NPT─条約の不平等性などそもそも論に戻れば深刻な問題に
先週のことになりますが、ニューヨークの国連本部で行われていた「核兵器不拡散条約(NPT)運用検討会議」が合意文書をまとめることができずに終わってしまいました。非常に残念なことだと思います。
この運用検討会議は5年に1回開催されるもので、約1カ月間、世界各国が集まって議論をして、1つの文書をまとめることになっています。
5年前、私が外務大臣の時には、「核なき世界」を目指そうというオバマ米大統領のイニシアティブもあり、日本をはじめ各国が協力をして、何とか合意文書をまとめることができました。
10年前には、国連をそもそも重視しないブッシュ政権のもとで、私に言わせれば、初めからアメリカはまとめる気がなかったと言われても仕方のないような対応で、文書がまとまっていませんでした。それが5年前にはまとまったということです。
そういう中で、今年の運用検討会議は非常に注目されたわけですが、残念ながら、文書をまとめるには至りませんでした。
直接の理由は、中東に非核地帯を作るという、特に中東諸国を中心とした核を持たない国々の考え方と、中東に核を持たないということは、要するにイスラエルの核保有をやめさせることにつながるわけで、それに反対するイスラエルあるいはアメリカとの間のせめぎ合いの問題。簡単に言えば、そういうことだと思います。
5年前には、この問題を話し合う中東会議を開催するということを文言に盛り込んで、そして合意文書ができたのですが、結局5年間、その合意は果たされることなく、全く進展がない状況の中での今回の会議でしたから、私は最初から厳しいと思っていましたが、残念ながら、その予想どおりとなってしまいました。
日本の外務省は、かなり頑張ったということは言えるかもしれません。特に被爆地に世界の指導者が訪れるべきだという提案が、中国・韓国の反対でボツになったときには、それを少し表現を変える形で文書に残すということで、合意することができました。
しかし、この最終文書の取りまとめにあたっては、日本の時限を超えたところでまとまらなかった。つまり、アメリカとイスラエル対中東という構図の中で、日本の外務省も力及ばなかったということだと思います。
核不拡散条約というのは、一種の不平等条約だと言われています。つまり、条約上、核保有を認められているのは5つの国で、今の常任理事国に重なりますが、そこは核を持つことが認められる。そして、それ以外の国は核兵器を持てないということです。
ただ、核を持っている国もその見返りに、核を減らす努力が義務付けられているというのが核不拡散条約です。
その核を持った国々の努力についても、米ソの戦略核の削減についての合意が5年前になされて以降、具体的な進展はなく、かえってアメリカとロシア間での様々な対立が、この核軍縮を進めることに対して非常に難しくしてきたということもあります。
私が常々問題視している中国の核。これも全体を軍縮しないといけないなかで、核の増強を図っているのではないかと言われているわけで、こういう状況が続きますと、元々のこの条約の不平等性というものが、さらに明らかになってしまう。
なぜ5つの国だけが特権的に核を持つことを認められているのかというそもそも論に議論が戻るということになると、様々な深刻な問題が出てくると思います。
大変残念なことだったと思いますし、日本も、私が外務大臣だったときに、核を持っている国と持たない国の中間的な存在が必要だということで、有力な国々の間でNPDI(軍縮・不拡散イニシアティブ)という組織を作りましたが、今回も各大臣が集まって、日本の岸田外務大臣がその中でリーダーシップを取っていただいたと思いますが、そういう中で進めてきただけに今回のことは非常に残念でした。
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