるのだと思っています。 

もう一つは、やはり本質的な議論が忘れられています。都道府県、市町村の格差をどのぐらい認めていくのか、その本質論が欠落しているわけです。確かに、今回の義務教育国庫負担金の問題も、トータルではそれにふさわしい額が税源移譲されたとしても、都道府県ごとに見れば格差が出てくる。

例えば、今考えられているような所得税を住民税に振り替えて税源移譲するということになると、高所得の方の多い東京などは、おつりが来るほど税源移譲されるわけですが、所得水準の低い都道府県では、今もらっている義務教育国庫負担金に相当するだけのお金が来ないという問題が発生いたします。

一方で知事会は、それは全部財政調整して、最後はならしてもらいたいということも言っているわけです。しかし、完全にならしてしまうのなら、何のために税源移譲したのか分かりません。やはり一定の格差は認めるという前提に立って、例えば産業の誘致とか、効率的な歳出の改革とか、そういったことに努力したところが報われる仕組みにしなければなりません。しかし、一方でどこまでも格差を認めていくことになると、たまたま住んでいるところによって、不公平感が当然出てくるわけです。その辺、どういう範囲で格差を認めていくのか。

そして、税源移譲をする時に、所得税でするのか、消費税でするのか、何で税源移譲をしていくのか。そういう大きな枠組みをきちっと決めないで、パッチワーク的にやっている結果、今の議論の混乱が出ているわけで、こういったことは、骨太な議論をまずしっかりすべきだと考えております。

もう一つ分権で大事なことは、分権といいますと、道州制ということが非常に脚光を浴びるわけですが、私は、分権の最も大事なところは基礎自治体、つまり市町村だと思います。住民に一番近いところにどれだけお金と権限を移すかということがポイントであって、そのことがまず議論されるべきだと思っています。そして、そういった形で基礎自治体に税源、権限が移譲された時に、本当に担い得るだけの能力を持つのかということも真剣に議論されなければなりません。そういう視点で合併の問題なども議論していく必要があります。おまけが来るから合併するという発想では、本当の意味の改革にはつながってこないと考えています。

市場の競争阻害こそ問題

経済の問題は、私は日本の産業、十分に力があると思っておりますので、市場を通じた競争が重要で、むしろそれを阻害していることが問題だと思います。例えば、独禁法の規制の問題、経済界には反対もあるようですが、やはり独禁法の規制は強化して、競争を促進していくことが非常に重要です。規制緩和ももっと大胆に進めていかなければなりません。そういう中で、経済の本来ある活力を引き出していくことが基本だと思っております。その結果出てくるいろいろな弊害は、むしろ社会政策として対応すべきである、政府が変な介入をして、既得権を守るような、ねじ曲げたような形になることは好ましくない、基本的にそういうふうに考えているところです。 そして、6番目に財政の立て直しの問題。これは、まじめに考えれば考えるほど憂鬱になる問題です。今年度予算でも19兆円のプライマリー赤字があるわけです。それを10年後にはゼロにするというのは、気の遠くなるような話です。しかし、何もしなければさらに赤字は拡大していきます。今、景気が良くなってきたから税収も増えるとか、いろいろな議論をされる方もいらっしゃいますが、景気が良くなれば、税収が増える以上に金利が上がって、金利負担のほうが増えるのではないかということも言われるわけで、きわめて深刻な事態にあると思います。世界中でこれだけ財政赤字を抱えた国はどこにもありません。突出して多い国です。したがって、10年でプライマリー赤字をゼロにするという目標を掲げて、着実に進めていかなければならないと思います。

財政改革はまず歳出から

基本は、まず歳出の改革です。例えば公共事業は、今でもGDP比で見れば、他の主要先進国と比べて倍以上の水準にありますから、これを国際水準に落とすことが重要になります。新幹線とか高速道路とか、いろいろな議論がありますが、そういった議論は、将来、公共事業のGDP比を半分にするという前提で物事を考えるのか、現状を維持してやっていくと考えるのかで全然結論が異なってくるわけで、私は、10年後には半分にする、毎年それに向けて努力していくという前提で考えた時に、例えば整備新幹線の問題とか高速道路の問題についても、おのずと結論が出てくるのではないかと思っているところであります。

もう一つは、やはり人件費が財政に占める割合は非常に大きいわけで、数を減らす努力をしっかりしていかなければなりません。橋本総理の時代には、このことにかなり真剣に取り組みかけたと思いますが、小泉総理になって公務員の数は全く減っていません。国家公務員の数は減ってはいるんですが、その分増やしていますから、結果的にはここの部分は全く努力がなされていないことは、非常に残念です。

お役所に任せておくと、減らした、減らしたと。1割カット、2割カットというんですが、その分他のところで1割、2割増やして、ネットで見ると横ばいというのが過去の経緯ですので、やはり純減ができるような仕組みをしっかりつくり上げて、進めていかなければならない。ないよりはあったほうがいいという発想ではなくて、限られた財源の中でどこに重点を置いてやっていくかという問題だと考えております。 社会保障の制度改革もかなり切り込まなければならない状態だと思いますが、それでも足らざる時には、やはり消費税を含む増税ということになります。しかし、まずやるべき歳出改革、まだまだ努力が十分ではないと考えています。

「積極的な国際貢献」では党内一致

外交・安全保障

最後に、外交・安全保障の問題ですが、今、民主党の中でこの問題についていろいろ議論があると報道されることが多いわけですが、実は、今何が議論になっているかといいますと、まず、日本が将来、国際貢献をもっとしっかり旗を掲げて、積極的にやっていく国になるべきだというところは、党の中でほぼ一致した意見だと思います。

その国際貢献という時に、経済協力、技術協力もありますが、もう一つは、平和の創造の問題であります。PKOとか多国籍軍への参加とか、いろいろな形態があり得るわけですが、そういったことに日本はもっと積極的に参加すべきだというところは、党の中で私はほとんど異論がないと思っています。

問題は、どういう論理でそれを進めていくかというところについて、やや意見の相違があるわけです。例えば、国連の決議に基づいて多国籍軍などに参加をしていく場合に、これは憲法9条の問題なのかどうかという解釈の問題があります。つまり、憲法9条は国権の発動たる武力行使は認めないと書いてあります。国連の決議がある場合には、国権の発動には当たらないというふうに考えますと、憲法9条の問題ではないということになります。憲法9条の問題ではないということになれば、憲法は、国連決議がある場合の活動については何ら否定していないということになるわけで、武力行使を含めたあらゆる活動が憲法上は可能ということになります。 そういう考え方が一つあります。

もう一つは、やはり国権の発動たる武力行使だと。例えば、今回のイラクの問題でもそうでしたが、その国連決議が正当な権限のある決議なのかどうかということについて、最終的には国が判断することになります。あるいは、多国籍軍が構成された時に日本は参加するかしないかというのも、日本の判断になります。そういう意味で、国権の発動たる武力行使に該当するんだという考え方があります。そういう考え方に立ちますと、武力行使そのものは憲法が認めていないから、現行憲法ではできないということになるわけです。

ただ、そういう前提に立っても、例えば今、PKOの参加も武器使用などはかなり制限されて、国際的なスタンダードにはなっていません。日本の自衛隊はかなり制限されています。あるいは、東ティモールなどで多国籍軍が国連決議に基づいて現地に赴いた時も、日本はPKOの原則に当てはまらないということで参加をしませんでした。

しかし、過去、日本が野放図な武力行使をして、戦争をしたということに対する反省から今の憲法9条があるのだとすれば、国連の決議があるような場合には、武力の行使に当たるか否かをもう少し柔軟に考えていいのではないか。武力行使そのものはできないけれども、今の政府だと、武力行使と一体化する行動もできないというふうになっていますが、国連決議がある場合には、厳しく制限する必要はないのではないか。PKOの武器使用の問題であれば、国際的なスタンダードでやったらいいじゃないかという議論であります。これは方向性は一緒で、具体的な憲法の解釈の問題として違うわけで、少し党の中で議論が残っているということです。 いずれにしても、国際貢献を積極的に進めていくことを日本外交の大きな柱にすべきだと、そういう考え方については、民主党の中でほぼ一致した意見になっています。 

そのほか、もう一つだけ話をさせていただくと、今の世界の状況は、特にブッシュ政権などはその典型ですが、やはり国連憲章の理想・理念とアメリカの方向性が明らかに違ってきていると思います。もちろん、その背景にあるのは、国連はほとんど機能しないという考え方があると思いますが、先制攻撃とか単独主義というのは、明らかに国連の理念とは違うわけです。これからの平和の創造、維持のために、国連憲章の掲げる理念を中心に組み立てていくのか、それとも日米同盟を重視して、単独行動、先制攻撃を唱えるアメリカと歩調を合わせていくのか。これは日本が今直面している重大な外交上の岐路だと思います。

理想をとるか現実をとるかというふうに割り切る方もいますが、私は、その役割に現実的には限界があるとしても、やはり国連憲章の掲げる理念は、過去の大きな世界大戦という経験を踏まえて、国際社会がつくり出した一つの知恵ですから、やはりそのことを尊重しながら、日本も自らの安全の維持、あるいは世界の平和の創造に協力していくことでなければならないのではないかと思っております。そんな考え方にわれわれは基本的に立っているということを申し上げておきたいと思います。

その他、いろいろ具体的に申し上げなければならないことがあると思いますが、最初に申し上げましたように、私としては随分しゃべり過ぎましたので、皆様のご質問にお答えする形で進めさせていただきたいと思います。どうかよろしくお願いします。




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