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2006.10.06|国会会議録

165-衆-予算委員会-3号 平成18年10月06日

岡田委員 民主党の岡田克也です。

ちょっと雰囲気を変えまして、私は午前、午後に分かれておりますので、午前は、内政問題を中心に政策論を総理と議論したいと思っております。



総理が所信表明演説で述べられたこと、あるいはその後国会答弁で述べられたこと、あるいは総裁選挙の最中にお話しになった、その発言をもとに議論を進めていきたいと思いますので、総理御自身が御答弁いただくことをお願いしておきたいと思います。



まず、一つ確認だけしておきたいと思います。

総理は、社会保障制度について、介護、年金、医療、一体的な改革ということをたびたび強調しておられます。所信表明演説の中でもそういう表現が出てきます。一体的改革というのは具体的にどういったことを考えておられるのか、簡明に述べていただけますか。

安倍内閣総理大臣  介護、医療、年金、あるいはまた、いざというときの生活保護を含めたそうした諸制度について、こうした制度はまさに国民のセーフティーネットでありますか ら、しっかりと維持をしていかなければいけない。維持をしていくためには、これは負担が伴うものでありますから、持続可能なものにしていく必要がありま す。持続可能なものにしていくためには、また負担がある程度納得できる負担でなければならない。その納得できる負担の中で給付を図っていくということにな る、こういうことではないか。



その中で、例えば年金と医療との関係においても、ある程度年金を保障している中において、老齢者の医療費においてはこの年金の中でどれぐらい賄えるもの が保障されているかという観点からも考えていく必要もあるでしょうし、またあるいは、施設の介護等々においては、施設費をどれぐらい個人が負担すべきかど うか、または、在宅でしている人たちとの公平性も考えなければならない、こういうことではないかと思います。



また、医療制度と介護、これをどうお互いに役割分担をしていくかということも考えなければならないということではないか。さらには、例えば、治療や介護 から、予防の観点、介護が必要にならないための予防をどうするかということもあるんだろうと思います。また、例えば、よく指摘されていることでございます が、国民年金の年金の給付と、あるいはまた生活保護の給付とのバランスについても、いろいろな議論があるところでございます。



こうした全体を常に一体的に議論していくことが私は大切であって、一つ一つをばらばらに議論することではなくて、全体的に議論をしながら全体の負担と給 付のバランスを考えていく必要があるとの観点から、常に一体的な見直しを考えなければならないということを申し上げてきたところであります。

岡田委員  私はやはり、年金というものがきちんとしている、つまり、すべての高齢者がきちんと一定の額の年金を受け取っているという前提で、その上で医療とか介護 の、例えば自己負担とか保険料とか、そういうものを組み立てていく、そういう意味で一体的だ。総理も最初におっしゃったんですけれども、そこのところが非 常に重要だと思うんです。ということは、やはり年金制度がしっかりしているということが大前提ですね。ここが壊れちゃうと全部崩れちゃう。一体改革はいい けれども、全体が崩れちゃうということにもなりかねません。



そういう意味で、私は年金の問題にこだわり続けているわけですけれども、総理は、年金が破綻するというのはどういう意味だというふうにお考えですか。総 裁選挙の最中に、一円ももらえないことを破綻という、こう言われましたね。今でもそういう認識ですか。

安倍内閣総理大臣  破綻というのは、もう事実上給付することができなくなっていく状況をいうのではないか。そこで、例えばそれが所得代替率何%かということを直ちに今申し上 げることはできないわけでありますが、国民が期待をしている年金額、当初保険料を払い始めて期待している給付が全く受けることができないということではな いかと思います。

岡田委員 給付が全く受けられない、つまり、一円ももらえない状態を破綻というのは、私は間違っていると思いますよ。だって、一円ももらえないなんてことはあり得ないですよ。



ということは、破綻しないということを総理は言っているわけですけれども、しかし、一円もらって、それで意味がありますか。一円ももらえないという、その表現は、いや、一円でももらえればそれは破綻じゃないということになるじゃないですか。違いますか。



安倍内閣総理大臣 私も、演説をしてきた文脈すべてを覚えているわけではありませんが、私は恐らくこう申し上げていたんだと思うんです。世の中で、破綻すると一円ももらえないかのごとく議論が行われているけれども、それはおかしいということを申し上げたわけであります。

岡田委員 総 理は、日本記者クラブでの討論会で述べられているんですよ。議事録もあります。「厳しいと制度が破綻するのかということです。破綻というのは、つまり年金 が一銭も払えませんよということですね。それは全くの誤りです。」当然ですよ、そんなことは。「例えば出生率一・一。皆さん、おそらく一・一になったら、 もうだめだろうと思っておられると思います。が、一・一になっても、四六%の代替率を確保できます。しかし、五〇%という約束は破ることになる。」



後段、総理の言っていることは正しいんですよ。つまり、今約束しているその制度が維持可能でなくなったときに破綻というんじゃないんですか。ですから、 今、年金改正によって現役所得の代替率五〇%、そして最高の保険料率が一八・三%ということを法律で約束している、国として約束している、そのことが持続 可能でなくなったときに、それは制度は破綻したということじゃないですか。いかがですか。

安倍内閣総理大臣  先般の年金制度の改正において、私どもが予測している出生率の中において、年金をもらい始めた段階においては代替率五〇%を確保する、しかしながら、その 後出生率が大きな変化を示す中においては、それは給付を調整するということも、見直しをするということも法律には書いてあるわけでございまして、法律自体 が想定している状況が全く崩れたということではないということでございます。

岡田委員 しかし、法律上五〇%ということはちゃんと書いてあるんじゃないですか。ですから、五〇%が維持できなくなるということは、今政府が約束している制度を変えざるを得ないということでしょう。

安倍内閣総理大臣 この法律の中に、いわば出生率が大きく変化をしたときにはまた見直しをするということが書いてあるわけでありますから、その中で対処をする。



しかし、私どもは、例えば二〇五〇年に一・三九ということを予測しているわけでありますが、先ほど私が講演の中で申し上げましたように、一・一でも四六 にはなりますよということは申し上げました。しかし、さらに一・三九にするべく全力を尽くして少子化対策を行い、また、よってこの年金制度を何とかさらに 安定させたい。そして、給付において代替率五〇%、これはもらい始めの段階でありますが、それを確保するために頑張ってまいりたいと思います。

岡田委員 所信表明演説の中でも、年金について総理は、「公的年金制度は、国が責任を有しており、破綻したり、払い損になったりすることはありません。」こう書いておられますね。



ということは、総理の定義によれば、公的年金制度は国が責任を有しており、一円ももらえないということはありません、こういうことですね。

安倍内閣総理大臣  講演においては、わかりやすいお話をいたします。まるで年金が直ちに破綻するかのごとくの議論があるから、それはそうではないですよと。年金が直ちに破綻 するかのごとくがあることによって、つまり保険料の納付率にも大きな影響を与えているということから、私はわかりやすくお話をしたのでありまして、そんな に簡単に崩壊するわけではないですよ、そして公的な年金制度、例えば国民年金においても、今三分の一税金が入っていて、将来半分にしていくわけであって、 これは安定させていく、当然払い損になることはないということを私は強調したわけでありまして、事実、そうであります。



出生率においても、まるで一・三九を割って、例えば、一・三を割るともうほとんどもらえないかのごとくのそういう印象を持っている人たちが多いのも事実 でありまして、私が一・一で四六%代替率がありますよということをお話ししたら、ああ、そうですかという人も随分多かったのも事実であります。



そういう意味におきまして、年金制度の実態をこれから国民の皆様によく説明をしていくことが大切であり、また、我々もそういう努力をしていきたいと思います。

岡田委員 厚 生年金が直ちに破綻すると言っている人は、私は聞いたことがないんですよ。ですから、聞いたこともないような話を前提に、まるで我々が言っているような前 提で言われるのは、私は全く筋違いだと思いますよ。国民年金は、それは非常に厳しいですよ。三人のうち一人は保険料を払っていないんですから、国民年金 は。だけれども、厚生年金が直ちに破綻するなどとは言っていませんよ。



そしてもう一つ、総理が言っておられる「払い損になったりすることはありません。」これはそうですか、事実ですか。

安倍内閣総理大臣 払い損にはならない、こういうふうに考えています。

岡田委員 つ まり、今の制度が維持できなくなる、例えば、出生率が総理のおっしゃるように想定よりも低くなって維持できなくなれば、その時点で法改正、制度改正が必要 になりますね。そうすると、保険料率、最高一八・三を上げるか、あるいは所得代替率五〇%を下げるか、どちらかが必要になります。そのしわ寄せはそのとき の働く世代にみんな来るんじゃないですか、基本的には。そういう意味で、若い人は払い損になるんじゃないんですか。いかがですか。

安倍内閣総理大臣 どの世代のことを言っているかということによっていろいろな議論があるところでありますが、基本的には、今厚生年金のことについておっしゃっているのだとしますと、半分自己負担で半分は使用者が払うという仕組みになっている制度であります。



その中で、上限を一八・三ということで決めたわけでございますが、その後、先ほど申し上げましたように、上限をそのような上限にして、また積立金もある 中において、その積立金を給付の方に回していくという中において、代替率を、先ほど申し上げましたように、一・一まで下がったとしても四六%は確保できる という中において、これは平均寿命まで生きるかどうかということもあります。それは、もちろんそういうリスクの上で年金制度というのは、保険ですから、成 り立っているというのは当たり前のことでありますが、これは平均寿命まで生きれば、自分が払った額以下になるということはないということでございます。

岡田委員 自分が払った以下になることはないというお話ですが、それは、ですから使用者側が払った保険料をどうカウントするかの問題ですから、本来それは給料だ、本来もらうべき給料だと考えれば、明らかに違うわけですね。



それは、今年金を受け取っておられる世代の方は幸せですよ、そういう意味では。そのことが悪いとは私は言いません。だけれども、これから若くなればなる ほど、払った保険料に対して受け取る年金の割合が悪くなっていくことは間違いないし、自分で払った分だけ見れば、損をするというか、それはマイナスになる ことも間違いない、そのことを申し上げておきたいと思います。



そこで、総理、年金についてお聞きしたいと思いますけれども、年金の抜本改革、つまり、総理は、共済年金と厚生年金を一つにすれば、一本化の話ですね、その後はもうそれでいい、抜本改革は基本的にそれで終わりだというふうにお考えですか。

安倍内閣総理大臣  私がお答えをした後、また詳しくは厚生労働大臣からお答えをいたしますが、まずは被用者年金である共済年金と厚生年金、これは、同じ給料をもらっていれば 同じ保険料で同じ給付であろう、そういう仕組みにしていかなければ官民の格差を放置することになるわけでありまして、私たちは、まずできることからやって いかなければいけないと考えています。



そして、厚生年金と国民年金の統合につきましては、いろいろとハードルがあるのは事実でありまして、果たして国民年金の保険料を支払っている方々の所得を厚生年金を払っている方々と同じように捕捉できるかという問題もございます。



そしてまた、国民年金を支払っている人たちにおいて、彼らの人生設計が厚生年金を支払っている人たちとは大分違うところがあるわけでありまして、いわ ば、被用者年金においては定年があって定年後ということになるんでしょうけれども、国民年金の方々は自営業者の方々が多くて、まさに、ずっと自分は生涯現 役でいこう、それをある程度補助してもらう程度でいい、だから保険料は安くて、給付もそれを補てんする程度でいいという人たちの人生観もあるわけでありま して、そういう中で、果たして統合することがお互いにとっていいのかどうかということも、当然考慮をしなければいけないものではないか、このように考えて います。

岡田委員 ちょっと先ほど言い間違えましたので訂正しておきますが、使用者と本人の合計を下回る、支払った額の保険料の合計を下回るということですので、訂正しておきます。



さて、今の総理のお話ですが、捕捉の話ですね。自営業者の方はちゃんと捕捉できるかどうかという問題があると言われました。しかし、私は、これは日本国 総理大臣に言ってもらいたくないんですね。だって、これは年金だけじゃないんですよ。社会保険料すべてに言えることですよ。介護保険だって医療だって、み んな所得水準によって違ってくるんですよ、サービスが。ですから、そのことを最初にあきらめてしまう、もっと言えば、では、うまくごまかした人はそれでも らい得になっちゃう、それが美しい国ですか。



やはり、きちんと国民の責任として払うべきものは払っていく、そういう国を私は目指したいと思うんですよ。もちろん、自営業者の方の多くはちゃんとして おられると思いますよ。でも、一部のそういった不心得者をまるで認めんがごときそういう発言は、私は総理としては控えていただきたいと思いますが、いかが でしょうか。

安倍内閣総理大臣  すべて把握をするためにはそういう仕組みももちろん構築をしていく必要もあるでしょうけれども、しかし私が申し上げているのは、厚生年金の保険料を払って いる方々にとっての不公平感が出やしないか、こういうことでございます。被用者の年金を払っておられる方々はまさに、これはもうすべて把握をされているわ けでありまして、新しい仕組みをつくっても、例えば性悪説に立てば、すべて把握するのはなかなか困難であるのも事実であります。



そういう中で、果たしてこれは公平性を担保できるのか。だから、国民年金の方は、これは定額において、そして水準も厚生年金に比べれば低い水準になっている、こういうことではないかと思います。

岡田委員 我 々は納税者番号制の早期導入ということを言っているわけです。納税者番号制を導入したからどこまで捕捉できるかという問題があることは私も認めます。しか し、今より大きく改善することは間違いない。どうしてそれができないのか。これは小泉さんと議論していても、いつも小泉総理も認められませんでしたが、ぜ ひそういうこともしっかり検討してもらいたいと思います。



そして、さっき総理のお話を聞いていて私は思ったんです、ああ、だから国民年金を含めた抜本改革に消極的なのかなと。つまり、国民年金に対する認識が違うんですよ、総理。



国民年金というのは、もともとは、確かに自営業者の方が大半で、そして、その自営業者の方は定年もないし一定の資産を持っている、それだけの収入がある から補完的なものとして位置づけられていた。しかし、今や国民年金加入者の中で自営業者というのはごく一部になりました。そして、多くの人が定年を持ち、 定年制の中で働き、そして資産もない。そういう人たちが本当に今苦しんでいるから、困っているから、そういった国民年金そのものの性格が変わってきている から、その国民年金の改革を含めて、全体の大きな改革が必要だというふうに私たちは言っているわけであります。

ぜひ総理、国民年金に対する認識だけちょっと改めていただけませんか。

柳澤国務大臣 先 ほど来岡田委員がおっしゃった捕捉の問題もそうなんですけれども、やはり現実を公平に処理するということで、例えば給与所得者に対しては給与所得控除、こ れは経費なんですけれども、本当に満額が経費かと言われればなかなか、どちらからどういう御議論を聞いてみても、やはりそうではない。自営業の方々とのバ ランスをとる、そういう働きというか効果も期待しているというのも、これはもう日本の税制の中に決められていることでありますので、全くのきれいごとの上 に現実を処理する法制というのは成り立っていない、これはやはりお互い認めてかからないといけないと思います。それは、自営業者がすべて虚偽の申告をして いるなどということとは全く違います。



それから、国民年金の見方でございますけれども、今たまたま、本来厚生年金に抱えるべきそういうような人についても国民年金の方に追いやられてしまう人 がいるんではないか、そういうことが発生しているんじゃないかというようなことであれば、これは我々は、社会保険庁の行政を通じてしっかりそれは制度を適 用していかなきゃいけない、このように考えます。

安倍内閣総理大臣 先ほど私が申し上げましたのは、自営業者を中心として当初は国民年金ができたのは事実でありまして、その経緯も踏まえてお話をしたわけでありますが、現在、いわばパートを初め、非正規雇用の方々がふえているのも事実であります。



ですから、私は今、再チャレンジの推進等々におきまして、非正規と正規雇用者の例えば社会保険についての不公平を是正していくために、社会保険の拡大を進めていかなければいけないと思っています。

岡田委員 年 金の方の問題、この辺で終わりたいと思いますが、柳澤さん、柳澤大臣は大臣になられて健忘症になられましたか。大臣、すばらしいことを言っておられるんで すよ、与野党の年金の合同協議会で。私、感激しましたものですから、ちゃんと自分のメモにも書いてあるんです。「民主党さんの多くの方が言ったように、雇 用の形態とかあるいは生活の形態というのが全く変わってきたことに対して誠実に年金制度も対応すべきだ、このように思っておりまして、改革である限り相当 ドラスチックなことも避けられないというように実は思っています。」その初心を忘れないように、しっかりやってもらいたいと思います。(柳澤国務大臣「委 員長」と呼ぶ)いや、いいです。次に移ります。私はお願いをしただけですから、質問はしていませんから。



次に、格差の問題について総理にお聞きしたいと思います。

小泉総理は私との議論の中で、私が格差の拡大は問題ではないかというふうに小泉総理に言ったときに、小泉さんの答弁を聞いてやや驚いたんです。小泉さん は、最低限のセーフティーネットがあれば格差の拡大は悪いことではない、こう言われました。総理も同じ御認識ですか。

安倍内閣総理大臣  格差について申し上げれば、それはある程度頑張った人と、やはり汗を流した人が報われる社会をつくっていくという中にあって、そういう人たちが達成感を感 じる社会であることが大切だろうと思いますね。頑張った人とゆっくりしていた人がある程度収入に差が出てくるのは当然ではないかと思います。



しかし、人間、うまくいくとき、頑張ってもうまくいかないときもあるわけであります。そこで、格差のない社会というのはそもそも存在するわけではありま せんし、我々はそういう社会をつくろうと思っているわけではありません。要は、その格差が不公正、不公平な競争の結果生まれたものであってはならないとい うふうに考えておりますし、また、格差の大体国民的なある種の許容範囲というものもあるんだろう。そのための所得再分配機能という税制等々がございます。 厚生年金もそういう側面も持っているわけでありますが、そうした制度の中でどれぐらい修正をしていくかということではないか、このように思います。



その中で、恐らく小泉総理は、今言われている格差というのはそれほど、絶対にこれは許容できないというものでもないし、不公平、不公正な、もちろん社会 規範、ルールに反した企業活動をするところもありますが、しっかりと摘発をされているのも事実でありますから、そうではないのではないかということを総理 はおっしゃっているのではないかと思います。

岡田委員 小泉総理は、最低限のセーフティーネットがあれば格差の拡大は悪いことじゃない、積極的に是認しているわけですよ。これは一つの考え方ではあります。最低限の網だけ張っておいて、あとはもう自由にやらせたらいい、国はそこに何もしない方がいいんだと。



安倍総理は、そういうお考えをどう思われますか。違いますか、安倍総理のお考えは。

安倍内閣総理大臣  格差の感覚というのは、国が成長していくときは、何となく格差が出てきたという、そんな雰囲気が漂ってくるわけであります。一九六〇年代の初頭にも格差が 生じているという議論があって、池田内閣の高度経済成長路線に対して、エコノミストの都留重人氏は格差解消をする方が先だという議論がありまして、ここで 下村・都留重人論争というのがあったと記憶しておりますが、高度経済成長をしてその果実を均てんする、そういう道に進むという議論をし、結果として、高度 経済成長を行い、と同時に、社会保障のセーフティーネットを随分厚くしてきたのも事実であります。それがなければ、今は八十数兆円の給付を行っています が、かつて一九七〇年は三・五兆円ぐらいの給付がここまで厚くはならなかったろう、これはやはりしっかりと経済成長をしてきた結果だと思います。



そこで、格差があってもあとはセーフティーネットを張っておけばいいということではないわけでありまして、やはりそこは政治の使命というものがあって、 頑張っているけれどもなかなかうまくいかないという人たちや、あるいはまたそういう地域があれば、そういう地域や人たちの気持ちになって光を当てていくと いうことも私たちの大切な使命であると思います。



ですから、人間は頑張っていれば必ず結果が出て高い収入を得られるわけではないわけでありますが、しかし、一回失敗しても何度でもチャンスのある社会を つくっていきたいと思っておりますし、また、あるいは不幸にして会社を離れなければならなくなったとしても、研修を受けたり資格を取ったりしやすい環境を つくっていくことも私たちの使命ではないか、こう考えております。

岡田委員 今、総理も少し言われましたけれども、努力した人が報われる社会というのは、だれも異論を述べることのできない正しい命題だと思います。



ただ、では、政治がそういう社会を実現するためにどこまで力が果たせるかというと、一定の限界があることも事実で、そういう中で、総理が今おっしゃった ような、努力しても報われないという人が出てくるし、私はそういう人が実は大半だと思うんですね。そのことをやはり忘れずに、政治家はきちんと対応してい かなきゃいけない、そういうふうに思います。



そしてもう一つ、中間層の厚みという問題ですね。だんだん二極分化が進んできた、こう言われます。しかし、日本は、やはり中間層の厚みがあるということ が日本のよさであり、強さだと思うんですね。例えば、これだけ日本の産業に競争力があるのは、やはり現場が強いからですよ。現場というのは中間層の皆さん が支えているわけです。



したがって、二極分化、これはもちろん、グローバル化が進んでいけば、世界的な現象として二極分化の傾向というのはあるんですけれども、しかし、それに 対して、やはり日本は日本なりのやり方で、中間層の厚みを大事にしてやっていくんだ、そういう決意で私は政治に取り組んでいただきたいと思うんですが、い かがでしょうか。

安倍内閣総理大臣  日本社会というのは、基本的に農耕の社会がかつては基盤であって、農耕というのは、やはりお互いに水を分け合っていく、そして収穫時期にはお互いに人を出 し合って、手伝い合って、ともに闘って助け合っていく、共生していくというのが、私は日本的な麗しさではないか、このように思います。現在、私たちがしっ かりと構築をしてきたセーフティーネットも、いわば社会主義的な延長線上ではなくて、むしろ日本で大変うまくいってきたのは、こうした日本的な助け合い、 共生の精神の延長線上だからではないかと思っています。

そこで、勝つ人が勝利を誇って、敗者の前でいわば勝ち誇ることをよしとするというのは日本的ではない、このように思うわけでありまして、やはり、それぞ れ謙虚に対応していく、あるいは、それぞれお互いのことを考えながら日々の営みをしていくということも大切であろう。つまり、その中で、中間層が厚いとい うことは私は大変重要な点ではなかろうか、こう思います。



一方、グローバル化している社会の中で、日本で何とか勝ち残れば生き残れるということではなくて、世界の中で勝ち残ることができないというのも現実であ りますが、その中で、日本的なよさを生かしながら世界で勝ち残ることができる日本モデルを模索してまいりたいと思います。

岡田委員 私 も、競争は非常に重要だという前提でお話をしております。そして、今総理が言われたことを、では具現化するとしたら、やはり税制ですよね。そういう意味 で、これから税制の議論を政府の内外で詰められるんだと思いますが、所得税の最高税率の問題や相続税、あるいは証券関係税制、そういったことでしっかりと した対応をされる、そのことを期待しておきたいと思います。



次に、財政再建の問題に触れたいと思います。

安倍総理は、成長なくして財政再建なしと言われました。これは、小泉総理が改革なくして成長なし、こう言われたメッセージと比べると非常にわかりにく い。改革なくして成長なしというのは、改革のためには時には当面の成長を犠牲にしてもいいんだ、こういう意味だと思うんですね。現に、あの大変な不況の中 で改革を、非常に部分的ですが、例えば不良債権の処理などを進められたのは、そういうことだったと思います。



では、この改革なくして成長なしのアナロジーでいうと、成長なくして財政再建なしというのは、成長のためには財政再建を時には犠牲にしてもいいんだ、こういう意味ですか。それとも違うんでしょうか。

安倍内閣総理大臣  小泉政権が発足した五年半前のことを思い出しますと、当時は、いわばある程度財政出動をして何とか景気を回復しようという政策が大体中心であったのも事実 であります。それに対しまして小泉総理は、成長を本当にするためには今までのやり方ではもううまくいかないんだ、今までのような形で財政出動をしたとして も成長はしない、景気回復はしないんだと。つまり、構造を変えなければ成長しないし、世界の経済の中で日本の経済は力を持つことができないという中におい て、いわば成長と改革が対立概念であったものを、いや、実は違うんだ、改革をすれば成長するんだという処方せんを示したものであって、つまり、成長するた めには改革をするんだ、こういうことだったと思います。



私も、つまり成長と財政再建を対立概念としてとらえているのではなくて、やはり成長することによって自然増収を上げていく、日本経済の規模を拡大してい くことによって財政再建も可能になってくる。当然、経済が縮小していく中においては、税収もどんどん縮小していくわけでありますから、財政再建はできない という考え方でございます。

岡田委員 そ こで、財政再建の具体的目標。基本方針の中でも二つの目標があると思うんですね。一つは、二〇一一年、プライマリー黒字の達成、もう一つは、二〇一〇年代 半ばと書いてありましたが、債務残高の対GDP比の安定的引き下げ、この二つは、どちらがより重要な目標なんでしょうか。



基本方針の中では二つ並べて二期、三期ということで書いてあったと思うんですが、総理の所信表明の中では、二〇一〇年代半ばに向け、債務残高の対GDP 比を安定的に引き下げるため、まずは二〇一一年にプライマリーバランスを確実に黒字化します、こう書いてありますね。ということは、これを見る限り、二〇 一〇年代半ばの債務残高のGDP比の引き下げ、つまり借金をGDP比で小さくしていくということの方がより上位概念なのかな、こう思って読んだんですが、 そういう意味は含まれているんでしょうか。

安倍内閣総理大臣  目標として、つまり、債務を発散させないことがまず大切であります。そして、その意思を内外に示し、日本経済に対する信頼性を確保しなければならないと思 います。そのためにも我々の目標を示したわけでございまして、二〇一〇年代の半ばごろにはGDP比の債務残高が減少していく方向にしていきたいと思いま す。



しかし、そのためには、まず通過点として、二〇一一年にプライマリーバランスを黒字化していくということを道程の中において目標として掲げている、こういうことでございます。

岡田委員 こ の二〇一一年のプライマリー黒字化というのは、そういう意味で一里塚、そして、二〇一〇年代半ばに確実に債務残高のGDP比を減らしていく。ここまで来る とかなり、それから何年かかるかという問題はありますけれども、現在のこの財政の非常に悲観的な状況から、何とか方向性が見えたというところに行くんだと 思います。そういう意味でもこの二〇一一年というのは、一里塚ですから、確実にこれをやっていかなきゃいけない。



そこで、歳出削減のやり方ですね。やはり構造改革、歳出改革をやる中で減らしていかないと、単に一時的に頭押さえで抑制しただけじゃだめだと思うんです よ、これはずっと続くことですから。中には、例えば公共事業だって、今は減らしているけれどもまたふえるんだとか、そういうふうに言っておられる政治家も いるんですけれども、そうじゃなくて、これは構造的に減らしていく。



それでは、どういう構造的な歳出改革というのを総理はお考えなのか。基本方針の中ではいろいろ別表で書いてありますけれども、しかし、あの小泉さんのつ くった二〇一一年のプライマリー黒字化の中でも、二・二兆から五・一兆円は残されているんですね。つまり、十六・五兆円の要調整額の中で、それぞれ積み上 げは一応ある、しかし二・二兆から五・一兆はない。ほうっておけばこれは増税だ。



しかし、そこも含めて歳出改革でやっていくとすると、一体どういうことを総理はお考えなのか。もしそれがないということになると、少なくとも二・二兆か ら五・一兆の増税は避けられないというふうに判断していることになりますが、いかがなんでしょうか。

安倍内閣総理大臣 政府として、要調整額として十六・四兆円ということをお示ししております。

その中で、どの程度歳出削減で対応できるかということは今委員が御指摘になったとおりでありまして、十一兆円台か十四兆円台かということになるわけであ りますが、いずれにいたしましても足らざる部分が残るわけでございまして、歳出削減につきましては、社会保障費につきましては五年で国と地方を合わせて 一・六兆円程度の削減をしなければいけない。そして、それ以上社会保障費の合理化、適正化が図れるかどうかという努力も当然していくべきなんだろうと思い ます。



また、事業規模は落とさずにコスト削減を図れるかどうか、あるいはまた公務員の削減に一層前進を見ることができるかどうかという絶えざる改革努力は行わ なければならないと考えておりますが、足らざる部分につきましては、これは基本的に二〇〇九年の、先ほども議論をいたしました、基礎年金の国庫負担三分の 一から二分の一に引き上げるその財源、あるいはまた、ふえていく社会保障費、また少子化対策等々もあるでしょうし、地方の税源の充実というものもあるで しょうし、また例えば国際競争力ということも考えなければいけない。そういうことを勘案して、来年の秋以降に抜本的な税制の改革を議論しなければならない と考えております。

岡田委員 今 言った以外の別のファクターとして、例えば再チャレンジ支援策、これは総理が言われて、いわば基本方針の枠外、かなりの部分は枠外だと思うんです、まだ具 体化していないわけですから。それから、やはり少子化対策をどうしていくか。それから、一部に言われている、減価償却見直しによる法人税の減税とか、ある いは、総理も積極的な方向性を少しお見せになった承継税制とか、そういうものをどんどん足し合わせていくと、さっき言った二・二兆から五・一兆というもの がもっと積み上がっていく可能性がありますね。



そういうものを増税をなるべく少なくして、あるいは増税なしでいこうとすれば、これはよほどのやはり歳出削減を追加的にやっていかなくちゃいけないわけ です。そして、その歳出改革をやるチャンスは、もうこの年内なんですよ。これはだんだんやっていくということじゃないんですよ。やはりこの年内に思い切っ た歳出削減のもう一段の具体的プランを出さないと、結局は大きな増税になってしまうということだと私は思うんです。

総理、決意はいかがですか。総理の決意を聞きます。

安倍内閣総理大臣  私がまず決意を述べましたら、また尾身財務大臣からも、財政を預かる責任者でございますから答弁いたしますが、まず、私は、来年度におきまして、新規の国 債発行額を今年度の新規国債発行額以下に抑えるということをお約束いたしております。そしてさらに、歳出削減のための努力をしてまいります。



そしてまた、今後五年間の中で、成長戦略をしっかりと練りそして実行していくことによって、日本の成長力を高め、経済を活性化させ、そして自然増収を 図ってまいりたい。日本はまさに今成長しているからこそ、例えば昨年度の予算におきましても、当初よりも五兆円近い増収があったわけでございまして、その 額はかなりの大きな額になってくる。そのための努力も当然してまいりたいと思います。

岡田委員 総理、ちょっと認識が甘過ぎますよ。まず、三十兆以下に抑えるって、それは大幅な増収があるんですから当たり前ですよ、そんなことは。



そして、成長戦略でありますが、この基本方針では、名目で三%という数字を置いていますね。特に実質二・二。この二・二なり三・〇を超えることを前提に総理は組み立てておられるんですか。

安倍内閣総理大臣 またこれも詳細については大田大臣からぜひ御答弁させていただきたいと思いますが、政府の方針としては、成長戦略で何とか実質二・二%を目指したいというふうに考えております。また、名目において三%の成長。



しかし、何とかまたこの成長戦略によって、それ以上の成長を目指していくべく努力を当然重ねていきたい。そのかぎは、イノベーションであり、またさらに国や経済を開いていくオープンではないかと思っています。

岡田委員 高い成長、特に実質成長を目指していくという方向は私はいいと思います。

だけれども、財政の計算をする中で、それを前提に置いてしまったらだめだというのが今までのいろいろな議論の結果だったんじゃないですか。そういう中で実 質二・二、名目三・〇という数字が決まってきたのであって、もちろん、それ以上いければいいですよ。特に、実質成長が二・二を超えれば、それはすばらしい と私は思う。だけれども、それを前提に計算しちゃったら、結局、最後つじつま合わせできなくなっちゃいます。



そういう意味で、私が申し上げているのは、成長戦略はもちろん結構です、大いにやっていただきたい、だけれども、同時に歳出削減の努力をお忘れなくと。 それを相当認識をしっかり持ってやっていかないと、結局、最後は全部増税でつじつま合わせすることになりますよということを申し上げているわけです。



そういう意味で、具体的にちょっとお聞きしたいと思いますが、例えば、公共事業の削減はどうお考えですか。最初は三%減でしたよね、毎年毎年、五年間。 ところが、三から一になった。私が聞くところによると、参議院の方で、参議院選挙もあるのに何だといって文句がついたという話もある。一たんそれは経済財 政諮問会議で合意して、総理も官房長官としてお入りだったし小泉総理もお入りの中で毎年三%ずつと決めながら、それが党によってひっくり返されたわけです ね。



小泉さんは確かに公共事業予算は削減されてきました。ピークから比べると、一九九六年に対GDP比で六・四だったのが二〇〇四年で三・九に、二・五ポイ ント減った。私はそれは評価しています。しかし、もし毎年一%ずつしか減らさないということですと、ほとんど減らないんですよ、対GDP比は。三%という ことであっても、一ポイントしか下がらないんです、五年間で。



そういう意味で、三%じゃなくて、より深掘りをしていくということが私は確実にプライマリー黒字を達成するために必要だ、こういうふうに思いますが、いかがですか。

安倍内閣総理大臣  これはまさに予算の中身についてですから、私の後、ぜひ尾身大臣から答弁させていただきたいと思いますが、小泉改革の中で公共事業については、これは当初 予算と補正予算も合わせて考えなければいけないと思うわけでありますが、これを合わせればこの五年半に約半分にしたと言ってもいいんだろうと思います。十 四兆が七兆ぐらいになっていった。これは大変な削減努力であった、このように思います。そういう意味では、今まで公共事業中心だと言われていた自民党も大 きく変わったことの証明ではないか、私はこのように思うわけでありますが、大変な努力をしてきた。



しかし、公共事業が全部悪いわけではないわけでありまして、必要な公共事業もありますし、その地域が立ち上がっていくため、むしろその地域の経済を活性 化させていくための公共事業、まさに未来への投資というものもあります。そういうところを、公共事業のための公共事業はやめなければいけませんが、まさに 未来への投資となる公共事業については当然考えなければいけない。



そういうめり張りをつけながら、しかし、歳出の改革、削減は当然我々取り組んでいかなければならないと思います。

岡田委員 ピー クから半分になったと。私は半分とは言いませんが、しかし半分近くになったということはそれなりに評価できることですが、ピークが高過ぎたんですね。です から、先ほど言いました対GDP比三・九%、二〇〇四年の数字ですが、これは、ほかの国と比べると依然として非常に高い。例えばアメリカは二・五%だし、 イギリスは一・八%、ドイツは一・四%ですよ。



そういう意味で、三・九で安住することなく、さらに下げていく。いや、お金がいっぱいあるならいいんですよ、何をしたって。しかし、限られた財源の中 で、これは結局、増税するか公共事業をするか、そういうチョイスになるわけです、最後は。そういう意味で、これは確実に下げていくという決意が必要だと私 は思いますよ。



総理は、重点化とか今言われましたけれども、そこで一つお聞きしたいのは、これから公共事業予算を減らしていく、あるいは重点化する。もちろん私も公共 事業が悪いなんて言っていませんよ、必要な公共事業はたくさんある。例えば、地震のための対応、学校の耐震構造の強化とか津波に対する備えとか、バリアフ リー化とか、あるいは競争力をつけるための港湾の整備とか、限られた財源ですから相当選択と集中でやっていかないといけないと思うんです。しかし、現実に 霞が関の構造は、基本的に局あって省なしだし、道路、港湾あるいは農業土木、それぞれがかなり独立性を持ってやっているわけです。



総理は、首相官邸がリーダーシップをとってというふうに一般的に言っておられますが、では、この公共事業の見直しについて官邸はどういう役割を果たされ るのか。各省庁のそれぞれのエゴに対してどうやってくさびを打ち込んでいくのか、総理のお考えを聞かせていただきたいと思います。(発言する者あり)総理 のお考えを聞かせていただきたいんです。

安倍内閣総理大臣 すべて分担管理でありますから、私が総理としてその分担管理をしている各大臣に指示をするわけであります。



当然、私は各大臣に対して、この公共事業に対してしっかりとめり張りのあるものにするようにという指示をいたしておる次第であります。予算については、分担管理をしている尾身大臣が責任を持っているということでございます。

岡田委員 分 担管理はいいんですけれども、小泉総理の時期を見ても、公共事業全体の数字は減ったものの、その内訳は余り変わらなかったなというのが私の実感なんです よ。それを本気でやっていこうとしたら、やはり仕組みが要りますよ。今までの延長じゃできないですよ。官邸主導だとおっしゃるなら、私は官邸主導賛成です よ、それなら公共事業の削減についてもきちんとした仕組みをつくって、そして各省庁のエゴに対して切り込んでいく体制が必要だ、こういうふうに私は思って おります。ぜひ真剣に考えていただきたいと思います。



それでは次に、子育て支援についてちょっとお聞きしたいと思うんです。

これは総理が官房長官のときに、少子化社会対策推進専門委員会の報告書というのが官房長官あてに出ていますよね、猪口大臣から。総理も当然中身は御存じ だと思いますが、よく言われるのは、五年間が大事だよと。五年間が大事だよと言われ始めてから随分時間もたって、いまだに五年間が大事だよと言っているん ですが、とにかく、団塊ジュニアの世代が子供を生み育てるという、これからのせいぜい五年でしょうね。もうかなり押し迫ってきたと思いますが、この間に思 い切ってやはり対策を集中的にやっていかなきゃいけないんだ、こういうことだと思います。



その中の経済的支援の問題ですけれども、経済的支援の問題については、乳幼児期の経済的負担の軽減というのがこの中では強調されています。具体的に何か お考えだというふうに思いますが、手当で対応されるんですか、それとも税制で対応されるんですか。総理のお考えはどうなんでしょうか。

柳澤国務大臣 子育て支援として、乳幼児の時期における児童手当の増額というようなものをイメージされての御質問だと思うんです。歳出の方面の措置としてはそういうことだろうと思うんです。



しかしまた他方、今御指摘のように、税でこれを考えていくというようなことの中で、今は扶養控除で基本的に対応しております。特定扶養控除は、もっと年 齢の上の、教育控除のような形になっています。この扶養控除を例えば年齢制限して、もっと若年者に集中的にこれを差し向けていく、こういう考え方もある。 それからまた、扶養控除を全体として低年齢のところの税額控除にしてしまう、こういういろいろな考え方があるわけでございます。あるいはフランスのように N分N乗にする、そういうようなことにするということもあります。



また、税については、先ほど岡田委員の前の議員の言われるように、それがすぐ課税最低限に響いちゃうんです。課税最低限に響くと、地方税も同じようにや れば、今度はまた国民健康保険税だとかあるいは介護保険料に響いてしまう。こういうような問題がありますので、これは歳出の方面ともリンクしておりますの で、総合的な検討をするという以外、今この段階で申し上げるわけにはまいらない。



しかし、いずれにしても、我々は危機意識を持って対処しよう、こういうふうに考えているということを申し上げたいと思います。

岡田委員 私 は総理にぜひお考えをお聞きしたいんですよ。というのは、こんな議論はもうずっと何年もやっているんですよ。税がいいのか、手当がいいのか。私は当然、税 の方が問題が多いと思いますよ。つまり、所得の少ない人には恩典がないですから。やはり手当制度がいいと思いますし、与党の中でも公明党は同じ意見だろう と私は思うんですけれども。



そういうことをきちんと決めなきゃいけないんですよ。同じ効果を持った、児童手当とそして税で対応するという控除制度があるんであれば、やはりそれを一 つにして、ヨーロッパは基本的には手当制度が主流ですよ。手当にすれば、所得の少ない方に幅広くその恩典が行くわけですよ。そういったことについて決めな きゃいけない。決めないままずるずるやって、もう二年も三年もたって、あと五、六年といって本当はもう二年ぐらいしかないかもしれない。ここはやはり決断 のしどころですよ。



ですから、それを総理に、しかも官房長官として今まで少子化の問題に取り組んでこられたはずですから、この問題に思い切った決断をやってもらいたいと思うんですが、いかがでしょうか。

安倍内閣総理大臣  今回出しました少子化対策については、特に、乳幼児期に対する加算を行っていく、あるいは手当を拡充していくということについて方向性を決めたわけであり ます。やはり乳幼児期が大変負担が重たいだろう、この乳幼児期の負担感をある程度減少することによって少子化に資するのではないか、こういうことだと思い ます。



また、児童手当についてはこの数年間ずっと拡充を図ってまいったところでありますが、税の控除と児童手当の関係、このどちらでいくのかというお話であり ますが、世界の中で少子化対策がうまくいっている国とそうではない国等々もあるわけでありますが、そうした点を参考にしながら議論を詰めてまいりたいと思 います。

岡田委員 税といっても所得控除と税額控除がありますが、総理、どっちがいいと思いますか。

安倍内閣総理大臣 それぞれにいろいろな意見がございまして、そもそも手当を中心で控除をやめてしまうのかどうかということも含めて、まだこれから議論を深めていく必要はあると思います。

岡田委員 所 得の少ない子育て世帯に対する支援という意味では、私は、所得控除よりは税額控除の方がいいというふうに思います。そういうことも含めて、同じお金を使う のであれば実効性のある、必要なところにきちんと行く、そういう制度として組み立ててもらいたいというふうに思っております。



次に、人件費の問題ですが、この基本方針の中でも五年間で五・七%、約一万九千人の国家公務員の定員削減を行うということになっております。一万九千人、五年間ということは、五で割れば約四千人ですね。純減です、これは。年間四千人の純減。



しかし、私は、今の各省庁の要求状況を見ていると、かなり数が出てきていますから、本当に四千人以上削ることができるんだろうかというふうに思うわけで す。しかも、今景気が拡大局面にある。しかし、これから五年間、いろいろなことがあると思いますよ。やはりできるときに思い切ってやっておかないと、また 景気が悪くなったらそんなに、もっと採用した方がいいんじゃないかという議論も出てくると思うんですよ。



そういう意味で、私は、ことし、これはもうすごく大事で、四千人といわずそれ以上の深掘りをして定員の純減をすべきだと思いますが、総理、いかがでしょうか。

安倍内閣総理大臣 公務員の純減については、当初は、五%という目標もとても無理ではないか、こう言われていたのは事実でありますが、それをさらに五・七%という目標を掲げているわけであります。



公務員については、いわゆる生首を切れないという中にあって、配置転換等々も含めて、新規採用をどれぐらい抑えることができるかどうか。それが国民への サービスの低下につながらないようにしながら、我々としてもさらに努力できることがないかどうかということについては、さらに深掘りできるのであれば努力 をしていかなければならないわけでありますが、留意する点もやはり頭に置きながら、この公務員の削減、純減については、少なくとも五・七%は確実に達成す る、そして、それ以上の深掘りができるようにさらに努力をしてまいります。

岡田委員 総理、ちょっと歯切れよくないんですよね、小泉さんとやっていたときと比べちゃうせいかもしれませんが。



そして、やはり最初が大事なんですよね、ロケットスタート。財政再建をやろうとしたら、やはりできるときに思い切ってやるということでないと、五年間で 少しずつやっていけばいい、その間、何が起こるかわかりませんから、やはり厳しくなっちゃうんじゃないか。そして、二〇一一年黒字化というのができなけれ ば、その先の目標も遠のいちゃうわけです。



そういう意味で、私は、ことしの予算編成はすごく大事で、総理、そういうことに余り御関心ないのかもしれませんが、歳出削減のためにねじり鉢巻きでしっかりとやってもらいたいというふうに思います。

終わります。

金子委員長 午後一時から委員会を再開することとし、この際、休憩いたします。

正午休憩

午後一時開議

金子委員長 休憩前に引き続き会議を開きます。



質疑を続行いたします。岡田克也君。

岡田委員 残された三十分、歴史認識の問題を中心に、外交など聞いていきたいと思いますが、本題に入る前に、総理、一つ確認をしておきたいんです。



先ほど我が党の菅代表代行も話題にされたぶら下がり取材の問題ですが、小泉総理のときからこのやり方が導入をされました。テレビを見ていると、記者の質 問に対して非常にアドリブで小泉総理が的確にお答えになっているその姿をテレビで見て、さすが小泉さんだ、そういうふうに思った人も多いと思うんです。た だ、あれは実はアドリブではなくて、質問というのは事前に小泉総理は通告されて知っていたんだという話もあるんですが、事実はどちらなんでしょう、官房長 官ですから当然御存じだと思いますが。

安倍内閣総理大臣 小泉総理時代に二回ぶら下がりをやっておりますが、テレビが入るのは午後の一回だけであります。ですから、私も、一日に一回必ずテレビの前で国民の皆様にお話をいたしますということを申し上げているわけであります。



事前の質問については、私は、それは記者側がやりとりが深くなることを望んでいる場合は事前にあらかじめ通告する場合もあるかもしれないし、基本的に私 の場合には、八割方は事前にわからない場合もあります。また、何となく雰囲気で大体その日どういう質問があるかということを予測できる場合もございます が、いわゆる質問通告というのは、事前には小泉総理のときにもなかったのではないかと思います。

岡田委員 つ まり、事前にどういった質問が出るかということをわかって答弁しているのと、準備して答弁するのと、その場で答弁するのでは大分違うんですね。多くの国民 は、あのテレビを見ていて、その場で全部答えているというふうに私は受け取っていたのではないかと思うんですね。それはやはり大いなる誤解。今の安倍総理 のお話を聞いても、そういう場合もある、事前にわかっている場合もあるということですから、それならそういう前提で国民は見なきゃいけないわけですね。そ ういうことの情報開示もやはりきちんとなされる必要がある、そう思って私は質問をさせていただきました。



さて、歴史認識の問題について、総理は昨日あたりからいろいろ言い方を従来とは変えてきておられます。変えている方向は正しいものですから、私はそれに 対してとやかく言うものではありませんが、しかし、それならどうして最初からそう言わなかったのか。総理になって言い方が変わった。そうすると、また何か の機会でもとに戻ってしまうかもしれない。それではやはり余りにも御都合主義ですから、昨日言われたことは、つまり総理大臣として、例えば村山談話その他 の扱いについて言われたわけですから、それをきちんと通していただきたいというふうに思います。



その上で、A級戦犯の話について確認をしておきたいと思います。この議論は総理とも二月に予算委員会でやらせていただきました。



まず、小泉総理は、私はA級戦犯というのはさきの戦争において重大な責任を負うべき人ではないかというふうに聞いたところ、総理はさらにそれを飛び越え て、A級戦犯は戦争犯罪人であると断言されたんですね。そのことについて、当時官房長官だった安倍さんに同じ質問をしたところ、安倍さんは、日本において 犯罪人ではないと答弁されました。その御認識は今も変わりませんか。

安倍内閣総理大臣  日本において、国内法的にいわゆる戦争犯罪人ではないということでございます。遺族援護法等の給付の対象になっているわけでありますし、いわゆるA級戦犯 と言われた重光葵氏はその後勲一等を授与されているわけでありまして、犯罪人であればそうしたことは起こり得ない、こういうことではないかと思います。

岡田委員 今、 私の質問に総理はお答えにならなかったんですが、日本において犯罪人かどうか。日本法において犯罪人かと日本において犯罪人かは違います。つまり、日本法 において犯罪人かどうかというのは、日本法において裁けなければそれは犯罪人にはならないわけです。これは罪刑法定主義といいますか、日本の法律で裁かれ た場合には日本法において犯罪人です。しかし、では、日本において犯罪人なのかどうかということを聞いているわけです。



東京裁判、極東軍事裁判があり、これは占領時代に日本としてこの裁判は受け入れたわけですし、そして、サンフランシスコ条約十一条で、独立後も刑の執行 について責任を持ったわけですね。ということは、日本の国内法でもちろん裁かれてはいませんが、しかし、そういった条約とか国際裁判とか、そのことを日本 は受け入れているわけですから、当然条約は国内法に優先するわけですから、日本において犯罪人であるというのが正しい答えだと思いますが、いかがですか。

安倍内閣総理大臣 今私が申し上げましたように、日本の国内法において犯罪人ではないわけであって、罪刑法定主義上、そういう人に対して犯罪人であると言うこと自体、私はおかしいのではないかと思います。

それと、いわばサンフランシスコ平和条約十一条との関連で委員は質問をされているのではないか、このように思うわけでありますが、サンフランシスコ平和 条約十一条については、その段階で服役をしている服役囚に対して、国際法の一般的な解釈においては、講和条約が結ばれた段階で戦争裁判は未来に向かって効 力を失うという中にあって、普通であれば釈放されるこの服役囚に対して、連合国の了解がなければ服役したままになる、こういうことであったわけでありまし て、その後、昭和三十一年、三十三年、累次にわたって釈放され、三十三年に全員の服役囚が釈放された。しかし、その間、獄中で亡くなった方々もいたという ことではないかと思います。

岡田委員 占 領下において極東国際軍事裁判を日本は受け入れたわけです。そして、あとは執行に関して、独立後もサンフランシスコ条約十一条でその結果をさらに引きずっ た。つまり、占領下においていわゆる東京裁判の結果を受け入れているわけですから、それは国内法に優先するわけですよ。だから、国内に具体的な法律がなく ても、それに優先する裁判というものを前提にする限り、やはり日本における犯罪者、そういうふうに言わざるを得ないと私は思いますが、いかがでしょうか。

安倍内閣総理大臣 私はそのようには考えておりません。



サンフランシスコ平和条約十一条について言えば、いわゆるA級と言われた人たち、B級と言われた人たち、C級と言われた人たちを犯罪者扱いを私たちはし ますということを約束したものでは全くないわけであります。このことについてははっきりと申し上げておきたい、こう思います。



先ほど申し上げましたように、あの十一条を受け入れたということは、つまり、あのときサンフランシスコ講和条約を我々が受け入れなければ独立できなかっ たということでございます。その中においてあの十一条を受け入れるということは、日本のみならずフィリピン等々で、海外で服役をしている人たちについても 頭を悩ませながら、しかし、通常であれば国際法的に講和条約を結んで釈放されるべき人たちについても、ここは連合国の了解なしには釈放できないという条件 を我々はあえてのんで独立を達成したわけであります



その後、国会において累次釈放すべしとの決議がなされたものと承知をしておりますが、その結果、先ほど申し上げましたように、昭和三十一年にいわゆるA 級、そして昭和三十三年にいわゆるB、C級と言われる方々が釈放された、こういうことではないか。つまり、この方々を我々は犯罪者とこの講和条約の結果呼 ばなければいけないということではなくて、あの講話条約を受け入れたことによって、この裁判について我々が異議を申し立てる立場にはないということではな いかと思います。

岡田委員 例 えば、今総理言われたように、A級戦犯十人が昭和三十一年仮出所を認められ、そしてその後赦免をされたということです。しかし、それは刑の減軽が行われた だけであって、刑そのものが消えたわけじゃありませんよね。つまり、服役した期間だけの刑期に減軽をするということを正式に決めて行われただけであって、 その前に犯した犯罪行為が、それは犯罪行為じゃないということじゃないわけですよ。



総理の話を聞いていると、そうじゃなくて、いや、そもそもこれは犯罪者じゃないということですから。さかのぼって無効になっているなら別ですよ。そう じゃないんですよ。減軽されているだけなんですから。ですから、罪は罪として残っているわけですよ。いかがですか。認識、全然違うんじゃないですか。

安倍内閣総理大臣 そもそも日本においては、いわば国内法的に犯罪者ではないということははっきりしているわけであります。



そこで、いわゆる東京裁判においての刑がなされたわけでありますが、基本的には、先ほど申し上げましたように、国際法の観念からいえば、講和条約が結ば れた段階で将来にわたってその判決は効力を失うわけでありますが、サンフランシスコ平和条約の十一条において、日本が勝手にそういう行為を行わないように した。我々は独立をするためにあえてその条項をのんだ。それが結果であって、よって我々は、今、私が例えばいわゆるA級の方々、BC級の方々を犯罪者と呼 ばなければいけないといういわれは全くないのではないかと思います。

岡田委員 そうすると、総理、六十一年前の戦争について、責任を負うべき、責めを負うべき人はだれなんですか。

安倍内閣総理大臣 これは、私も従来から答弁をしておりますように、いわば当時の指導者であった人たちについてはより重たい責任があるんだろうと思いますが、その責任の主体がどこにあるかということについては、政府としてそれを判断する立場にはないと思います。

岡田委員 私もかつてから申し上げておりますように、東京裁判そのものを全面的に肯定するものではありません。中には事実認定の誤りとか、かなり粗っぽいやり方もなされたと思います。B級、C級に至っては、さらにその程度はひどかったというふうに思います。

しかし、日本としてそれを、少なくとも東京裁判、A級戦犯について受け入れた以上、そのA級戦犯の多くはやはりあの戦争について責任を負うべき人だと、 そういうふうに言わなければ、総理のように言ってしまうと、一体だれが責任を負うのかということについて日本政府としては全く関知しないということになり ませんか。

安倍内閣総理大臣  さきの大戦については、何回も私も申し上げておりますように、あの大戦の結果、日本人の多くが塗炭の苦しみの中にあったわけでありますし、アジアの国々に 大きな被害を与え、そしてつめ跡を残したのも事実であります。その中の反省に立って、今日のこの平和で民主的な日本を、そして世界の平和に貢献する日本を 構築してきた、こう思います。



その中で、先ほど委員がおっしゃったように、ではだれが責任があったかということでありますが、これは繰り返しになりますが、当時の指導者の人たちには 当然重い責任があるのも事実でありますが、では、このいわゆるA級戦犯と言われた方々の評価について、それは当時の東京裁判によってその評価がなされ、刑 が下ったわけであります。そして、それはいわゆる平和に対する罪と人道に対する罪で裁かれたわけでございまして、その段階で新たにつくられた概念であると 思います。



しかし、いわゆる人道に対する罪ではだれも起訴されなかったというふうに承知をしております。平和に対する罪で起訴をされた、こういうことであります が、国と国との関係において私たちは異議を申し立てないというのが、この裁判を私たちが受け入れた、サンフランシスコ平和条約によって私たちが受け入れた ということではないか、こう思います。

あの大戦についての評価、だれがどれぐらい責任があるのかどうかということについては、それはまさに歴史家の仕事ではないか、政府がそれを判断する立場にはないと私は思います。

岡田委員 総理のお話を聞いていると、本当にだれが責任を負うべきなのかということを日本国政府として全く判断していないということになりますよ。



私は、例えば、東条英機さんのお孫さんがテレビでこう言っておられるのを聞きました。東条英機も時代の流れに流されて、抗しがたい流れの中でああいった 決断をしたんだと思うと。しかし、私は、物すごくそういうことに違和感を感じるんですね。もちろん、当時の時代状況、それは簡単じゃなかったとは思いま す。私も、当時もし国の指導者だったと仮定して、あの戦争にいく過程、あれだけの世界恐慌の中で経済的な厳しい条件、地方によっては子供を売り飛ばさな きゃいけない、そして政治家や経済家に対するテロも横行している、そういう中で私自身が間違えない判断ができただろうか、こう問い返すと、それはひょっと したらやはり戦争への道をいってしまったかもしれないと思うときはあります。だけれども、やはりリーダーというのは、結果責任も含めて、その時々できちん とした判断をしなきゃいけない。何かが足らなかったからああいう悲惨な戦争にいったんじゃないんですか。



そして、そのことに対して、まずは一義的にはA級戦犯、この人たち、一人一人を私はどうこうしろと言っているんじゃないですよ。だけれども、A級戦犯の 多くはやはり責任ある人じゃないんですか、こういうふうに申し上げているんですが、総理はそのことも否定されるんですか。

安倍内閣総理大臣  いわゆるA級戦犯と言われる方々の七名は処刑されているわけでありますが、先ほど名指しされました東条英機元首相も恐らく大きな責任を感じているからこそ 従容として刑を受けたということではないかと思います。それぞれまさに命をもってある意味責任を果たしているという考え方もあるわけでありますが、このい わゆる歴史の問題については、政府が、またあるいは政治家がそれを判断するということについては、私はもう少し謙虚でなければならない、このように思いま す。

岡田委員 今総理は謙虚という言葉を使われましたが、だれに対して謙虚であるということですか。

安倍内閣総理大臣 それは歴史に対してでありまして、歴史は長い連続性の中にあって、冷静な分析が必要ではないか、このように思います。

私は、責任がないということを言っているのではなくて、どのような判断を下すかどうかということについて申し上げているわけでございます。政府としての立場については、もう累次申し上げてきているとおりでございます。

岡田委員 小泉総理はA級戦犯は戦争犯罪人であると言われたわけですが、安倍総理はそれとは全く違う考え方をお持ちであるということはよくわかりました。戦争犯罪人であるということは言われないわけでしょう。



では、もう一度聞きますけれども、A級戦犯は戦争犯罪人であると小泉総理は言われましたが、安倍総理はそうではないということですね。

安倍内閣総理大臣 いわゆるA級戦犯と言われる方々は、東京裁判において戦争犯罪人として裁かれたわけでありますが、国内としては、国内法的には戦争犯罪人ではないということは私が先ほど申し上げたとおりであります。私の認識もそうであります。

岡田委員 何度も言いますが、私は国内法の問題を言っているんじゃないんです。我が国、日本として彼らをどう評価するかということを聞いているわけです。

安倍内閣総理大臣 法律によって裁かれていないにもかかわらず、私が総理大臣として、政府として、この人は犯罪者だ、犯罪者でないということは言うべきではない、これは当然のことではないかと思いますよ。

岡田委員 総 理、全然わかっていただけないんですけれども、国内法の問題ではなくて、東京裁判というのは国内法の上位概念としてあるんですよ。条約とか東京裁判、サン フランシスコ条約とか東京裁判というのは国内法に優位するわけですから、そこで決まっているわけですから、日本国政府も拘束するというのは当然じゃないで すか。

安倍内閣総理大臣  この条約によって、日本は国と国との関係において異議を申し立てる立場にはないということで、この裁判に対して異議を申し立てる立場にはないわけであっ て、私たちがA級、B級、C級の方々に対して、あなたたちは戦犯ですと言わなければいけないという立場には全くないということではないか。



十一条については、先ほど申し上げましたように、服役をしている方々を私たち独自の判断では釈放できないということをいわば規定したものであって、連合 国の了解なしには、それぞれの地域において服役をしていた方々を私たちは勝手に釈放することはできなかったわけであります。



できなかったことによって、当時、多くの、千名近くの方々が服役をしていました。この方々が釈放されるまでには、随分の、先ほど申し上げましたような年 月を経て、その間外地においても亡くなる方がいたのも事実であります。その中にはもしかしたら、裁判の中身自体が煩雑なものであった者もあるかもしれな い。しかし、そういう中において、我々は独立をしなければいけないということにおいて、我々は講和条約に署名をしたということではないか。



十一条というのは、今申し上げましたような、国と国との関係において異議を申し立てないというものであると思います。

岡田委員 総 理は別の場所で、異議を申し立てないということは損害賠償などをしないということだということも言われていますが、私は、基本的な認識がそこは違うと思い ます。そして、刑も減軽されたのであって、無効になったんじゃないですよ。将来にわたって効力をなくすということであって、刑そのものあるいは罪そのもの は残っているわけですよ。そして、刑期が短縮されたというだけなんですよ。



そして、総理は、援護法や恩給法の適用を言いますが、それがあったからといって、いや、この人は犯罪者じゃなかったんだということは言えないんですよ。 それは特例として認めた。それは、現実、B級、C級戦犯の現状を見れば、その御家族の現状を見れば、余りにもひどい状況があったんでしょう。ですから、そ れは特例として認めたのであって、だからといって、もともとなかったんだというのは、私は論理の飛躍だし、私は日本国総理大臣としての認識としては全くお かしな認識だということを申し上げておきたいと思います。



さて、外交の問題をもう少し申し上げたいと思いますが、イラク戦争の話、もう余り時間もありませんので、簡単に申し上げたいと思いますが、例の大量破壊 兵器が見つかりませんでした。そして、その見つからなかったことについて、従来、イラクに大量破壊兵器が存在すると信ずるに足る理由が当時あったんだ、だ からあの戦争は、あるいは判断は正しかった、開戦を支持した判断は正しかったということを言っておられます。私は、これは極めておかしな理屈だと思うんで すね。



つまり、裁判において事実認定が誤った、しかし事実認定を誤ることに正当な理由があった、だから死刑判決は正しいんだ、こう言っているのに等しいんです よ。事実認定に誤りがあった、いかに正当な理由があったとしても、結果が誤ったら、そのことについてはきちんと認めて、そしてそのことについてはきちんと 謝罪をする、責任を認める、これは当然のことじゃないですか。ちょっと私は、日本国政府、開き直りが過ぎると思いますが、いかがですか。



安倍内閣総理大臣 当時私どもは、イラクに対する武力行使を支持したわけであります。しかし、もちろん、自衛隊がイラク戦争に参加したわけではなくて、自衛隊はイラクの復興支援に参加をして、大きな成果を上げています。



あのときになぜ我々が武力行使を支持したかといえば、十二年間にわたって累次の国連決議に対してずっと違反をし続けてきた、全くこの国連決議を遵守しよ うとしなかったという事実があります。もう一つは、イラクは大量破壊兵器を確かに保持していた、そして、事実それを自国民であるクルド族に使ったり、ある いはイラン・イラク戦争においてこの大量破壊兵器を使用した特異な国であるというのも事実であります。



持っていた、そしてまた使ったという重大な事実があった。そして、累次にわたる、十二年間にわたって国連決議にずっと違反をし続けてきた。そして、持っ ていないということを証明する機会を与えたにもかかわらず、それに対しても応じようとしなかったということから、当時は、それは合理的な理由として、恐ら く持っているだろうということが当然政府としての判断の根拠であったということではないか。合理的な理由があったということでございます。

岡田委員 しかし、それが間違いであったということです。



国連決議があったということは、これは湾岸戦争のときの国連決議ですから、私は理由にならないと思いますが、百歩譲ってそれを認めたとしても、それは単 に手続を踏んでいましたということにすぎないのであって、そこにおける判断が正しかったかどうかということにはならない。現に、フランスやドイツやいろい ろな国がこの段階での武力行使には反対した。そして、国連の検証委員会も、あと数年とは言わないが、数日でもない、あと数カ月待ってくれ、検証のために時 間が必要だと。こういう中で戦争を始めたわけですよ。そして、それを日本は支持した。



それは、やはり私は早まったと思うんですよ。そのことについて、やはり責任をきちんと認めるべきだ。そういったことの責任を回避しているということは、私は、国として、まさしく他国から尊敬されない国になってしまうと思うんです。



五万人以上のイラク人が亡くなって、二千七百人の米兵が亡くなったというこの戦争ですから、やはり、そのことについては率直に、ミスはミスとして認める、それがきちんとした国としての立場、態度じゃないか、私はこう思うんですが、いかがでしょうか。

安倍内閣総理大臣  日本においては、情報収集において、それは限界があります。日本独自の情報収集力を生かして、最大限の努力をして情報収集を図っていたのも事実であります が、他方、先ほど申し上げましたように、累次の国連決議にも違反をしていたし、事実持っていた、あるいは使ったという事実があった。そしてさらに、当時の ことを思い出していただきたいと思うわけでありますが、いわば米軍は展開を始めて、だんだんそれは、規模を維持するということを続けていくというのは大変 な費用がかかるし、それはいつまでも続けていくことができない中にあって、イラクはただ時間稼ぎをしていて、いわば武力行使による制裁をできなくしようと 考えていたのではないか、そういう推測もあり得たわけであります。



その中において、彼らに対して何回も大量破壊兵器を持っていないということを証明するチャンスを与えたにもかかわらず、それにこたえなかった。こたえなければ我々は持っていると考えざるを得なかった、このように思います。

岡田委員 こ たえなければああいった形で、イラク自身が何か武力行使を他国にしたわけじゃないんですよ。にもかかわらず、いわば先制攻撃的に攻撃していいんですか、こ たえないというだけで。(発言する者あり)フセインがいいかどうかの問題じゃありません。これで五万人以上のイラク人が亡くなっているんですよ。やはり、 そこの責任はちゃんとお認めにならないと、私は、そこをごまかしてしまうということでは決して尊敬される国にならないし、美しい国とは言えないと思いま す。



最後に一言、主張する外交について申し上げて終わりたいと思いますが、総理は主張する外交を言われる。しかし、所信表明演説を読んでおりまして、幾つか気になる点があるんですね。



例えば、国連について、改革の対象としては国連を挙げておられるが、しかし、国連の重要さとか、あるいは国連を中心とする国際協調というもの、これは従 来から日米同盟と並んで日本外交の二本柱の一つでした。そういう表現はないんですね。そういったことを見ると、あるいはグローバルな課題、例えばエイズと かマラリアといった疫病の問題とか、あるいは健康の問題とか貧困の問題とか、そういった問題についても所信表明演説の中には出てこない。



私は、主張する外交は結構だと思います。当然だと思います。しかし、主張するその背景にあるのはやはり深い洞察力や先見性であって、そういうものがない まま主張をするということは、ひとりよがりの外交になっちゃうんです。ですから、総理には、ぜひそういった広い目で世界を見ていただいて、偏りのない、主 張する外交をしていただきたい、そのことを最後に要望しておきたいと思います。




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