米国産牛肉輸入問題
輸入再開は拙速、 政府の責任は極めて重大
日本と同様のトレーサビリティー(生産履歴)を義務付けるべき
先月20日、米国産牛肉から特定危険部位(SRM)の背骨が発見され、政府は米国からの牛肉輸入を全面的に停止しました。危険部位は、人への感染のおそれがあるBSE(牛海綿状脳症)の病原体が蓄積しやすいため、日本向け輸出牛肉から除去することが日米間の合意で義務付けられています。
政府は昨年12月、生後20カ月以下の若い牛に限定し、かつ米側がSRMを取り除くことを条件に輸入を再開しました。今回の違反は、米国のSRM除去の体制が不十分であることを裏付ける結果となりました。
他方、20カ月齢以下の判定方法についても決して十分とは言えません。
米国の食肉処理施設では、農務省の格付官が、肉の色、骨の成熟度、永久歯の生え方を目で見て肉質を格付けしています。米政府は、これを「生理学的成熟度による月齢判定」と位置づけ、サンプリング調査の結果を基に、「この手法を用いれば、20カ月以下の牛肉を見分けることが可能である」と結論づけています。日本向け牛肉の年齢判断もこの方法を採用しています。
しかし、「肉の美味さを判断する手法」を、「安全を確保する手法」に転用しているのです。日本国内であれば到底考えられないことです。肉や骨などを目視しただけでは科学的な月齢判定は困難です。牛が成長するスピードは、種類、個体差、発育コントロールなどによって変化します。人間に置き換えても、人によって体の成長に差がつくのは自然であり、法医学による人骨鑑定でも年齢は大まかな推測しかできません。つまり、精度の高い月齢判定を行うには、生産記録(牛の生年月日と生産地のデータ)による確認が不可欠だということです。
日米両政府は、BSEが人に感染して発症する変異型クロイツフェルト・ヤコブ病(vCJD)の恐ろしさを認識し、慎重を期して安全性を評価すべきです。変異型ヤコブ病は、予防法も治療法もなく、発症すれば確実に死に至ります。英国では、1995年からの10年間で153人が亡くなっています。発病すると、精神に異常をきたしたり、体が思うように動かなくなったりします。やがて、寝たきりになり、筋肉のまひで食事がとれなくなり、発症から約1年で死亡します。発症年齢の平均が29歳と、若者にリスクの大きい病気であることも特徴です。英国で大きな社会問題になったことは皆さんご存じのことと思いますが、同じ過ちを繰り返すことがあっては断じてなりません。
今回の危険部位混入問題は、食の安全を「米国任せ」にしたことが大きな要因であり、それを決めた日本政府の責任は極めて重大です。日本は「米国の責任」と主張していますが、日本政府にも、輸出プログラムを厳守させるという責任があり、国民・消費者に対して食の安全を確保するという責任もあります。結論先にありきで輸入解禁を急いだことは拙速であったと言わざるを得ません。
現在、外国産牛肉の大半は、原産国が表示されていない加工品や外食・給食の材料です。日本における牛肉消費量の6割が輸入牛肉であることを踏まえると、全ての食品・食材について原産国表示を義務付けることが急務です。我が党は昨年10月、米国産牛肉の輸入再開に先がけ、輸入牛肉に日本と同様のトレーサビリティー(生産履歴)を義務付ける原産地表示の義務化法案(トレーサビリティー法案)を提出しました。この法案を早期成立させ、再発防止と食の安全の確保に取り組んでいくことが必要です。
皆さんはどう思われますか?
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