拉致被害者の全面調査 透明性を確保した対応望む(夕刊フジコラム「ズバリ直球」14年6月12日号)
北朝鮮が、すべての日本人拉致被害者について、包括的な全面調査を行うことに合意した。福田康夫政権時の2008年にも日朝間で合意していたが、福田首相の退陣で北朝鮮が反故にしていた。野田佳彦政権の後半から非公式の協議が再開され、今回、合意文書を公表するまでこぎ着けた。関係者らの努力を高く評価したい。
今回の合意で注目すべきは、拉致被害者(17人)だけでなく、拉致の可能性が排除できない特定失踪者(約470人)も調査することだ。そして、菅義偉官房長官が「調査期限は1年」と明言したことだろう。
相手が北朝鮮だけに、簡単に信用するわけにはいかないが、被害者の拉致期間は極めて長期にわたり、被害者家族の高齢化も進んでいる。政府は全力で取り組み、チャンスをとらえて交渉を前進させてほしい。
北朝鮮が調査を開始した時点で、制裁措置の一部を解除することを、「またダマされるのではないか」「解除が早過ぎる」などと批判する向きがある。民主党政権が同じことをしたら、自民党の一部から大バッシングを受けただろう。だが、解除するのは日本独自で行っている制裁であり、それが交渉カードとして有効ならば、1つのやり方だと私は思う。
日朝協議で、北朝鮮は朝鮮総連中央本部の継続使用を強く求めたという。総連本部の土地建物は今年3月、高松市の不動産業者が競売で落札し、東京地裁が売却を許可した。総連は東京高裁に執行抗告したが棄却され、現在、最高裁に特別抗告している。
日本側は、今回の合意に総連本部の扱いは含まれていないとしているが、含まれるとする北朝鮮側の主張と食い違っている。私は日本側の説明を信じるが、仮に政府が総連本部も交渉カードとして使うということならば、透明性を確保したうえで、対応してほしい。
すでに、永田町では「何人かが帰ってくるのではないか」といった憶測も流れている。その真偽は分からないが、すべての被害者が早期に帰国できることを、心から期待している。
さて、サッカーW杯ブラジル大会が12日(日本時間13日)に開幕する。前回の南アフリカ大会の直前、私は外相として同国を訪問した。当時のマシャバネ外相から「また、南アに来てください」と言われ、私は「日本代表が決勝戦まで進んだら来ますよ」と答えた。あれから4年がたったわけだ。早いものだ。
前回大会の日本代表はベスト16まで行った。今回の日本代表には、ひ弱さが感じられない。先週の強化試合でも、ザンビアに2点先取されながら追いつき、終了間際に大久保嘉人選手が決勝点を挙げて勝利した。欧州リーグなどで鍛えられた選手たちが、そろってきたのだろう。私も「ひょっとしたら…」と期待を持って、応援したい。
同時に、国民がサッカーW杯に夢中になっているなか、集団的自衛権の行使容認に向けた憲法解釈見直しが、国会審議が深まらないままで閣議決定されないよう、十分に注意していきたい。 (民主党衆院議員)