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2005.05.21|マスコミ

近聞遠見:「岡田タイプ」を買う理由

「10年前、自民党と社会党が荒っぽく連立を組んだのに比べれば、いま、民主党と自民党の一部が結んで何の不思議もない。宮沢さんだって、『小泉より岡田のほうがいい』って言っているんでしょ」

と民主党幹部の一人が言う。

このところ、自民党の軸足は右にカーブを切ったままで、宮沢喜一元首相に代表されるリベラル勢力が手薄になっているのは確かだ。宮沢が小泉純一郎首相より民主党の岡田克也代表の言動に親近感を抱くのも理解できる。だが、それが直ちに政党再編につながるものでもない。

とはいえ、小泉政権の4年間、郵政といい、イラク・靖国といい、内政、外政をめぐる自民党内の分断現象は相当に進行している。水面下で、反小泉勢力と民主党の連携工作が始まってもおかしくない政情だ。最近は、

「次の総選挙で、かりに民主党が1位になっても、過半数を取れなかった場合、公明党はどうするのかな」

などと小泉自身が話題にする。だが、公明党だけでなく、自民党の反応も気になる。そんなシーズンになってきたということだろう。

政治路線に劣らず、リーダー論もこの際重要だ。岡田民主党1年のメディア評価では、

<腐心>

という単語がやたら目立った。党内融和、求心力維持に心を砕かざるをえない不安定な党内情勢を指摘しているわけで、岡田の指導力が危ぶまれている。

だが、新顔の若い(51歳)党首が、1年くらいで強力な統治力を発揮できるはずもない。肝心なことは、岡田タイプが時代の要請に沿っているかどうかである。

岡田批判の主なものを拾ってみると、官僚的で手続き重視にすぎる、切れ味に欠ける、野党らしさが乏しい、トップダウンを避ける、優等生的だ、面白みがない、などだ。それぞれ当たっている。

逆に、魅力はきまじめさと愚直な一歩一歩主義である。昨年5月、代表に就任したとき、岡田は第一に地域対策の重視を掲げた。民主党は地域の組織が弱く、地方議員の数も自民、公明両党よりはるかに少ない。

そこで何をやったか。昨年7月23日の福井県鯖江市を皮切りに全国行脚をスタートさせ、3月26日の宮崎県都城市を最後に、8カ月で47都道府県を回り終えた。

「何よりも元気をもらった。古い政治のもとで閉じ込めていた地方のエネルギーを解き放っていく」

と岡田は行脚の実感を語っている。目立たないが、徹底した行動力は貴重で、多分こんなことを試みた党首は過去にいない。

ところで、劇場型の政治がはやるなか、小泉は新しい指導者のタイプを作った。一言で言えば、パフォーマンス重視型である。岡田は違う。

戦後のリーダーを眺めてみると、岡田の対極にいるのは田中角栄だろう。人間的魅力を発散し、勘が鋭く、実行力と<金と情>による求心力を誇った。いまも、リーダー志願者たちはひそかに角栄型を追っている。

しかし、角栄型は次第に古く、懐かしさは残るものの、時代にマッチしない。小泉型は面白くても、政治を軽くしている。いずれも捨てがたいものがあるが、ほかのタイプがあっていい。

時代の閉塞(へいそく)感から抜け出すのに、世間は地味なまじめ路線をどこかで待望しているのではなかろうか。岡田タイプはそれに近い。

「奇手奇略ではなく、王道を行けばいい」

と岡田は言う。世間はわがままで、奇手奇略を好むところもあるから、岡田人気は出にくい。それでもいいではないか。(敬称略)




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