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2006.11.22|その他

これからの日本の政治と民主党

講師  岡田克也 氏(衆議院議員・民主党副代表)

司会  茂木友三 郎(財界フォーラム理事長)

司会 きょうは、衆議院議員で、現在民主党副代表の岡田克也さんにお越しいただきました。

お忙しいところおいでいただき、本当にありがとうございます。

岡田さんは有名な方ですから簡単にご経歴をご紹介いたしますと、一九五三年に三重県でお生まれになりまして、一九七六年に東京大学法学部をご卒業。その後、通商産業省に入省されて、いろいろな仕事をされたほかに、米国ハーバード大学国際問題研究所に客員研究員として一年間留学されました。一九八八年、大臣官房企画調査官を最後に通商産業省を退職され、一九九○年の衆議院議員選挙に立候補、初当選されました。

このときは自民党ですが、その後、一九九三年に自民党を離党されまして、羽田孜さん、小沢一郎さんらとともに新生党を結成なさいました。その後、新生党を発展的に解消して、新進党になり、新進党が解党されて、いまの民主党を結成されます。民主党では政調会長、幹事長を務められたあと、二〇〇四年に代表に就任されまして、二○○五年の九月まで代表を務められました。現在は副代表ということでご活躍中です。

それでは、よろしくお願いいたします。

岡田 いま、いろいろ経歴をご紹介いただきましたが、たまたま、ここに来るまでの間、かつての通産省の同期の何人かと昼飯を食べていました。非常に久しぶりに会ったんですが、見渡すと、もう現職ではない人のほうが多くて、私も政治家にならずに通産省に勤めていれば、今頃はもう通産省をクビになって、どこかの特殊法人、独立行政法人に天下っていたのかなという感じがしました(笑い)

私は、政治家として初当選をさせていただいて、間もなく二十年になります。三十六歳で初当選しまして、いま五十三歳であります。この間、いろんなことがございましたが、私としては、とにかく政権交替のある政治をつくろうということで、やってまいりました。自民党で三年半、その後、先ほどご紹介いただいた経歴のとおりなのですが、私としては、自民党を出て、新生党という党を小沢さんや羽田さんと一緒につくったんですが、それ以来、自分でほかの党に移ったことはないわけです。自分の属していた党が突然なくなったり、あるいは合併して大きくなったということはありますが、どこかからどこかに移ったのは、自民党を出て新生党をつくったときだけです。この間一貫して、自民党にかわる勢力をつくろうということで、やってまいりました。

民主党も結党以来十年経ち、ようやく人も育ちましたし、いいところまで来たなと思っております。

一年前の衆議院選挙は、残念ながら議席を減らすことになりましたが、それでも二千四百八十万人の方に民主党の候補者の名前を書いていただいたわけです。前々回の総選挙と比べて、二千四百八十万という数字はプラス三百万です。自民党はプラス六百万です。その分、投票率が上がって、投票した方が一千万ぐらいふえたわけですが、しかし、考えれば、あの逆風の中でも、二千四百八十万人の方に民主党の候補者の名前を書いていただいたわけです。そういう意味では二大政党というのはかなり定着をしていると言えると、私は思っております。

と同時に、一年前の選挙の投票数の割合と議席の割合を比べると、明らかに、過大に議席の差が出ているわけで、極端に言えば、一票でも差があれば当選と落選が決まってしまいます。これが小選挙区制度の特徴です。比例制度とは違うわけで、そのことは昨年の九月の選挙では民主党に厳しい結果になりましたが、逆もまた起こりうると考えれば、小選挙区制度の大きな可能性を示した選挙でもあったといえると思います。

そういう意味で、近い将来といいますか、直近の総選挙で政権交替を実現するということは十分に可能性のあることであって、そのことを目指して民主党はしっかりと頑張っていかなければいけないと思っております。この前の日曜日の選挙で沖縄は負けてしまいましたが、そういうことに一喜一憂せずに、着実に力をつけていくことが非常に大事ではないかと思っているところです。

さて、小泉政治から安倍政治へということで、まず、自民党について感じるところを少しお話申し上げたいと思います。

小泉政権はいったい何だったのかということは、いろんな評価があると思います。私も、自分のホームページに「小泉政治の五年五ヶ月を検証する」ということで、ずっと連載をいたしました。八ヶ月ぐらいかけての連載で、単行本にすると三百ページになるボリュームのものを、自分の頭の整理としてまとめてみました。

それに沿って簡単にお話申し上げますと、まず、内政ですけれども、一つは「改革」というのが小泉さんのキャッチフレーズでした。改革がなされたのか、なされなかったのかといえば、もちろん私は全否定するわけではございません。ただ、ずいぶんと中途半端な改革だったなと思うわけです。

その典型は道路公団の民営化であって、最初の滑り出し、私が小泉さんと予算委員会で議論したときには、小泉さんはきわめてクリアに言われたわけです。無駄な道路はつくらない。高速道路というのは、放っておけば地元は当然つくりたがる。しかし、その結果として、将来の大きな負担になりかねない。民間の会社であれば、採算に合わない道路はつくらない。したがって、道路公団を民営化すれば、無駄な高速道路はつくらない。

総理は非常に論理的にお答えになって、私もそのとおりだと思ったわけです。ただ、道路族というのは非常に強力ですし、小泉さんもお見通しだったように、地方の知事とか行政、あるいは住民も含めてかもしれませんが、やっぱり高速道路はつくってもらいたい。しかも、地元負担というのはいままでありませんから、基本的にタダです。悪い話はあまりないんです。環境問題ぐらいですか。いい話はいっぱいある。土地を高く買ってくれる。道路をつくれば、地元の業者も潤う。そして、タダで高速道路ができれば、いろんな意味でプラスがあるわけです。

結局、「無駄な高速道路をつくらないための民営化」というスタートが、でき上がったものを見れば、民営化はした。もちろん、中途半端な民営化です。民間の資本が入らない民営化ですが、株式会社にはなった。しかし、高速道路は全部つくる。こういう結果になってしまったわけです。

一国会、ほとんど使うような大騒ぎをした結果にしては、非常に中身が乏しいといわれても仕方のない、道路公団民営化問題だったと思います。

もう一つは郵政の民営化です。これを選挙の争点に仕立て上げる手法は、きわめてお見事だったと思います。解散の当日ですら、郵政民営化というのは、国民の関心事から言うと、七番目ぐらいだったんです。ところが、それから一、二週間の間に、最大の関心事あるいは唯一の関心事というところにまで仕立て上げた小泉さんの政治手法は、非常にお見事なところだと思います。

そして、「郵政民営化に賛成か反対か、国民に問うてみたい」という小泉さんに反応して、自民党の候補者に国民は一票投じた。法案の中身までわかって投じたわけではない。小泉総理ご自身も法案の中身はあまりご存じなかったわけですから(笑い)、国民がわからないのは当然だと思いますが、しかし、選挙そのものとしては大変成功したということです。

ただ、われわれも反省すべき点は多いわけです。党がまとまらなかったわけですから、当然、代表であった私の責任です。しかし、いまでも郵政民営化については私は大きな懸念を持っております。

私の基本的スタンスは、民間でできることは民間でやるべきだ。したがって、「郵便以外の郵貯・簡保は民営化が筋である」ということは、国会の議論の中でも何度も申し上げました。そういう方向で党の中がしっかりまとまらなかったということは、私の力の足らなかったところだと思います。

選挙が終わって、今年二月の予算委員会で、私は郵政民営化の問題をもう一回取り上げました。いまでも非常に懸念を持っているわけです。もちろん、郵便局が地方からなくなるとか、そういう問題もいろいろあるのですが、郵貯・簡保、とくに郵貯銀行というものが本当に成り立つのかどうか。それが私の最大の心配であります。

選挙の前から何度も申し上げてきたんですが、お金を集めるのは非常に上手だけれども、運用というのはいままでやったことのない人たちです。それは国がやっていたわけです。しかし、民間の銀行になれば、貸付とか、あるいは債権を買ったりして運用をしなければいけない。そういう能力はいままではなかった。それが短期間でできるのだろうか。しかも、メガバンクを全部合わせたぐらいの規模でやれるのだろうかということは、いまだに私は疑問に思っております。

これがうまくいかないとどうなるかというと、日本の経済に与える影響は非常に大きいわけです。お金の流れがおかしくなってしまう。最終的には、税金を投入して、資本注入をもう一回して国有化するということも、最悪の場合は考えておかなければいけない。かなり規模を縮小するということが、まずなければ、絶対に成り立たない話だと、いまでも私は思っております。

かなり縮小したとしても、メガバンク程度の規模はあるわけで、そういった手順が示されていないまま民営化に突入していくというのは、非常に大きなリスクだと思います。リスクを取ることも大事ですが、こういう大きな資金規模でやみくもに進めるのは、これはリスクを取るということではなくて、破滅的な行為ではないかと思っております。

もう一つの問題は、郵貯・簡保以外の部分です。これはいま国が資本を一○○%持っていて、最終的には、持株会社の株式は順次売っていくことになっておりますが、これを本当に十年以内で上場するようなことが可能なのだろうか。私はかなり時間がかかるだろうと思うわけです。つまり、郵貯・簡保が上場して株価が決まらないと、持株会社の資産価値は決まらないわけです。資産の査定ができないわけですから、持ち株会社自身の上場はできないのだろうと思います。

そうすると、国が一○○%持ち続ける時代がかなり続かざるを得ない。ネットワーク会社とか郵便局会社を一○○%、国が持っている状態で、たとえば東京駅の前のビルを建て替えるとか、あるいは国際物流にも乗り出すとか、いろんな民の分野に進出していくわけで、これこそ、官による民の侵害じゃないかという感じがいたします。

そういったいろんな問題が残されたまま、郵政の民営化は進んでいるということです。結局、「郵政民営化 先にありき」という小泉さんの思いがあって、後づけでやってきた結果が今日ではないか。もう少しきちんとステップを踏んで、民営化を進めていくべきではなかったか。

ただ、そういう真面目な議論が通用する選挙ではなくて、気合いでやった選挙ですので、今日の結果になりましたが、ツケはあとで払わざるを得ないのではないでしょうか。

財政とか社会保障の改革は、これから民主党がやるべきことになりますが、そういう部分については、小泉さんの時代はあまり進まなかったということは事実だと思います。公共事業の予算規模を、ピーク時と比べて、ほぼ半分近くにまで減らしたことは評価できることですが、これも量的に抑えてきたということであって、計画を見直す、構造的に変えてきたということではないと思います。

そういう意味で、小泉さんの改革というのは、あとから振り返ると、あまり進まなかったと思います。

ただ、不良債権の処理、景気対策の道具として公共事業を使わなかったこと、この二つは評価できることだと、私は思っております。

しかし、考えてみれば、不良債権の処理を急ぐべきだと、橋本(龍太郎)さんの頃から声高に主張していたのは民主党ですし、公共事業の削減を叫んでいたのも民主党ですから、民主党の言っていたことを小泉さんがやられたということです。私は、「取られた」などとケチなことを言うつもりはありませんし、言うこととやることとは違いますから、実際にやられたということは、不良債権の処理一つとったって大変なことだと思います。

「不良債権の処理」というと、言葉は易しいんですが、結局、生きている企業で見通しの立たないところを処理、つぶしていくという作業でもあるわけで、現実にやっていく上では大変なご苦労があったと思います。そういうところを、小泉総理が竹中(平蔵)さんなどを使いながら進められたことは、これは評価できることだと思います。

もう一つの小泉政治のポイントは、外交です。日米関係もあとから少しお話するかもしれませんが、とくにアジア外交、これがいかにゆがんだものであったかということは、言うまでもないと思います。もちろん、日本だけが悪いわけではなくて、相手もいかがかと思います。とくに韓国のノムヒョン大統領などは、いったい何を考えているのかと私は思っておりますが、ただ、そうは言っても、近隣の国々との関係をおかしくしてしまったのは、小泉さんの五年間の最大の失点といいますか、マイナスといえるのではないかと思います。

私がアジア外交に関して非常に気になったのは、靖国もそうですが、小泉さんがいろんなことで中国や韓国に対して強気に出るという姿勢を評価する声が国民の間に非常にあったということです。

私は、小泉さんの五年間で日本、韓国、中国、それぞれのナショナリズムが高まったことは大きなマイナスだと思っていますが、小泉さんの姿勢を評価する声があったということも事実です。現実の日本がそうであるということは、きちんと認識しておかなければいけないと思います。

以上が小泉政治の問題点です。それが安倍さんに替わって、外交はガラリと変えられたということで、ここは評価できると思います。ただ、日韓、日中、それぞれ少し軌道に乗りかけていますが、これは五年間にわたって大きく後退したものを元に戻しつつあるという過程で、べつに中国や韓国も安倍総理を心から信頼しているわけでは決してないと思います。

というのは、いままでの彼の発言をずっと追ってみれば、すぐ信頼できるとは誰も思ってないわけですから、これから努力をしていただいて、本当の意味で日中関係、日韓関係、信頼関係をつくっていただきたいと思います。また、途中で変わることがないようにと、祈るような思いで見ているところであります。

それにしても、総理になって変わるのなら、最初からあんなことを言わなければよかったのにという感じはします。しかし、変わらないよりは変わったほうがいいものですから、これ以上申し上げるつもりはありません。

安倍さんがやっていかなければいけないこと、気になることを少し申し上げますと、一つは、改革路線はどうなるのか、ということです。安倍さんは「踏襲する」と言っておられますが、何をどう改革するのかということが必ずしも明確ではありません。

一方で、中川幹事長が言うところの「上げ潮路線」、高い名目成長率を目指すという路線を安倍さんも言っておられる。そういう中で、財政の建て直しを主張していた人たちが政権からほとんどいなくなった。税調会長も含めて、政治家あるいは政府の審議会の顔ぶれを見ると、「財政再建派」と呼ばれていた人たちがほとんどいなくなったことをどう考えるか、という問題です。

「上げ潮路線」を中川さんが予算委員会で初めて言われたときに、私はこれはインチキだと受け止めました。中川幹事長が言われたのは、要するに、名目成長率を上げるということです。もちろん、高い成長率を目指していく、とくに高めの実質成長を実現していくということを政治の目標として掲げることは間違ってないと思います。

ただ、その話と財政再建の話は、いちおう分けて考えるべきで、財政再建の議論をするのであれば、より堅実な前提に立って考えないと、楽観的な希望、願望の上に財政再建の絵を描くというのは、結局はいろんな問題の先送りになってしまいます。安倍さんが財政再建、とくに歳出構造改革にどれだけ真剣に取り組むのかというところが、私の非常に気になるところです。

五年後に十六・五兆円の要調整額、そのうちの大半を歳出削減でやるというところまでは、閣議決定されているわけです。本当にそういう方向で進んでいくのだろうか。五年で十六・五兆円ということは、年間三兆円ぐらいずつ歳出削減をしていかないといけないわけですし、とくに、来年度予算はそのスタートであります。一方で税収はかなりふえていますから、そういう中で歳出削減がどれだけできるのかということです。

どこかの新聞が、来年度予算の編成で安倍内閣の力量がわかると書いておりましたが、私もまったく同じ意見です。官僚、族議員、いろいろいる中で、本当に歳出削減の絵がどこまでしっかり来年度予算の中で描けるか。まずは非常に重要なポイントではないかと思います。それも単に量的に抑えるとかいうことではなくて、構造を変えなければいけないわけです。社会保障制度にしても、公共事業にしても

公共事業であれば、単に予算の額を減らすというだけではなく、計画の見直しから入っていかないと、数字を抑えるだけということでは、構造改革にはなりません。社会保障制度でも、たとえば医療費の伸びをどういう改革で構造的に抑えていくのか。

そういう歳出構造改革の議論が、いまの内閣や経済諮問会議の中ではほとんどなされていないように私には思われます。本当に予算編成の中できちんと実現していくのか。ひょっとしたら実現しないんじゃないか。ここが一つ、気になるところでございます。

もう一つは、財政再建の話を別にすれば、高い実質成長を目指すということは、私は間違ってないと思います。しかし、中川さんなんかは、むしろ税収を上げるためにも高い名目成長を目指すべきだというお考えだと思うんです。

実質が高くなれば名目も高くなるんですが、それ以上に名目を積み上げるということになれば、要するに、物価を上げるということですね。物価を上げながら金利は抑えるというような芸当が、はたして実現できるのかという疑問があります。もし実現できたとしても、ということは結局、金利は上がらないわけですから、物価が上がる中で金利がつかないという状態は、それは政治として許されるのか。

デフレの中で金利が上がらないならともかく、物価が上がる中で金利が上がらないということは、ますます実質個人消費を冷え込ませるわけで、そういう経済政策はありなのかという感じがしてなりません

設備投資や輸出もけっこうですが、最大のボリュームを占める消費をどうやって喚起していくかというところに、政策の重点をしっかり置いていくべきじゃないかと思います。そういったところが、「上げ潮路線」なるものの非常に気になるところでございます。

さて、人のことばかり言っていても仕方ありませんから、民主党がどうするのかということですが、いま小沢代表のもとで目指しているのは、なるべく違いを出していこうということです。

そういう中で、改革路線というのは、いま民主党もちょっと薄くなっているんです。それは、いい、悪いの両論あると思いますが、どういう戦略、戦術で進めていくのかということについては、トップである小沢代表が最終責任を負うわけですから、私はそれに対してあまり異を唱えないほうがいいという意見です。

選んだトップがどういう考え方で行くかということを、基本的には尊重すべきである。それに文句があるのなら、代表選挙に出て戦えばいいわけですから、無投票で小沢さんを再選したということは、小沢さんのお考えが最大限に尊重されるべきだと思っております。ですから、そこに私は異を唱えるつもりはまったくありません。

ただ、民主党がいままで唱えてきた構造改革路線を、小沢さんも本質的には改革論者のはずですが、少し抑えているんだと思います。そこをもう少し言ってもいいのではないか。少なくとも私が代表であれば、もう少し改革路線を前面に掲げると思います。とくに、グローバル化が進み、人口減少時代を迎えるという中で、改革なしでは済まないわけです。

私の言う「改革」というのは、一つは、年金をはじめとする社会保障制度の改革です。安倍さんは、年金は二年前の改革でだいたいいいんだというお考えですが、私はそれでは成り立たないと思っております。四人で一人を支える時代から、二人で一人を支える時代になるのに、いままでの「世代間の助け合い」という方式が成り立つはずがないという前提で、制度の仕組みそのものを変えないといけない。それは税方式への転換であり、積立方式への段階的移行だと私は思っておりますが、いずれにしても、年金をはじめとする社会保障制度は、人口減少時代に見合った大きな改革が要るということが一つ。

もう一つは、財政の再建を確実にやっていく。そのための歳出削減計画を具体的につくる。小泉さんのときの閣議決定で、付表のような形でかなり細かいものは付いていますが、それで十分できるかというと、そういうことではないと思いますので、もう少しきちんとした歳出削減計画をつくることが非常に重要だと思います。

これは、景気がまだ上昇している局面でやらないと、これから下降局面にどこかで入っていくと、もうできなくなってしまいますから、いまのうちにかなり深掘りをしておかなければいけない問題だと思います。そういった歳出構造改革をしっかりやっていくということ。

もう一つ、あれて言えば、分権です。分権は法律をこの国会でつくるんですが、あれは「これから議論しましょう」という法律です。そうではなくて、もう「やりましょう」ということです。いま格差論争などで言われていますが、地域が非常に厳しい状況にあるわけで、それに対する究極の答はやっぱり分権だと私は思います。これから三年も四年もかけて議論するような話ではないと思っております。

社会保障制度と財政と分権といった構造改革をしっかりとやっていくことが非常に重要ではないかと思います。

二番目は「公正な社会の実現」ということですが、あちこちが傷んでいることは間違いありません。私も、経済のグローバル化が進む中で「一億総中流」という時代が過去のものになりつつあるということはわかっているつもりです。でも、目指す方向は、アメリカ型の二極化社会ではないだろうと思います。

しかし、現実はかなり厳しい状況です。私は代表をやめて、少し細かく、いろんな現場を見ることにしていますが、たとえば地元の中小企業も、もちろん大企業もそうですが、働く現場がすごく変わったと思います。

正社員の数が減って、派遣とかパートの人がふえています。製造業で言うと、従来、電気なんかは確かに正社員じゃない人、パートの女性とかが組み立てとかをやっておられたと思うんです。とくに一次請け、二次請けになると、そういうことがありました。しかし最近は、自動車とかそういうところも含めて、非正規の働き方が非常にふえています。

私の地元の近くにシャープの亀山工場がありますが、あそこだって半分ぐらいは派遣です。最先端のところはロボットがやっていますが、組み立てのところは派遣とかパートという働き方です。

その結果、世帯主でない方々がパートで働いて家計を補助していたというかつての姿から、いまは、世帯主の方が派遣やパートで働いて、年間収入が二百万円とか二百五十万円というのがごく当たり前になってきています。

二○○○年から二○○五年の間の五年間で、正社員が二百五十万人減っているわけですから、そういう意味では当然かもしれませんが、それがずっと続いていって、本当に国が成り立つのだろうか。あるいは、社会保障制度の持続は可能なのだろうかというと、それはそうじゃないと思います。そこはしっかり考えていかなければいけないと思います。

同様に、外国人の労働者の数もずいぶんふえています。この前、地元に帰って、私を支持していただいている自動車の下請、一次請けの会社に行きましたら、テーブルの上で四人の女性が組み立てをしていました。四人とも日本人ではなくて、四人とも国籍が違う。日系ブラジル人とフィリピン人とベトナム人と中国人でした。その会社は、日本人が二に対して外国人が八という別会社にして、それで回している。これなら、中国にある会社と競争できる。事態はそういうふうに変わってきているわけです。

私の地元は四日市ですが、ある小学校では、半分以上が日系人という学級ができてきました。四日市市に言わせると、日系人の皆さんが生活しやすいようにいろいろ環境を良くすると、周りの亀山市とか鈴鹿市とかから移ってきて、またふえてしまうという、すごいジレンマを抱えているわけです。

その日系人の人たちは定住希望がほとんどです。この前、二十人ぐらいの方に集まってもらって、話を聞いたんですが、パッと顔を見て日本人の顔をしている人は、半分しかいませんでした。それでも日系人か日系人の配偶者ということでしたが、一人を除いて、全員が定住希望でした。

何年か働いてもらって、お帰りになるという前提で考えている制度が、実態は変わってきているわけですが、それに行政や政治が全然追いついてない。学校に行ってない子どもたちがいっぱいいます。彼らも定住するわけで、小学校も出てないような日系人の若者がこれから日本に定住する。そうなるといろんな問題が出てくると思うんですが、ほとんどほったらかしになっているというのが現実ではないかと思います。

いずれにしても、働く現場の変化。私の地元などは比較的いいんですが、非常に厳しい地域があるという、地域間格差。

日本の強さ、たとえば製造業の強さというのは、現場の強さだと思うんです。その現場がそういうふうに傷んでいるということの問題。最近、いろんな品質上の問題が起こっていますが、そういうことも決して無縁ではないんじゃないかと思います。こういったことをもう一回、どういう社会を目指していくのかということを含めて、政治家は真剣に取り組んでいかなければいけないのではないか。

小泉さんは私との国会での議論の中で、「格差の拡大は悪いことじゃない」と明言されて、私もそのときは言葉を失ってしまいましたが、そういうふうに割り切るのか。格差があることは、もちろん避けられないし、グローバル化の中で格差の拡大もある程度は起きるのでしょうが、「格差の拡大は悪いことじゃない」と言って開き直ってしまえば、そこに対策は出てこないわけで、それは違うと思っております。

最後に外交ですが、アジア外交。私は、日本がアジアの中にあることは日本にとってきわめて幸運なことであると申し上げているんですが、やっぱり近隣の国々との信頼関係に立った上で、具体的な問題の議論をしていかないと、ケンカをするつもりで議論をしたって、物事が解決できるわけありません。

近隣の国々との関係をしっかり築いて、アジア全体が一つのマーケットという時代になりつつあるわけですから、東アジア共同体、とくに経済の共同体という方向に向かって進めていくべきだと思っております。

日米関係はどうかというと、ブッシュさんも議会の構成が変わりましたから、だいぶ変わっていくんだろうと思いますが、まず日本の国益があって、その上でアメリカとどう協調していくかということであって、アメリカにぴったり寄り添うことが日本の国益である、という考え方ではないと思います。

もちろん、アメリカは大事な国であり、同盟国ですから、かなり無理を聞かなければいけない場面も多いとは思いますが、やはり適度な距離感がないと、「ブッシュさんの言うことは全部、基本的についていきます」と言って、政権が替わったら、また、そっちのほうにも「全部ついていきます」というのでは、これは国がないのと一緒です。

まず、日本の国益をきちっと軸に据えた外交ということが、アメリカに対しても、もちろんアジアに対しても求められるんじゃないかと思っております。

以上、いろいろ申し上げましたが、最後に、民主党も人材は非常に育ってきておりますので、私は幾らでもチャンスがあると思っております。来年の参議院選挙で、まず、与野党が逆転する。二年前の選挙と同じように勝てば、与野党が逆転するわけですから、その上で総選挙で勝利するという道筋をしっかりと描いて、あとは代表を中心に団結していくことが重要ではないかと思っております。

質 疑 応 答

司会 ありがとうございました。大変わかりやすくお話をいただいたと思います。

それでは、ご質問いかがですか。

山口(明氏=日本ケミファ) 外交問題ですけれども、中国とはこれからもいろいろ難しいと思うんです。民主党はどういう具合に考えていらっしゃいますか。

岡田 中国は難しい国だと思いますけれども、しかし、ケンカをすることが利益になるわけはないので、お互いがお互いを必要としているという相互補完の関係にあることは間違いありません。そのことを軸に据えれば、大局的に見れば、そう難しいことではないんじゃないか。個々にはいろいろあると思いますけれども。

中国という国はどこかで政治的リスクといいますか、いまの政治体制が変わらなければいけない時期があって、しかも、それはそう先の話ではないかもしれませんから、そのプロセスではいろんな混乱とかがあると思うんです。

そういう意味で、私は経済界の皆さんのほうがよくあれだけ中国に入れ込んでいるな。もう少しリスク分散を図ったほうがいいんじゃないかと思うくらいですが、政治的にはもう少しお互いが信頼関係を持って、近い関係でやっていかないと、政治と経済の実態があまりにも離れ過ぎているんじゃないかと思います。

私は、中国の胡錦涛さんなんかを見ていて、同情します。一億三千万人でも大変なのに、十三億人の国を統治していく、しかも、一党独裁でやっていくというのは、気の遠くなるような話だと思います。

○ ○ 教育問題について少しお伺いしたいと思うんですが、少子化してくる中で、次世代を背負う人たちに対しての教育問題、教育制度、そのあたりをどんなふうに考えておられるか、教えていただけますか。

岡田 教育の問題は、十人いれば十人、それぞれ意見があるわけですね。ですから、まとめるのは非常に難しいと思います。

たとえば、ゆとり教育は間違いなのかというと、私はそう間違ってないと思うんです。ただ、ゆとり教育が現場に任せられましたね。総合学習とか。そういうものをしっかりとやるだけのノウハウとかが欠けていたのではないか。いまの子どもたちを見ていると、塾なんかでやられているのは、記号みたいな情報の切れ端を頭の中にぶち込んで、それをいかに効率よく反射的に出していくかという教育だと思うんです。

そういうのは人間の能力とほとんど関係のない問題で、自分で考えることのできる人間を育てる教育とは、ほど遠いところに現状はあるように思います。大学受験がそういうふうにさせているのかと思いますけれども、そこをどう変えていくのか。

しかも、そうやって苦労して大学に入っても、大学の授業には出てないわけです。この前、初めて聞いて驚いたんですが、東大法学部に入っても、国家公務員試験を受けるために、みんな授業に出ないで予備校に行っているというんです。

われわれのときは、司法試験だって、そういう学校に行っている人は、「エッ、司法試験を受けるのに、予備校まで行っているの?」と少しバカにしているようなところがあったんですが、いまは司法試験はもちろんのこと、公務員試験まで予備校に行っていて、大学には行かない。どうなっているのかと思いますが、いずれにしても、まずは受験教育というものを直していかないといけないと思います。

いま国会で教育論議をいろいろしていますが、私は現場にもっと権限を持たせて、判断できるようにしないと、学校は変わらないんじゃないかと思います。

いまの学校にいろんな問題があることは間違いありません。いじめの問題、学級崩壊、学力低下とか、いろいろあります。そういう問題を解決するときに、安倍さんの言うように、国がしっかりすれば、そして規律を持ってダメ教師を排除したりとか、いろんなことをバンバンやっていけば、教育が良くなるかというと、それが最も大切なことだとは思えません。やはり現場がどういうふうに自分たちで責任を持ってやっていくか、そういう形をどうやってつくるかという問題だと思います。

コミュニティ・スクール構想というものがあって、いまはそういうことが可能にはなっていますが、地域社会とPTAと学校が一体になって教育に取り組んでいく。そして、いまのままだと、課長補佐か係長ぐらいの権限しかない校長先生に、人事権や予算の権限もしっかり持たせて、支店長ぐらいの権限は持っていただいて、きちっと学校を回していくという形にしないと、現場は変わらないんじゃないかと思います。

司会 さっき小選挙区制の話がありましたが、「小選挙区制は、二つの政党が争う場合に、どっちかに片寄る」。そのとおりであって、民主党も次の選挙で、自民党がこの前やったようなことができないことはないですね。そういう点で、小選挙区制は非常に面白いんですが、一方、ドイツのような比例代表になると、二つの政党が争っている場合に、ほぼ拮抗してしまうんですね。似たような議席数になって。

岡田さんは、日本の小選挙区制について、どう評価されますか。思ったようにうまくいっているのか。まずい点があるとすれば、それはどんなところなのか。一部、比例が残っていますが、そういう面も含めて、どうお考えになるかお聞きしたいと思います。

もう一点は、参議院の選挙が来年あります。民主党は自民党の過半数割れを狙って、やっておられるわけですが、しかし、もし民主党が勝つとすると、衆議院のほうは与党が三分の二持っていますから、その場合どんな感じになるのか。ちょっと想像がつきにくいわけですが、参議院のあり方というものをどうお考えですか。

岡田 いずれも難しい問題ですが、去年の小選挙区の総選挙を見て、小泉さんはさすがだなと思いました。小泉さんは小選挙区を最も否定していた人なんです。しかし、結局、最も活用した人ですね。

小選挙区での選挙をいままで五回やっていますが、その前の四回は小選挙区の特徴があまり出なかったわけです。それが初めて特徴が出たということで、私はこれは非常にいいことだと思います。

比例制だと、おっしゃるように、あまり差が出ない。あるいは、第三党が常にキャスチングボートを握るということになると思います。日本の小選挙区も、公明党がそういう感じがなきにしもあらずですけれども、しかし、前回、去年の逆はあるわけですから、私はそれがいいと思います。

今回は天才小泉をもってして三分の二を取るということになりましたが、普通なら、比例が百八十もあると、なかなかそこまでいかないので、百ぐらいでいいんじゃないか。比例をゼロにしてしまうと、共産党や公明党は議席がなくなるわけです。いまのイギリスを見ていても、小選挙区というのはA党とB党の寡占ですから、そこにC党という新しい党が出てくる余地を残すという意味でも、比例は少しはあったほうがいいと思います。

司会 惜敗率はどうですか。

岡田 これは評判は非常に悪いんですけれども、比例を残すという前提に立ったときに、じゃあ、党が順番をつけるか。それとも、頑張った順番に当選するという惜敗率でやるか。惜敗率のほうがましだと思います。ただ、もうちょっと自由度があっていい。惜敗率といっても、制度設計の余地がもう少しあったほうがいいように思います。

それから参議院についてですが、来年の参議院選挙で民主党というか、野党サイドが過半数を取ったときにどうなるのか。これはいろんなことが考えられます。大連立もあるかもしれませんし、政界再編というのもあるかもしれません。私も頭の中でいろいろ想像はしますけれども、王道を行くのなら、そこで衆議院解散ということですね。そういうふうになってもらいたいと思うんですが、いまの憲法のもとでは参議院はなくすわけにいかない……。

司会 もちろん、憲法改正も含めてのことですが。

岡田 私は、事後チェックの機関として参議院をつくっていけばいいと思います。いまの憲法のもとでも、それは十分可能です。だから、決算中心ですね。予算とか法律は衆議院が中心に審議する、決算は参議院がやる。

そうすると、参議院というのは政党本位じゃないほうがいいということになるかもしれません。もちろん、大臣とかも出さない。そういう会計検査院みたいなものとして参議院が変わっていけば、存在価値があるのかなと。そのときには、政党本位の比例選挙じゃダメですね。これは憲法を変えなければいけませんが、指名制度とかそういうことも含めて、何かがあっていいのかもしれません。

司会 確かに、ガバナンスの面で必要なのかもしれませんね。

佐藤(伸一氏=ジャイロ) いま夕張市が財政破綻ということで大変な問題になっていますけれども、それに対して民主党としては何か具体的な対策はお考えでしょうか。

岡田 党で議論はしていると思いますが、私はちょっと把握していません。代表をやめて、充電をしておりますので。充電の最大の良いことは、具体的なことを気にせずにやれるということなので(笑い)、個々の法律とかを私はいまはあまりフォローしてないんです。

ちょっとわかりませんが、夕張市の問題はもちろん自己責任というか、そういうことはある程度必要だと思います。ただ、問題は、あそこに行くまでに手を打つべきだったので、そういう意味で情報公開とか、早期警戒システムじゃありませんが、危ないときにもっと早く手がつけられるような仕組みは絶対に必要だと思います。粉飾決算を続けていって、ほったらかしになって、どうしようもなくなってきたというのが、現実ではないでしょうか。

司会 きょうは岡田さんに大変いいお話をお聞かせいただきました。日本の政治の質を良くするためには、やはり二大政党が競い合って、政権が現実に変わるという状態がつくられてこないと、本当の意味の民主主義ではありませんので、民主党にも大いに頑張っていただきたいと思います。

岡田 実態においては、自民党を超えるところまでいろんな意味で来ていると思うんですが、あとは、超えるための選挙における大きなエネルギーですね。

司会 民主党のリーダーとしてご健闘を期待したいと思います。きょうはありがとうございました(拍手)。

(収録・平成十八年十一月二十二日)

● プロフィール

おかだ・かつや 一九五三年三重県生まれ。東京大学法学部卒業。七六年通商産業省入省。第一次石油危機後の長期不況下における中小企業対策の拡充やマクロ景気対策の立案や、第二次石油危機発生に伴う石油危機管理対策の立案と実施、先端技術開発政策、情報通信の発展に伴う知的所有権の保護立法とそれに関する日米交渉などを担当。その間、米国ハーバード大学国際問題研究所に客員研究員として一年間留学。八八年大臣官房企画調査官を最後に通商産業省を退職。九〇年衆議院議員選挙に初当選、自民党「政治改革を実現する若手議員の会」の中心メンバーとして政治改革の実現に奔走。九三年野党提出の宮沢内閣不信任決議に賛成票を投じて自民党離党、羽田孜、小沢一郎氏らとともに新生党結成。九四年新生党を発展的に解消し、新進党結成に参加。九八年民主党を結党。二〇〇〇年同党政調会長、〇二年幹事長、〇四年代表、〇五年常任幹事、〇六年九月より副代表に就任。




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