日本の未来・民主党の使命
民主党の岡田克也代表は1月18日、内外情勢調査会の全国月例懇談会で「日本の未来・民主党の使命」と題して講演、政権獲得と、そのための党づくりに向けた強い意欲を表明した。(文責・編集部)
私は昨日、神戸に行き阪神淡路地震10周年の式典に参加した。そこで被災者代表の話を聞き、改めて人命の大切さを感じた。政治の根本は、そこになければならないと思っている。
前回の総選挙は、比例では自民党を上回る票数を得たが、小選挙区では300議席の中で106だった。しかし、昨年の参議院選挙では、選挙区も含めて、自民党を上回る議席を得た。比例では400万票多かった。
そういう意味で、「政権選択」の時代に入っている。つまり、選挙結果によっては政権が変わり得る2大政党の時代に入ってきた。
私の使命は、次の総選挙で政権を交代させることであり、その上で自民党では出来なかった政治をすることだと考えている。
今年は政権を交代するための土台を作る1年だ。今年の解散可能性はそう高くない。今年よりは来年、小泉首相の任期の切れた後が可能性としては一番高い。今年はしっかり地固め、足固めをする。
積極的に複数候補を擁立する
その土台を作るために必要なことの第1は選挙の準備だ。第2は党改革、第3は最も重要なことで政権政策を作り上げることだ。
選挙では候補者を立てることが優先される。衆院300小選挙区に―社民党などとの協力も排除しているわけではないが―原則として候補者を立てる。
参院の場合も3人区以上には複数候補を考える。そして、2人立てる場合には、できるだけ女性の候補者を1人という考え方に基づき準備を進めていく。
自民党も党改革を正面に掲げているが、民主党が先行している。特に党と金の問題については、外部監査を導入するなど、格段の進歩をしたと思っている。こ れからの党改革の重点は地域の強化だ。 「国会議員の顔は見えるが、地域に行くと弱い」「従来の政党とどこが違うのか」と言われる。従って、地方議員を増 やすと同時に国会議員の日常活動を強化する。それは議員の選挙対策であると共に、政治家を育てることだ。私自身、官僚出身者として地元に34歳で戻り、地 域で揉まれながら活動していく中で、政治家としての基本ができたと思っている。
地方選挙でも空白区をなくし、3人区以上では複数候補を立てる原則だ。今年は都議選がある。これが1つのモデルケースだ。4人区以上には2人立て、都議会第1党を目指したい。
米国に対しても「独立国の気概」もって
安全保障問題は、かなり党内の意見集約ができている。日米関係―日米同盟という言葉を使ってもいいかもしれないが、その重要性を認めることは当然という前提だ。
特にアジアでは、日米同盟が全体の安定要因になっている。日本自身の安全を考えても、アメリカの存在は極めて大きい。ただ、アメリカの言うことなら最後は やむを得ないという思考パターンは戦後かなり定着をしている。小泉首相も、そういう考えに染まっているのかなとも思うが、国家として独立の気概を持って、 パートナーシップを築くことが重要だ。
トランスフォーメーションの議論が出てきている。政府間で仕切り直しをして、まず「共通の脅威とは何か」から議論していこうとなったようだ。 どこの基地を削るとか返還するとかの議論の前に、根本をきちんと議論することは非常に大事だ。
ただ「共通の脅威」という時、アメリカが言うような「不安定な弧」、つまり東アジアから中東まで含む全体に脅威があるという認識―あるいは認識まではい いとして、それに日米が共同で対応しなければいけないとの結論になると、やや違うのではないかと思う。
アジア・太平洋を超えて、日米が安全保障面で協力することをすべて否定するわけではない。しかし、それは国としての個別具体的な判断に基づいて行うべきだ。
日米同盟は、国連の問題と同時に考えなければならない。アメリカと、十分ではないが有効に機能し得る安全保障の仕組みを持つ国連とが、方向性が違うこと が大きな不安定要因だ。アメリカと国連の方向性が一致するように努力していくことが、日本にとって最も重要な外交課題だ。
そういう意味で言うが、先般、国連のハイレベル委員会で国連改革の考え方が示された。日本では常任理事国の話が中心に取り上げられるが―もちろん常任理事国入りを目指すべきだと考えるが、そこでは「先制攻撃」に関する提案もなされている。
国連で示されたことについて、基本的にどう考えるのか、しっかりと発信しなければならない。常任理事国になりたいだけで手を挙げるのではなく、世界の中で提起されている大きな問題について、どう考えるのかを示してこそ手を挙げる資格がある。
同時に日本はアジアの一員であり、懐の深いアジア外交を展開していくことが日本にとって大きな利益だ。
まずなすべきは「基本チョイスの論議」
地域が大変疲弊している。公共事業を中心に地域経済を作る仕組みをビルトインしてきたから、公共事業が伸びない、あるいは減るという前提に立った時、地域がどう自立的に発展していくかを、組み立て直さなければならない。
その中心はやはり分権だが、小泉首相の三位一体改革は分権の名に値しない。権限、財源をきちんと移して、地域の責任で判断できるようにすべきだ。補助率を下げるだけで最終決定権限は国が持っているのでは話にならない。
三位一体改革のドタバタ劇を見て、私は霞ヶ関がおかしくなっているのではないかと杞憂した。
各省庁が出してきた分権案は、自らの権限は絶対に譲らないという決意の表れだ。国なくして省庁ありを示したのが、このドタバタ劇だったのではないか。
族議員が走り回り、大臣は官僚や族議員の言うことを聞いて、利益を擁護する。残念ながら、それがこの国の現実だ。やはり、根本的に変えなければならない。
若い世代が夢を持てるような日本にしなければならない。その前提は、持続可能な社会―社会保障であり財政だ。
社会保障には年金、介護、医療とあるが、最も重要なのは年金で、その結論を得た上で、介護や医療を議論すべきだ。
最低限のレベルはすべての人が持っているという前提に立てば、高齢者が一定の負担をすることも組み立てやすくなる。そういう意味で、年金制度をまず構築をすべきだ。
来年度の予算でプライマリーバランスを確保するためには、16兆円の歳出減か、歳入増が必要だ。10年後にプライマリーバランスを取るというが、現状では無理だ。
特に危惧するのが公共事業の問題だ。公共事業の絶対量が欧米に比べて非常に大きい。将来的には対GDP比で半減するという前提で組み立てていくべきだ。
そういう視点で見た時、関空2期工事や整備新幹線に、将来の展望を示すことなく予算がついたのは一体どういうことか。
全体の公共事業は半分になっていく。今までの投資蓄積のメンテナンスにもかなりの予算が食われる。新規に投資できる余地は、極めて限られたものしかない。
では、それを整備新幹線に投入するか、災害対策に使うか―チョイスの問題だ。あるいは公共事業に投じるのか、社会保障に投じるのかのチョイスだ。それを 議論せず、野放図に整備新幹線を先延ばしする発想では、若者が夢を持てる財政の立て直しなど覚束ない。
公共事業と並んで重要なのは、公務員人件費だ。定員を減らし、1人当たりの人件費を減らす中で、財政に占める人件費の割合を思い切って低くしなくてはならない。
政策には”思い切り”が必要だ
少子化は、対策を講じて少なくとも20年ぐらいかかって初めてプラスの影響が出てくる。しかし、先送っていたのでは、少子化の流れは止まらない。
子供手当てを拡充すべきだ。配偶者控除、配偶者特別控除、扶養控除を廃止して、手当てに置き換えると、所得が少ない人により厚い制度になる。政策としての”思い切り”が必要ではないか。
郵政の問題についても一言触れておく。郵政問題を最優先に取り上げること自体、小泉路線に入っていると思うが、幾つか述べておきたい。
郵政民営化・郵政改革が、最初どういう視点で出てきたかだ。それは、財投を何とかしなくてはいけない。郵貯、簡保で集めた金が財投に回り、かなりの非効率な、あるいは公的不良債権が発生している。そこを何とかすべきだという問題として論じられた。
しかし、もう制度的にはいったん切れているわけだから、郵政民営化をしなければ特殊法人や財投機関の問題が解決できないということでは既になくなってい る。 来年度予算でも、特殊法人は国が100%保証する財投債だけではなく、自らのリスクを負う財投機関債を発行することも可能になっている。しかし、そ の金額は微々たるものだ。すべての特殊法人が財投機関債で成り立つようにすれば、この問題は解決する。財投債の発行を認めなければいい。しかし、首相の言 とは裏腹に、財投債の発行は続いている。しっかりした方向性を示すことが重要だ。
郵貯、簡保合わせて350兆円。これを民営化した法人が運用するが、それだけの能力があるのかも、真面目に考えておくべきだ。
350兆の運用を民間に任せる場合、国債はどうなるのか。郵政公社が持っている国債を自由に運用していいとは、自由に売っていいことになる。それで一体何が起こるのか。今あるものをどうするのかの答えは、具体策を実行する前に用意しておくべきだ。
3番目は国民資産の3分の1を占める巨大金融機関ができると、日本の経済全体の中にどういう影響を及ぼすのか。これも真面目に議論された形跡はない。
まとめたい「真の豊かさ示す政策」を
結党以来6年、個別具体論はいろいろあるが、大きく括った時の姿が見えにくい。マニュフェスト選挙のマイナス面だ。従って今までの政策をベースに、大きな方向性について、一つのビジョンの形でまとめたい。
少子高齢化、財政…そういうものがあるから、明るい話ばかりではない。経済成長率で言えば、生産性を上げる努力をしても、人口が減っていくから大きな成 長は望めない。しかし、成長率が1%を切っても、その中で1人1人が豊かになっていくことは可能だ。
これは前提の置き方による。固く考えれば、人口減少の下で低い成長率にならざるを得ない。しかし、例えばエネルギーや原材料価格が上がり続けると日本の産業に対応能力があるとすると、数字が変わる可能性もある。
日本は、国際競争力のある産業と、そうでない産業の間に大きな生産力格差がある。ある機関によれば、30%ぐらいのところは世界の平均を超えるような生産性を誇るが、残りの70%は世界レベル、先進国のレベルから見ると7割ほどの生産性しかない。
7割の生産性しかないものを100%に引き上げれば、それだけでかなりの成長余力があるという見方もできる。
しかし、政府の前提は成長率も出生率も楽観的だった。少し硬く見て組み立てて、プラスするものがあれば、それはさらによくなると考えるべきではないか。
そういうマクロのフレームに立って、日本経済の将来性、その中での本当の意味での豊かさをしっかりと示すようなビジョンを形作っていきたい。
問 選挙がない今年中に、年金の方向性を見出す努力をするべきではないか。国民投票法案について、党内をまとめる自信は。
岡田 年金はまず国会でしっかり議論をしようと言っている。国会で議論して、方向性が出てくるようであれば、次のステップに進める。しかし国会で提起しても、全く答えが返ってこない。全部ノーで政党間協議をというのは、国民から全く見えないことになる。
国民投票法案はかなり議論を積み上げてきた。憲法について考え方を変えていかなければならない部分があるということは前提になっており、憲法の改正、国民投票の手続きを、議論しないことの方がおかしい。
政府案が出てくるのであれば、それに対するものを、きちっと出す。全く不安感を持っていない。
問 靖国問題に関する考えは。
岡田 私自身は首相として靖国神社に行くつもりはない。
今の状況は、首相が総裁選に先立ち、8月15日に靖国神社に行くと公約し、それに対して海外からの批判が出ている。首相である以上、国益を考えて判断す べきだ。同時に、外国から言われたから考え方を変えるという問題ではない。首相自身が判断する問題だ。W