安保法案、安倍首相は国民への誠意ある答弁を(夕刊フジコラム「ズバリ直球」15年5月14日)
ゴールデンウイークが終わって、後半国会がスタートした。課題山積だが、特に大きなテーマは「安全保障法制の整備」と、労働者派遣法など「労働法制の見直し」だ。
前者については、安倍晋三首相は日本の国会ではまったく説明せずに、先月末の米議会上下両院合同会議での演説で、「戦後、初めての大改革です。この夏までに成就させます」と言い切っていた。まさに国会無視、国民軽視といえ、異常なことと言わざるを得ない。
14日に閣議決定される予定の安保関連法案は、10本の改正法を1つに束ねたものと、新法1つの2本立てだという。集団的自衛権を容認する憲法解釈の変更や、これまで戦闘地域から隔絶された「非戦闘地域」や「後方地域」に限定してきた自衛隊による外国軍隊の後方支援について、「現に戦闘行為が行われている現場」でなければ可能とするなど、多くの論点を含んでいる。戦闘地域に近づくため、自衛官が危険にさらされるリスクが高まり、戦闘行為に巻き込まれるおそれも格段に高まる。
私自身、日本を取り巻く安全保障環境が変化していることは実感している。国民の生命と安全を維持するためには、日米同盟を強化・深化することが重要という認識も持っている。
しかし、安全保障という国民生活に直接関わる法制が、国民の理解のないままに勝手に決まってしまうことは絶対に認められない。これを許せば、わが国は国民の理解と信頼という安全保障の基盤を失ってしまうことにもなりかねない。国会では分かりやすい、しっかりした議論をしていく。安倍首相には国民に対して誠意ある答弁を求めたい。
労働者派遣法など労働法制の見直しについて、安倍首相は「派遣労働者が正社員になれる法案」「時間ではなく成果で評価される」などと説明しているが、法案を見る限り、とてもそうは思えない。「これは、派遣労働者固定法案、残業代ゼロ法案だ」といった厳しい指摘もある。
長時間労働が常態化している現状で、時間の規制を取り払えばどうなるか、誰でも簡単に想像できる。年収制限なく、相当幅広い人が残業代ゼロの対象になる可能性も高い。また、派遣労働をはじめとする非正規雇用は、不安定な働き方の拡大、格差の拡大につながりかねない。これらは日本の少子化にも直結していく。
「多様な働き方」という甘い言葉で、働く者の最低限の規制を無くすことは認められない。そして、子育て世代が仕事と子育てを両立していくためには、安定したメリハリある働き方を実現させる仕組みが不可欠だ。今回の法案には根本的な問題が多すぎる。そういう観点で、国会審議だけでなく、さまざまな活動を通じて世論を喚起していきたい。 (民主党代表)