夕刊フジコラム「ズバリ直球」11年4月6日号
東日本大震災からまもなく1カ月となるが、その被害はあまりに甚大というしかない。改めて、犠牲者のご冥福をお祈りするとともに、被災者の方々には心からお見舞い申し上げたい。
私は先週末、被災地の茨城県と福島県を回り、自治体首長の方々やJA役員、漁協、酪農関係者など、多くの方々から話を聞いてきた。
茨城県では、ほうれん草農家を訪ねた。原発事故の影響で、ほうれん草は茨城全県で出荷停止になっている。
その農家は、ビニールハウスで栽培していて影響は少ないはずだが、露地物と同様に出荷停止を受けていた。後継者の息子さんと一緒に、時間と費用をかけ、丹精込めて育てたほうれん草を廃棄しなければならない。その辛い気持ちを吐露されていた。
県内の野菜から基準値を超える数値が出たといっても、対象30品目を20グラムずつ1年365日摂取しても、CTスキャン1回分にも満たないという。つまり、安全度をかなり厳密に見た基準値なのだ。科学的根拠が最重要であることは言うまでもないが、同時に、過剰反応とならないように、そういった事実もきちんと伝えられるべきだ。
また、県全体を出荷停止とすることにも問題があったと思う。政府は、県単位ではなく、市町村単位で出荷停止の地域を設定・解除する方針を決めたが、この点は評価できる。
福島県では、トマト農家を訪ねた。トマトは出荷停止になっていないのだが、価格や出荷量は半分に落ち、収入は4分の1に激減したという。
出荷停止の場合は補償の対象となる可能性が高いが、風評被害の場合はそれがはっきりしない。農家の方々の不安は大きい。政府はなるべく早く、補償の基準や対象を明確にする必要がある。
こうした風評被害は水産物、さらには工業製品にすら広がりつつある。これは科学的根拠を欠いた一種の差別であり、看過できない。
今回の震災を受け、全国の方々は「自分も被災地の助けになりたい」と感じていると思う。どうか、出荷停止になっていない、被災地の農産物や水産物を優先して買うことを考えてほしい。私もトマトを何個か食べたが、新鮮でとても美味しかった。
さて、与野党各党の実務者は震災発生以来、ほぼ毎日集まり、被災者対策や復旧・復興策などをめぐり、政府からの情報収集とともに、実のある議論を続けている。国難といえる大災害を前に、与党や野党という壁を越えた「国民の代表たる国会議員」として、有益な提案も多い。実務者会合の成果として、近く、幹事長レベルの合同会議に報告し、超党派で政府に提言をしたいと考えている。
こうしたなか、民主、自民両党中心の大連立構想が報道などで取りざたされている。大連立が実現するか否かは現時点では誰にもわからない。まず、お互いの信頼関係が基本だ。一足飛びではなく、震災からの復旧・復興に向けて、補正予算や特別立法を議論していくなかで、信頼関係が深まっていけばいい。
一部メディアが「菅直人首相が交代して大連立へ」などと報じていたが、馬鹿げた話だ。いま大切なことは、菅首相中心にしっかり震災対応、原発対応をしていくことだ。トップ交代は著しい対応の遅れにつながり、その影響を最も受けるのは被災地、そして被災者の方々だ。危機的状況にあるいま、政局的な話をしている時間などない。