平成27年9月18日 第189回国会 衆議院本会議 安倍内閣不信任決議案に対する賛成討論
安倍内閣不信任決議案に対する賛成討論
平成27年9月18日
岡田 克也(民主党)
(はじめに)
安倍総理、あなたは集団的自衛権行使を含む安全保障関連法案を参議院特別委員会で強行採決しました。衆参両院での200時間を超える審議の中で、議論を重ねれば重ねるほど法案の矛盾が明らかとなり、政府の答弁も場当たり的で全く説得力のないものでした。この法案が憲法違反であることが明確になりました。圧倒的多数の憲法学者、歴代内閣法制局長官経験者、更には元最高裁判所長官・判事までもが憲法違反と断じました。国会の周りを連日のように法案反対や憲法違反を叫ぶ人々が取り囲み、いままで政治に関心を示さなかった、子どもを連れたお母さんや若いカップル、学生など、普通の人たちが強い危機感を持って自らの意思で反対の声を挙げています。国民の6割以上がこの国会での法案成立に反対し、8割が政府の説明不足を指摘しています。
これは、単なる法案反対ではありません。平和憲法の根幹をなす憲法9条の解釈を根本的に変え、歴代内閣が一貫してできないとしてきた海外での武力行使を可能とすることに、圧倒的多数の国民が反対しているのです。
そういう中での強行採決は、我々の先輩たちが築き上げてきた戦後民主主義の否定に他なりません。安倍総理の暴走を到底認めることはできません。安倍内閣が即時退陣することを求めます。
以下、安倍内閣不信任決議案に賛成する理由について、具体的に説明いたします。
(法案提出に至る手順の瑕疵)
安倍総理は、昨年の予算委員会などにおける私を含めた各党の質問に対して、どのような論理で、どのような場合に集団的自衛権を認めるのか、全く答えませんでした。そして、公明党との与党協議が合意できた昨年7月1日、その日のうちに、いきなり閣議決定したのです。法案の国会提出は本年5月で、それまで内容の説明は一切なされませんでした。
また、安倍総理は4月に米国連邦議会で演説し、夏までの法案成立を明言しました。日本の国会で同様の発言をすれば、立法権を軽視するものとして、大きな問題になったことは間違いありません。それを米国議会で約束したのみならず、そのことが問題ないと安倍総理は強弁しています。このような安倍総理の感覚こそが、三権分立という民主主義の根幹に対する無知、無理解の表れです。
以上、安全保障関連法案提出に至るまでの安倍総理の振る舞いは、立法権を持つ国会の権能の極端な軽視、国民に対する説明姿勢の完全な欠如など、民主主義国家日本のリーダーとしての資質を根本的に欠くものです。このような安倍総理は即刻退陣すべきです。
(憲法違反の安全保障関連法案)
安倍内閣の集団的自衛権の行使容認は、憲法違反以外の何物でもありません。
まず、安全保障関連法案の前提となっている憲法解釈の変更は、集団的自衛権行使を明確に否定した昭和47年政府見解と真逆の結論を導き出しました。にもかかわらず、「基本的な論理の枠内」と詭弁を弄したり、そもそも集団的自衛権を視野に置いていない砂川事件判決を挙げて、最高裁判決と軌を一にすると強弁したりと、便宜的・意図的な憲法解釈の変更です。これらは明らかに法的安定性を無視するものであり、かつ立憲主義に反するものです。
また、法案にある存立危機事態は、その要件・定義が極めて曖昧です。本来、武力行使の可否を判断する極めて重要な要件・定義であるにもかかわらず、論理的・具体的に説明できないことが、200時間の審議の結果、はっきりしたのです。
安倍総理は、存立危機事態の認定は、最終的には時の内閣が客観的・合理的に判断すると答弁しました。しかし、これでは、我が国が武力行使できるか否かという判断を時の内閣に白紙委任するも同じであり、これもまた立憲主義に反しています。
このように、二重、三重の意味で憲法に違反する集団的自衛権を行使しようとする安倍内閣は即刻退陣すべきです。
(繰り返される不正確、不誠実な国会答弁)
安倍内閣の不正確、不誠実な国会答弁も目に余るものがあります。
例えば、ホルムズ海峡の機雷掃海について追及され、総理は最近、現実問題として発生することを想定していないと答弁しました。これは、極めて不誠実な答弁です。武力行使に該当する機雷掃海が可能となるという事実は何ら変わっていないからです。
邦人輸送中の米艦防護も然りです。総理は記者会見で自ら、赤ん坊を抱える母親が乗った米国艦船のパネルを用いて、国民に訴えかけました。国会でも同じ説明を何度も繰り返しました。しかし、米国の艦船に日本人が乗っているかどうかは、存立危機事態の認定や集団的自衛権の行使には直接関わりがないということが、国会答弁によって判明しました。
日本国民の命と平和な暮らしがかかっている極めて重大な法案であるにもかかわらず、安倍総理をはじめとする政府の説明は信じられないほどに不正確、そして不誠実です。このような答弁を繰り返す安倍内閣を断じて容認するわけにはいきません。安倍内閣は即刻退陣すべきです。
(平和主義の揺らぎ)
憲法9条の平和主義の根幹をなす専守防衛や海外派兵の禁止についても、政府は詭弁を弄し続けています。
相手から武力攻撃を受けたときに初めて必要最小限の防衛力を行使する専守防衛の考え方は、我が国防衛の基本方針です。自国が攻撃を受けていないにもかかわらず武力を行使する集団的自衛権が、専守防衛の考え方と矛盾することは誰の目にも明らかですが、安倍総理は、専守防衛は何ら変わらないという驚くべき答弁を繰り返しています。
個別的自衛権行使にあたり、海外派兵は認められないことも国会審議を通じて確立した基本方針です。安倍総理は、集団的自衛権の場合も、必要最小限度の実力行使を超えるため海外派兵は憲法上許されないことに変わりないとしています。しかし、日本自身に対する武力攻撃を排除する個別的自衛権と、他国に対する武力攻撃を排除する集団的自衛権それぞれの必要最小限度が同じであるはずがありません。集団的自衛権の行使を認めれば、他国の領土、領海、領空であっても、新三要件に合致する限り、自衛隊を派遣できるようになるのです。その歯止めはどこにもありません。
更に、海外の戦争に巻き込まれることは絶対にないと総理は繰り返し答弁しています。しかし、日本が武力攻撃を受けていない国に対して武力行使をすれば、反撃を受ける可能性が高まることは、誰が考えても明らかです。
こういった平和主義の根幹に関わる基本的な考え方を根底から覆しているにもかかわらず、国民に真実を語らない安倍内閣は、国民に対してあまりにも不誠実です。安倍内閣は即刻退陣すべきです。
(危機に瀕する憲法と立憲主義)
「日本国憲法はGHQの素人がたった8日間で作り上げた代物」。いまやあまりにも有名となった安倍総理の憲法観です。我々は、憲法あるいは立憲主義に対する安倍総理の姿勢に根本的な疑念を持ちます。国の最高法規である憲法の役割は、国民の自由と権利を守るために国家権力を制約するものであるという基本原理を、安倍総理は理解していないということです。
だからこそ、長年積み上げられた憲法解釈を自分に都合よく、いとも簡単に変更し、武力行使の可否という国家の存立に関わることの基準すら極めて曖昧な法案を強引に成立させようとしているのです。
自民党の憲法改正草案を見ると、制約なしに幅広く集団的自衛権を行使することが明記されています。限定的集団的自衛権の行使は、そのための一里塚に過ぎないのです。
いま、私たちの前には2つの道があります。1つは、自民党がその憲法改正草案に掲げるように、集団的自衛権を何ら制約することなく行使できる国です。もう1つは、憲法の平和主義の理念を活かし、海外での武力行使には慎重である国です。どちらの道を私たちは選ぶのでしょうか。
自国の防衛のために武力を行使することはあっても、海外での武力行使はしないというのは、戦後70年、日本が築き上げてきた国家としての大方針です。それを十分な国会での議論もなく、国民の理解もなく、一内閣が勝手に変えていいはずがありません。安倍内閣は即刻退陣すべきです。
(安倍内閣不信任案に賛成を求める)
憲法と平和を守るため、いまこの瞬間も、国会周辺で、全国各地で、安全保障関連法案に反対する多くの人々が必死に訴えています。そして、その後ろには、同調する圧倒的多数の国民がいます。国民の8割、1億人の日本人が政府の説明は不十分と言い、6割、7000万人以上の国民が今国会での法案成立に反対しています。この本会議場で法案の審議を始めた5月と比べても、この数は一貫して変わっていません。もう答えは出ているのです。この法案は廃案にすべきなのです。それが長い国会審議を経た国民の結論です。
総理は、デモや集会に参加する人々など、日本人のほんの一握りに過ぎないと考えているのかもしれません。しかし、それは大きな間違いです。普段政治に関心がなかった普通の人たちが全国で、自らの意思で立ち上がって、声を挙げているのです。戦後70年、平和で豊かな日本をつくるために努力された多くの先人たちの声でもあります。そして、日本を引き継ぐ未来の日本人たちの声でもあるのです。
この本会議場にいる我々のみが、安倍総理、安倍内閣の暴走を止めることができるのです。いまから採決される内閣不信任決議案に賛成することは、憲法の平和主義を守ることであり、日本の立憲主義、民主主義を守ることです。
自民党の皆さん、公明党の皆さん、皆さんは本当に平和主義、立憲主義、そして民主主義を大きく傷つけることに加担するのですか。この本会議場のすべての皆さんに訴えます。1人ひとりがいま一度、私たちの未来のためになにをすべきか、静かに思いを巡らせてください。心ある与野党議員の皆さんが、安倍内閣不信任決議案に賛成していただくことを強く期待し、私の賛成討論といたします。