立法府と官僚組織との関係が原点に戻れば、閣僚が説明責任を果たしていくこともできるようになる
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――参議院で民主党が第一党となり、野党としても過半数を握ることになりました。民主党にとって、このことはどんな意味を持つのでしょうか。
岡田克也 国会が変わらざるをえなくなりました。与党も、安倍政権の時に強行採決を連発したようなことは、もうできない。国会は本来の「話し合い」の場になると思い ます。もう一つの変化としては、与党対野党を超えたもっと大きな構図として、立法府対行政府という力関係が変わる可能性が出てきたと思います。
――「話し合いの場になる」ということは、今までは野党は抵抗するだけで思うような成果は出せなかったと。
岡田 そこまで言うと言いすぎでしょう。民主党も、これまで政府提出法案の7割には賛成してきています。その中には修正して可決したものもある。ただ、議論は一 応するものの、与党としては政府の法案をそのまま通すというのが圧倒的だったのは確かです。逆に野党が議員立法で出した法案は、議論するチャンスすらなく 廃案になることが多かった。
国民から選ばれた100人以上の議員を有する野党第一党が国会に法案を出しても、実質的な審議はほとんどなしというのは、極めて異常なことです。それが今 後は、参議院に法案を出せばきちんと議論され、可決もできる。これを衆院で簡単に否決するわけにもいかないでしょう。そういう意味で、国会は話し合いの場 になると思っています。
――二院のうち一つの院の権力を民主党がとった成果ですね。しかし、国会の権力が分散したとも言える。参院と衆院の意思が異なることも多くなります。どうやって折り合いをつけていくのですか。
岡田 二つに分かれるんでしょうね。話し合いで一致点を見いだせるものと、あくまでも平行線のものに。前者の例は、この前成立した改正被災者生活再建支援法で す。われわれはこの法案をこれまでに4回提出しています。参議院で多数をとっていなければ今回も廃案だったでしょう。参議院で可決されたため、心の中では かなり共感をもっていた公明党を含めて放置できなくなり(笑い)、自民党を巻き込んで成立にこぎ着けることができたと思います。
しかし、参院選でわれわれが明確に約束したものについては、与党側と簡単に合意はできない。これは仕方ないですよ。総選挙もそう先のことではありませんか ら、その時の争点としてお互い残しておけばいい。ただし、場合によっては3分の2条項で衆院で再議決ということもありうるでしょう。
――岡田さんは、3分の2による再議決を頭から否定するつもりはないのですね。
岡田 衆参の権力が分散したときの解決策として再議決の制度があるわけで、われわれも憲法のもとで活動している以上、「使ってはいけない」とは言えないでしょ う。やや問題なのは、より新しい民意は参議院側にあるわけですから、これに反する行為をそう簡単に使っていいかということです。しかし、与党側が最終的に そういった手段をとることについては、もちろんわれわれは批判しますが、否定はできない。私が福田首相の立場なら、当然使います。
――その場合、参議院側が問責決議案を出すことをどう考えますか。
岡田 問責決議案はわれわれにとって、極めて有効な「武器」の一つです。同時に、繰り返して使えば何の意味もなくなる。たとえば一人の首相に何度も使うとか、毎 国会やるというようなものではないと思います。効果的な使い方をしないといけません。今のような状況は最低3年、おそらく6年ぐらい続くでしょうから、そ の中でやはり政権交代可能な政治というものをつくっていくべきだし、その責任が政治家にはあると思います。
「連立後に政権交代」は実現困難
――国政調査権の使い方についてはどうでしょう。
岡田 今、私は衆院の予算委員会の筆頭理事なんですが、与党にも「これは行政府と立法府との問題だから一緒にやりましょう」と申し上げました。今のところ、いい 答えは返ってきていませんが(笑い)、やはり今の行政をもう少しオープンなものにし、立法府の本来の役割、すなわち行政府をコントロールするための有力な ツールとして国政調査権を考えるべきです。
――国会同意人事については11月14日、民主党は「公務員OBが常勤の審議会委員になるのは天下りに該当するからだめだ」と反対し、56年ぶりに3人の人事が否決されました。
岡田 国会同意人事も、行政府との関係でかなり強い力を持つ道具ですね。今回のケースは、審議会がどういうものかという点と関係します。審議会が役所外部の意見 を聞くことによって客観性、公平性を担保しようというものであるなら、そこに官僚OBがずらずらと顔を並べるのは趣旨に反していますよね。ましてや常勤と なればそれなりの給与も払われるわけで、究極の天下りと言っていい。
――国会同意人事については、与野党が「事前報道されたものは案件として認めない」との点で合意しました。事前に報道した人事は認めないというのでは、マスコミに「事前に報道するな」と言っているに等しい。この論理は理解できません。
岡田 そういう考えもありますが、こうすれば政府側が事前にメディアにリークして人事を既成事実化してしまおうという動きに対する歯止めにはなる。
――しかし、つぶすためにリークする、ということもできますよ。
岡田 まあ、だから過渡期のさばきの問題だというふうに考えてもらったらいいのではないですか。
――いずれあの合意はなくすべきだと。
岡田 それは……無責任には言えませんね。わが党としてそういう交渉をしているわけで、私も党人ですから。(笑い)
――衆参逆転が、行政府と立法府の関係を変える可能性があるという指摘を、詳しく説明してください。
岡田 行政府というより霞が関の官僚組織と言い換えたほうがわかりやすいかもしれませんね。国会議員が首相や大臣、副大臣、政務官として行政府に入っています が、残念ながら現状は閣僚が官僚組織の上に乗っかっているだけです。国会も自民党の一党支配が長期化した結果、行政の都合のいいように使われ、やっている ことは通過儀礼でしかなかった。
しかし、衆参逆転を機に立法府と官僚組織との関係が原点に戻れば、閣僚が国民に選ばれた議員の立場として説明責任を果たしていくこともできるようになる。
官僚組織は政策の方向が定まれば具体化の過程で機能を発揮できるが、方向そのものを決めることはできません。国民から選ばれた政治家が大きな方向を定めて 官僚を使いこなしていくというのが本来の姿でしょう。官僚組織は情報をもっているのに出さないし、きちんと説明もしない。健全だとは思いません。そこを変 えて、国民の信頼感を取り戻していくのも政治家の重要な仕事ですよ。
――先日の党首会談では「大連立構想」が飛び出しました。岡田さんはどう考えますか。
岡田 民主党は先の参院選で「次の総選挙に勝って政権交代する」と訴えたわけです。大連立はその公約に明らかに反しています。私は政権交代可能な政治を目指して やってきました。「政権担当能力を高めるトレーニングとして、連立政権下で閣僚ポストを得て実績を積んだほうがいい」という考え方もありますが、そうなれ ば自民党が民主党を分断することは目に見えています。いったん大連立を組み、その後に連立を解消して民主党単独で政権をとればいいというシナリオは、実現 困難です。
――次の総選挙で民主党が過半数をとれず、与党も3分の2を維持できなかった場合は、大連立もありですか。
岡田 そういう質問には私は答えません。選挙で勝って政権交代するというのが私たちの約束ですから。ただ次の総選挙でわれわれが政権をとれない場合、与党側は参 院での過半数を回復するために3年後に衆参ダブル選挙をしかけてくると思っています。それまでの間、あくまで野党に留まり、選挙によって政権交代するとい うのが基本でしょう。
今は独自性より一体性を重視
――大連立構想と絡んで、中選挙区制に戻るべきだという意見が出ています。
岡田 そんなことなら、ますますもって大連立をなんとしても阻止しなければならない。政権交代可能な政治を実現することが、私の政治家としての目標であり使命な んです。何のために十数年、野党にあって政治改革をやってきたのか。中選挙区制に戻るということは、派閥政治や金権政治に戻るということですよ。
――民主党内で、参院は権力を持ったわけですが、衆院は野党のままです。党の運営にむずかしい面はありませんか。
岡田 そこは小沢さんも相当考えられたと思いますね。参議院にはもともと与野党を超えた同志的な空気があります。しかし、参院議員である前に民主党議員なので す。小沢さんは、参院議員会長の輿石東さんを代表代行にし、党国対委員長は衆院の山岡賢次さん、その下の代理に衆院の安住淳さんとともに参院国対委員長の 簗瀬進さんをおいて、党国対委員長と参院国対委員長の序列をはっきりさせた。従来は党の国対委員長と参院の国対委員長が同列のような扱いでしたが、本来、 党の国対委員長は全体を統括する立場です。幹事長も同じですね。
――党内序列を明確にして党の拘束を強めれば強めるほど、参議院の独自性は失われていきませんか。
岡田 今、民主党は一体性を重視すべきだと思いますよ。
――岡田さんは二院制がいいと思っていますか。
岡田 参議院においてわれわれがマジョリティーをもっているときに、その力を弱めるような議論はしたくないですね(笑い)。政権交代に向けて参議院を思い切り活用すべきであって、みすみすチャンスを逃したくはない。
――岡田さんは福田政権をどう思っていますか。
岡田 ……。この前、国会のエレベーターで安倍さんと一緒になりました。すっきりしたお顔で。安倍さんが手を出してきたので握手して。「お疲れさまでした」と申し上げましたよ。「お元気そうになられて」と話しました。
――で、福田政権については?
岡田 ごまかそうとしたんですが、だめでしたか(笑い)。福田首相からは、「これをやりたい」というものがメッセージとして伝わらないですね。今、試行錯誤され ているんだと思いますけど、いかにも守りの姿勢で、これでは暫定政権といった印象です。来年の通常国会で何か出てくるんだとは思います。出さなければ、国 民の支持はそう長く続かないでしょう。
――委員会でのやりとりなどでの福田首相はどうですか。
岡田 あまり自分で答弁しない方ですね。質問の中身にもよるんでしょうが、安全運転。しかし、議論はしやすいです。小泉さんは隠し球をしたりビーンボールを投げ てきたりした。要するに、まともな勝負じゃなくて飛び蹴りみたいな議論。安倍さんもきちんと噛み合った議論はむずかしい人で、こちらが言ったことにスト レートに応じてこなかった。そういう意味では福田さんは正当派じゃないですか。返事は一応ストレートに返ってくる。ただ、全体のピクチャーは見えない。
現実が厳しいとの認識は一致している
――2005年の総選挙は、郵政民営化というシングルイシューで自民党が大勝しましたが、次も同じ手というわけにはいかないでしょう。民主党はどういう戦略で臨むべきですか。次の総選挙はどういう戦略で臨むべきですか。
岡田 参議院の場合は一人区が勝負だったわけですが、総選挙は都市部の闘いが重要です。民主党は前回、ここで負けていますから。東京1人、千葉1人、埼玉3人、 神奈川ゼロ、兵庫ゼロ、大阪2人、という惨憺たる状況だった。ここでどれだけ実力を発揮できるかで、政権を取れるかどうかが決まると思います。そのために は、都市部の住民に訴える政策が必要です。年金・医療などの社会保障と税金のムダ遣いが、大きな柱じゃないですか。
――小沢代表は代表辞任を表明した記者会見で、党内について「さまざまな面で力量が不足している」と厳しいことを言いました。あの分析は正しいですか?
岡田 まあ、党首がそれを言うべきじゃないとは思います。責任を負うべき立場にあるわけですから。ただ、現実が厳しいという認識は僕も同じです。候補者でもしっ かりやっている人もいればそうでない人もいるし、決まっていないところもたくさんあるわけですから、相当に一生懸命やらないと勝てないですね。
――若手議員の中には大連立支持の意見が結構あったようです。
岡田 そういう人は、現実に大連立になったときに民主党が残っていると思っているのですかね。党内に甘い考えの議員が一定数いるのはしかたない。コアの部分が しっかりしていたらいいんです。教育は執行部の役割でしょうが、私も必要に応じてやりますよ。必死に民主党をつくってきた一人として。
(略歴)
おかだ・かつや 1953年、三重県生まれ。東京大学法学部卒業後の76年、通商産業省(現経済産業省)に入省。90年、衆議院議員に初当選。93年、自民党を離党し、新 生党結成に加わる。98年、新たな民主党を結党。2004年5月~05年9月まで党代表。06年9月から現職。